「同族会社の株式」を遺言で後継者に全て相続させる場合、相続法の改正により「遺留分」にはより注意が必要になりました

同族会社で社長が自社株の100%を所有していることがあります。社長には長男、次男の2人の子供がいる場合で、長男は事業に不向きだと考えて、会社の後継者は次男を指名したいとします。このとき、従来は遺言書で「遺産全部を次男に相続させる」内容の遺言書を作成しておけば、長男の遺留分を気にすることなく自社株を事実上承継させることが可能でした。しかし、令和元年7月の相続法の改正によって長男の遺留分に配慮する必要が出てきました。

長男も自分に経営能力がないことや経営に不向きなことを自覚していて弟が経営を引き継ぐことに何ら異存がない場合は問題は生じないと思います。しかし、長男としての相続権がある以上、少なくとも「遺留分」相当の自社株は相続してしかるべきだと考える場合、長男としての遺留分を主張することになります。


( 同族会社の自社株承継と遺留分請求について )

相続法改正前は、遺言書で「遺産全部を次男に相続させる」と書いてあれば、相続人が長男と次男の場合、社長である父親の財産は全て次男に相続されます。不動産や現預金、自社株など全てが次男に相続されます。

但し、長男には法定相続分 (1/2) の半分の遺留分 (1/4) があります。そこで、長男が次男に対して遺留分請求 (「遺留分減殺請求」) を行った場合、遺留分である1/4の遺産が長男のものとなります。

このとき、不動産は遺言書による相続によって次男名義となっていますが、遺留分減殺請求によって、登記名義は「持分3/4次男 持分1/4長男」の共有名義となります。現預金などは全体の1/4が次男のものとなります。現預金は計算上簡単に分割できますので分割されます。

問題は自社株についての取り扱いです。例えば、亡くなった社長である父親が自社株の100%である100株を所有していたとします。遺言書によって、一旦、次男に100株が相続されますが、長男が遺留分減殺請求をすると100株の株式を次男と長男で3対1の割合で「準共有」することになります。

※ 形のあるものは共有と言いますが、目に見えない権利等の共有は準共有といいます。

ここで注意しなければならないことは、準共有状態は株式1株ごとに生じるということです。100株のうち75株を次男が所有して、残り25株を長男が所有することにはならないのです。株式1株それぞれについて次男と長男で持分4分の3と持分4分の1の準共有状態になるのです。

結果として、自社株は長男が遺留分減殺請求をしても、次男と長男で持分4分の3と持分4分の1で準共有状態での所有になるのです。


( 会社経営の要である株主総会での議決権の行使方法 )

会社の経営にとって重要な事柄は全て「株主総会」で決定します。つまり、会社の経営にとって株主総会での議決権の行使が会社支配にとって最も重要な事柄となります。

ところで、準共有状態となった株式について株主総会での議決権の行使方法はどのようになるのでしょうか。議決権の行使には、①議案について賛成か反対かという内容を判断すること、と ②判断した内容を誰が実際に総会で議決権を行使するのかということ、の2つの側面があります。

この①②の取り扱いについて、株式が準共有状態にあるときどのように取り扱うのかが問題になります。

①の「議案の賛成反対の判断」は、民法の共有に関する定めにより、株式の「管理行為」とされ持分の多数決で決定することになります。この場合、1株単位の全ての株式について次男が4分の3の持分を所有していますので、全ての株式について次男の意向が株主全体の意向となります。

②の「議決権の行使方法」について、株式が準共有されている場合、議決権を行使するには原則として株主側から会社に対して議決権を行使をする者を1名を通知する必要があります。この議決権を行使する者を決定する事柄も共有株式の「管理行為」とされていますので、持分の多数を有する次男が決めることができます。

このように株式が準共有されている場合で持分に差がある場合は、持分の多数を持っている者が株主総会での議決権行使の全てを決することができるのです。

もちろん、株主総会での議決行使はできなくとも株式の準共有者は株主であることには変わりがないため、会社の「利益配当」については持分に応じて享受できるはずです。ところが、多くの同族会社では経理上赤字経営にしており配当は行っていません。

会社からの利益は、一族の者を取締役等の会社役員にして役員報酬として享受しています。取締役等の会社役員の選任は株主総会決議事項ですので、共有株式の過半数を保有する次男の思いのままとなります。長男は、極端な場合、株式の共有持分を所有していても議決権行使をすることができず、また配当もないことになります。

従来は、このような形で社長である父親が遺言書を作成することによってお気に入りの者を後継者にすることができました。


( 令和元年7月の相続法の改正により「遺留分」の取り扱いが変更された )

令和元年7月の相続法の改正によって「遺留分」の取り扱い方法が変更されました。従来は遺留分権利者から遺留分減殺請求がされると、相続された財産それぞれについて遺留分権利者の遺留分相当の持分が自動的に発生していました。

例えば、不動産であれば相続により次男名義となったものが、遺留分減殺請求によって次男と長男の共有名義となりました。株式も同様に準共有状態になりました。

しかし、共有状態になった財産の管理や処分について、その後の取り扱いで不都合な面が多く見られたため令和元年に改正が実施されました。共有状態では共有者間で共有物の管理や処分について適切な合意形成ができないと資産が塩漬けになったりするなどの弊害が見られたからです。( 今回説明した事例も弊害の一つかもしれません。)

令和元年の改正では、一旦、共有状態にするのではなく、相続された権利関係はそのままにして、遺留分は金銭に換算してお金で支払ってもらう方式に変更されました。

この結果、遺留分の請求は「金銭の支払請求権」に変更され、遺言で書かれていた財産の相続方法はそのまま維持されることになりした。後はお金で清算する方式に変更さたということです。


( 相続法の改正による自社株の遺言での承継方法への影響 )

令和元年7月の相続法の改正によって、従来行われていた遺言書による自社株の次男等への一括した承継方法を取ることが難しくなりました。

長男が遺言内容に不満があれば「遺留分侵害額請求」( 新法ではこう呼ばれています) を行えば、25株分の自社株の経済的価値を計算して、お金で請求することができるようになりました。( 株式以外の財産があれば、それらも含めて遺産の1/4の額について請求します。)

つまり、長男の存在を無視するような自社株の承継は難しくなるということです。他の相続人の遺留分にも十分配慮した遺言書の作成が必要になったということです。

今後の論点は、同族会社などの自社株の価値をどのように金銭に評価していくかという点に移っていくことになります。


(まとめ)

同族会社のオーナー社長として事業承継は悩みの多い事柄です。事業の才覚のある子とない子がいる場合、事業をより発展させてくれる子に事業を託したくなると思います。しかし、現在の相続法は相続人は平等の立場で資産を相続できることになっています。

従来は、遺言書の活用によって、少し裏技的ではありますが、自分の望む相続人に事業承継をさせることができました。しかし、現在はこのような方法は使えませんので、他の相続人の「遺留分」には十分気を使って遺産承継を考える必要があります。

 

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