「遺言」の代用になる「死因贈与契約」のメリットは何ですか

相続問題に関心のあるシニアの方が増えています。関心は大きく2つに分かれます。1つは「相続税」に関する事柄です。ただ、相続税を実際に申告する必要のある人は相続全体の1割程度です。つまり、9割の方にとって関係ない話です。しかし、心配されている方が意外と多いのです。

他の一つは「相続争い」に関する事柄です。亡くなる本人よりも家族などの将来相続人になる方の間で不安に思っていることが多いのです。特に自宅などの特定の財産を誰が相続するかについて他の相続人と上手く話し合いができるか心配に思っている場合があります。

後者の不安を解決する方法として「遺言書」の活用が注目されています。本人が生前に遺言書を作成することによって、亡くなった後の無用な「相続争い」の発生を防ぎたいと考えているからです。

ところで、遺言書には「自筆証書遺言」や「公正証書遺言」など色々な方式で作成することができますが、それぞれにメリットやデメリットがあります。そんな中、遺言書と同じような法的効力を持つものに「死因贈与契約」があります。あまり聞いたことのないものだと思いますので今回取り上げてみたいと思います。

遺言書を書く人


(「死因贈与契約」とは )

「死因贈与契約」とは、「贈与者」(財産を与える人) が生きているうちに「受贈者」(財産をもらう人)との間で「贈与契約」を締結して、贈与者が亡くなったら効力が生ずる贈与契約です。「死因」贈与と耳慣れない言葉ですが、亡くなったら贈与するという意味です。

例えば、「自分が亡くなったら、この財産をあげます」という契約です。契約ですから、通常は贈与者と受贈者が契約書にサインをして行います。法律的には口約束でも良いのですが、後日の紛議を避けるために契約書を作成します。

また、契約ですから贈与者が勝手に行うことができません。受贈者も納得して契約に合意しなければ契約は成立しません。


(「死因贈与契約」のメリット -「遺言」と対比して –  )

遺言書と比較して死因贈与契約のメリットは、一言で言えば、自由度が高いということです。遺言書は相手方の同意を得ることなく遺言者が単独で作成できますが「作成にあたって」及び「作成後の取り扱い」について法律で厳格な取り決めがあります。この取り決めを1つでも守らないと遺言書が無効になってしまう恐れがあります。

具体的には、「自筆証書遺言」の場合は、遺言の全文を「自書」する必要があります。最近の相続法の改正で相続財産の明細については手書きでなくても良いとされましたが、遺言書の本文は自書する必要があります。また、遺言書に書くべき内容についても厳格に定められています。( 作成日、遺言者の署名、捺印など ) さらに、本人が亡くなった後、遺言書を家庭裁判所に持ち込んで「検認」手続を行う必要があります。封のある遺言書は勝手に開封することはできず、家庭裁判所において開封することが必要になります。

一方、「公正証書遺言」は公証役場で公証人によって作成してもらう必要があります。作成にあたって証人2人の立会が必要になります。公証人や証人に対する報酬が発生するため一定の負担が発生します。

最近は法務局による「自筆証書遺言の保管制度」が開始され、自筆証書遺言を法務局で保管してくれるサービスが開始されています。この場合は、自筆証書遺言でも検認が不要になります。但し、遺言書の保管依頼や亡くなった後の遺言情報の請求などにおいて必要な書類を揃える必要があり一定の手間と費用がかかります。


これに対して、死因贈与契約にはこのような制約はありません。遺言書と違って贈与契約書はパソコンで作成することができます。書き方に法律的な制約はありません。作成にあたって証人の立会も必要ありません。余分な費用の発生はありません。亡くなった後、贈与契約書を裁判所に持ち込む必要もありません。

高齢で遺言書を自筆で書くことが難しい場合でもパソコンで作成した贈与契約書で行うことができます。このような点が「死因贈与契約」のメリットと言うことができます。

 


( 死因贈与契約書の見本 )

死因贈与契約書の簡単な「ひな形見本」を示します。

<死因贈与契約書>

第○条 山田太郎は、山田太郎の有する一切の財産を、妻山田花子に対して贈与することを約し、山田花子はこれを承諾した。

第○条 前条の贈与は、山田太郎の死亡によって効力を生じ、かつこれと同時にその一切の権利が当然に山田花子に移転する。

令和○年〇月○日

贈与者  住 所   山田太郎    印   

受贈者  住 所   山田花子    印

※ 契約書には収入印紙200円を貼って割り印をします。
※ 署名は自署が望ましいと思います。
※ 印は実印で押印し、それぞれの印鑑証明書を契約書に合綴または添付しておくことが望ましいと思います。


(「死因贈与契約書」作成時の留意点 )

次に死因贈与契約について作成時の留意点を見て行きます。

「死因贈与執行者」の指定

死因贈与契約書の内容は上記のような「ひな形見本」で良いのですが、相続人の中に贈与について快く思っていない人がいる場合は、「死因贈与執行者」を指定しておいた方が良いと思います。

贈与者である山田太郎さんが亡くなったとき、相続財産である不動産や預貯金の相続手続を行う必要がありますが、契約した一方当事者の山田太郎さんは既に亡くなっています。そのため贈与契約の実行 (執行) は、山田太郎さんの相続人全員と山田花子さんで行う必要があります。このとき、贈与契約に不満の相続人がいると手続きが進まない恐れがあります。そこで、贈与契約書に予め贈与契約の執行者を定めておけば、その方と山田花子さんで贈与の実行 (執行) を行うことができます。

死因贈与執行者の定め方の「ひな形見本」を次に示します。どこまでの権限を死因贈与執行者に与えるか悩むところですが、できる限り包括的に何でもできるように定めておいた方が無難だと思います。

<死因贈与執行者>

第○条  山田太郎は次の者を死因贈与執行者に指定する。
 住 所  愛知県名古屋市南区〇〇町〇〇番地○号
 氏 名  山田次郎
 生年月日 昭和〇年〇月〇日生
 職 業  会社員 

2 山田太郎は、死因贈与執行者に本死因贈与の執行を依頼し、そのために必要な一切の権限を付与する。

3 死因贈与執行者は、遺産につき調査・収集・管理の権限を有するほか、不動産について所有権移転登記手続等をする権限、預貯金債権、株式、債権、投資信託等の金融資産について名義変更・解約及び払戻し等をする権限、金銭を分配する権限、貸金庫があれば貸金庫の開扉、内容物の引取り、貸金庫契約の解約等をする権限、その他本死因贈与契約を執行するために必要な一切の処分・手続・行為をする権限及び換価困難な財産を適宜無償にて処分する権限を有する。死因贈与執行者は、その権限の行使に当たり、他の相続人の同意は不要とする。

※ 贈与者、受贈者の置かれた状況に応じて、適宜、権限内容を追加・変更する必要があります。


遺留分への配慮

死因贈与契約によって相続財産を特定の相続人に死因贈与した場合、他の相続人の「遺留分」を侵害する場合があります。通常の相続と同様に他の相続人の「遺留分」に対する配慮は必要になります。遺留分を請求された場合に備えて必要な金銭を考えておく必要があります。

負担付贈与の場合

贈与契約の内容として、「一定の負担と引換に贈与する」とする場合があります。例えば、「〇〇の面倒を見る代わりに贈与する」ような内容の贈与です。これを「負担付贈与」と言います。

負担付死因贈与となる場合は、色々と考慮することがありますので専門家とよく相談して下さい。本事例のような単純な贈与ではないため、負担が守られなかった場合の対応等を考慮する必要があるからです。尚、贈与契約書に貼る印紙代についても負担に応じて必要な金額の印紙を貼付する必要があります。

課税上の取り扱い

本人が亡くなったとき自宅などの不動産の名義変更 (相続登記) を行いますが、通常の相続の場合は、「登録免許税」が固定資産税評価額の4/1000で済みますが、死因贈与契約を原因とする場合は、20/1000となり、通常の相続時に比べて高くなります。

相続税についても相続税の非課税範囲を越えれば申告する必要があります。贈与契約を基に納税をするのですが、贈与税ではなく相続税となります。

仮登記することができます

死因贈与契約によって相続財産の取得が約束された場合でも、他の相続人との関係によっては安心できない場合があります。不動産などの相続登記は「早い者勝ち」の側面があるからです。

そこで、死因贈与契約によって得られた権利を保全するため、不動産については「仮登記」を行うことができます。本人が存命中であっても予め自宅などの不動産の名義について、受贈者名義の仮登記を行うことができます。本人が亡くなった時点で仮登記を本登記にすることができます。但し、考慮点もありますので詳しい事は司法書士にお尋ね下さい。

 


(まとめ)

遺言に代わる法的な仕組みとして、あまり馴染みはないと思いますが、「死因贈与契約」という方法があります。遺言書では実現できないメリットがありますので、検討してみる価値はあると思います。

特に字が書きづらい高齢者の場合、パソコンで作成できますので自筆証書遺言より簡単に作成できます。また、不動産に仮登記を入れておけば権利を保全することができます。

興味がある方は、遺言書に比べて少し難しい点もありますので、相続を専門にしている弁護士や司法書士にお尋ね下さい。

Follow me!