相続した「空き家」の早期処分や「若い世代への資産移転」を優遇する税制改正が令和6年1月より開始しています

相続した実家などの「空き家」について、どのようにしたら良いか悩んでいる方は多いと思います。「空き家」が現在住んている場所から遠く離れている場合、管理するのも大変な上に継続的に固定資産税を支払っていくことも負担となります。


「空き家」は相続人として負担となるだけでなく、国レベルで考えた場合、空き家として放置することは経済的損失となります。空き家を有効利用したり、空き家を取り壊して別の建物を建てて土地を有効利用することが望ましいことになります。

そこで、国は税制面から「空き家」の早期処分を推進しようとしています。具体的な内容を見て行きたいと思います。

(「空き家」の早期処分を推進する施策 )

(1) 譲渡所得税の特別控除 (通称「空き家特例」) 制度

相続した「空き家」を売却して得た利益のうち、最大3,000万円まで所得税と住民税(20.315%)が課税されない仕組みです。令和5年までの特例でしたが、2027年末まで4年間延長されました。売却で3,000万円以上の利益が発生した場合、600万円超の減税効果が見込めます。

この制度は元々旧耐震基準で建築された家屋の地震対策として開始したものです。旧耐震基準で建築された建物の耐震化を進めるとともに耐震化が難しい場合は建物を解体して更地にすることを目指していました。そのため、特別控除を受けるために必要となる要件(条件)について、そのような定めとなっています。


< 相続「空き家」の特別控除を受けるための要件(条件) >

① 亡くなった人が1人暮らしの自宅であったこと。
② 1981年(昭和56年)5月31日以前に建てられた一戸建てであること。
  ※旧耐震基準で建築確認が行われた建物のことです。
③ 相続発生から売却まで空き家であったこと。
④ 土地と建物の両方を相続していること。
⑤ 相続から3年目の年末までに売却していること。
⑥ 売主か買主が建物について耐震リフォームか解体をすること。
⑦ 売却代金が1億円以下であること。

古い建物の場合は、建物を解体して更地として売却すれば良いことになります。昨年までは、耐震リフォーム工事や建物の解体工事は売主側で行う必要がありましたが、より使いやすくするために買主側が売却の翌年2月15日までに行った場合も対象になりました。


(2) 固定資産税の「6分の1特例」の厳格化

空き家を相続しても住宅が建っているので固定資産税は更地の場合に比べて6分の1で済みます。このため、相続した古い実家を節税のためそのままにするケースが多いと思います。

古い空き家が近隣住民などに悪影響を及ぼさない場合は問題ないのですが、相続から時間が経過して家屋の管理状況が悪化すると窓や屋根が壊れて管理不全状態になります。地震による倒壊や火災の発生、悪臭、ネズミの発生など近隣の住環境にも重大な影響が発生します。

そこで、従来より管理不全家屋の対策として制定された「空き家対策特別措置法」がより厳格に改正されました。市町村が「管理不全空き家」と認定し改善が見られなければ、6分の1の税制優遇が受けられなくなるというものです。

これにより、相続した不動産の早期処分の促進が図られることになります。


( 高齢世代から若い世代へ早期に資産移転を促す施策 )

① 「暦年贈与」のメリット減少

年間110万円までの贈与が非課税になることを利用して、毎年贈与を継続していくことにより相続税の節税をはかることを「暦年贈与」といいます。この暦年贈与に対して、節税効果を減じる改正がなされています。

相続が発生した場合、相続税の対象財産として、亡くなった時点の財産に生前贈与した財産を加算する(「持ち戻し」と言います) 必要があります。全ての生前贈与を持ち戻す必要はなく、亡くなる前の一定期間のものを持ち戻す必要があります。この期間が従来は3年であったものが7年に延長されました。

これにより、亡くなる相当前から暦年贈与を行わないと相続税の節税効果が生じにくくなりました。これは、国による相続税に対する「節税対策封じ」とも考えられますが、次世代に贈与をするのであれば小口で行うのではなく早期に大口で行ってほしいという政策の表れと見ることもできます。


② 相続時精算課税のメリット拡大

若い世代への資産移転を促す効果のある「相続時精算課税」制度が改正されています。相続時精算課税とは、高齢世帯 (60歳以上) から18歳以上の子や孫への2,500万円までの生前贈与を非課税にするというものです。

ただし、この制度も「持ち戻し」が必要になります。つまり、生前贈与した財産は、贈与者が亡くなったときに相続財産に持ち戻して (加算して) 相続税を計算することになります。そのため、相続財産の総額に変更がなければ、相続時精算課税を選択しても節税効果はありません。

しかし、相続財産の中で「土地」や「株式」など将来値上がりが見込める財産については、生前贈与した時点の評価額で相続税の計算を行うことができますので、値上がり分だけ相続税の節税効果があります。

ただ、課題として相続時精算課税を一旦選択すると「暦年贈与」を活用することができなることでした。親から子供が不動産を相続時精算課税を利用して贈与された場合、その後は親から子への財産の移転(金銭の贈与など)について、厳密に言えば、全て贈与税が発生することになります。

この点が不便で活用を躊躇(ためら)う場合がありました。今回の税制改正で「暦年贈与」は従来同様、使用できないものの、新しい制度として年110万円の基礎控除枠が新設されました。これにより、従来、不便を感じていた制度利用後の親から子への贈与についてもあまり気にする必要がなくなりました。

また、新設された110万円の非課税枠は、暦年贈与とは別の制度ですので、持ち戻す必要もありません。制度利用後亡くなるまで毎年の贈与額が110万円以下であれば暦年贈与より節税効果があります。

尚、相続時精算課税を使用した贈与を行った場合は、翌年の3月15日までに税務申告が必要になりますので注意して下さい。


③ 「教育資金の一括贈与」や「 結婚・子育て資金の一括贈与」の期間延長

1人1,500万円までの非課税枠が認められる「教育資金の一括贈与」制度は2026年3月末まで延長されました。

1人1,000万円までの非課税枠が認められる「結婚・子育て資金の一括贈与」制度も2025年3月末まで延長されました。

これらも若い世帯への資産移転を早期に行うための施策として行われています。


(まとめ)

今回の税制改正では、若い世帯への財産の早期移転を促進したい政府の狙いが感じられます。高齢者の持つ財産のうち、若い世帯に早めに移転することによって有効活用できる機会を増やしていきたいのでしょう。

高齢者にとって必要な財産に手を付けることなく、遊休資産を早めに次世代に移転することによって、より有効に活用して日本国の活力向上を図っていきたいものと思われます。

 

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