将来変更が予想される金融資産は「遺言書」でどのように書いたら良いのですか

遺言者が高齢の場合、遺言書に書かれた金融資産の内容が変更されることは少ないと思います。しかし、遺言者がまだ若い場合や金融資産の今後の変動が見込まれる場合、遺言書の書き方に工夫が必要になります。


( 遺言書における金融資産の「特定」について )

通常、預貯金などを遺言書に書く場合は「金融機関名、支店名、科目、口座番号」などで金融資産を特定します。しかし、遺言者の有する金融資産は、例えば、定期預金が満期になり普通預金に入金されたり、社債や投資信託が償還されて証券会社の預り口座に入金されるなど変動が発生する場合があります。

遺言書に書かれた金融機関や預貯金の種類、口座番号などが変わってしまうと遺言書の記載と合わなくなります。遺言書に記載された預貯金などが遺言の効力発生時(遺言者が亡くなったとき)に存在しなければ遺言書は該当部分について「撤回」されたものとみなされます。

遺言書から撤回された金融資産は遺言書による相続手続を行うことができなくなり、相続人全員で「遺産分割協議」を行って誰が相続するかを決める必要があります。遺言者としては、金融資産の帰属先を遺言書で明確に決めておきたかったわけですから、遺言者の意図に反してしまいます。

そこで、このようなことにならないためには「遺言書」書き方に工夫が必要になります。金融資産の変動が見込まれる場合は、金融資産の変動にも対応できるように遺言書を書いておく必要があるのです。


( 遺言書において変動する金融資産の特定の仕方 )

具体的には、遺言書の内容をある程度「包括的」に書いておくということです。金融資産の特定という目的からすると、できるだけ詳細に金融資産の明細を記載した方が特定されやすく、遺言の執行がやりやすくなります。

しかし、特定され過ぎれば、その後の変動に弱くなります。遺言書の中には預貯金の残高まで記載する場合がありますが、ここまで詳細に特定すると、その後の変更が出来なくなります。遺言者の年齢や保有している金融資産の種類、今後の資産運用の方針などを勘案して、「包括」具合を決める必要があります。遺言者毎に最適な包括度合いは異なってくると思います。

遺言者が証券投資をしている場合、特定の証券会社で株や社債、投資信託などを売買すると思います。また、遺言者は遺言後も特定の証券会社を通して証券投資を続けることが普通です。株の売却取引や社債などの償還期日を迎えれば、株式の売却金、社債などの償還金が証券会社の預り口座に入金されます。新しい投資用の商品銘柄が決まれば、預かり口座から出されて再投資されます。


このように遺言者が証券投資をしている場合は、具体的な金融資産を特定して遺言書に書くことは困難となります。この場合は、次の例のように証券会社レベルまで特定を包括的に記載した方が良いと思います。遺言者の状況に応じて特定レベルを判断する必要があります。

(遺言書の記載例1)

第○条  遺言者は、○○証券○○支店に対する遺言者名義の取引口座 (口座番号123456) により保有する預り金、株式、公社債、投資信託受益権その他の金融資産すべてを長男○○○○ (昭和○年○月○日生) に相続させる。


遺言者が銀行や郵便局などに複数口座を保有している場合は、次のような書き方も考えられます。

(遺言書の記載例2)

第○条  遺言者は、次の金融機関に対する預貯金について、遺言者の有する金融資産の全てを遺言者の妻○○○○ (昭和○年○月○日生) に相続させる。

(金融機関の表示)

1. ○○銀行○○支店
2. ○○信託銀行○○支店
3. (株)ゆうちょ銀行
 ‥‥‥

銀行名だけで特定すると該当銀行の全店の名寄せを調査する必要があるので遺言の執行が面倒になります。支店名は入れておいた方が無難だと思います。


また、例えば、定期預金の場合、現在のように「ゼロ金利」政策が続いている場合は、どの金融機関も金利が低いため金融機関を変更することは少ないと思います。しかし、ゼロ金利政策が変更され金利が上昇する局面になると金融機関毎に金利差が生まれます。より有利な金利を求めて預金の移し替えが発生します。この場合は、将来どの銀行に預け替えが発生するかまで予想することは難しいかもしれません。

もちろん、特定の金融機関の特定の金融資産について将来変動しない自信があれば、個別具体的に明細を特定して遺言書にに書いておいた方が遺言の執行は楽になります。


(まとめ)

金融資産を遺言書に書く場合、遺言書のマニュアル本やネット情報のひな形見本を参考にして書いてしまうと遺言書の記載が無効になってしまうことがあります。高齢で金融資産の変動が見込まれない場合であればそれで良いのですが、変動が想定される場合は、工夫が必要になります。

金融資産の書き方も詳細に特定するレベルから包括的に書くレベルまで色々な書き方が考えられます。統一的なひな形見本は難しいと思います。あまり包括的に書き過ぎれば、遺言の執行段階で苦労します。その方に合った最適な特定レベルを検討してもらう必要があります。

 

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