亡き父の書いた「遺言書」で「不動産の書き方」に不備がある場合、相続登記はできますか

終活ブームの中で「遺言書」を作成する方が増えています。作成にあたっては、簡単で費用のかからない「自筆証書遺言」で書かれることも多くなっています。自筆証書遺言の場合、法律にあまり詳しくない方が書かれる遺言のため、時として色々な不備が見られます。遺言書の内容としては間違ってはいないのですが、書き方(表示内容)に問題のある場合です。


遺言書をもとにして自宅などの不動産の相続登記を行うことになりますが、遺言書の書き方に不備がある場合、登記できるかどうか不安になります。

遺言書の作成には守らなければならない厳格な法律上のルールが定められています。ルールを守らなければ、原則として、遺言書は無効になります。自筆証書遺言の場合は「全文の自書」、「作成日付の記載」、「作成者の自署」、「作成者の捺印」があります。ただし、これは最低限必要なルールであり、これが調っているからと言って遺言書に記載されている通りに遺言が執行できる訳ではありません。


( 遺言書の不動産の表示でよく見られる不備内容 )

遺言書の不備でよく見られるものとして、相続不動産の特定方法があります。例えば、遺言書で「山田町の土地建物は長男に相続させ、自宅は長女に相続させる。裏山の山林は次男に相続させる。」のように書かれているものがあります。家族間では、それぞれがどの不動産であるか十分に分かっている場合です。

では、この遺言書をもとに不動産の相続登記ができるかと言えば、残念ながら登記することはできません。登記官としても相続対象の不動産について具体的に特定してもらわないと登記ができないからです。

通常、公正証書遺言などで不動産を特定する場合は、不動産登記簿に記載されている通りに次のように記載します。

(不動産の表示)

所 在  〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目
地 番  〇〇番○○
地 目  宅地
地 積  200.00㎡

このように書いておけば、相続不動産は特定できますので、相続登記を行ってもらえることになります。

それでは、このような不備のある遺言書ではどうにもならないのでしょうか。


( 遺言書の記載内容に不備がある場合の遺言書の解釈方法 )

遺言書の内容を亡くなった遺言者の立場を想像して読み解くことを「遺言書の解釈」と言います。遺言書には書いた本人の想定していない色々な不備が見られる場合があります。特に自筆証書遺言の場合はその傾向が強くなります。

遺言書に不備がある場合、これを即「無効」と判断しては、世の中の遺言書の多くが無効なものとなり、本人の貴重な思いを無にすることになります。そこで、遺言書の有効・無効が争われた過去の裁判例を通して、次のような考え方が確立しています。

 <遺言書の解釈の基本的な考え方>

『遺言書の記載内容の解釈については、遺言書の文言を形式的にのみ判断するのではなく、遺言者の真意を探求すべきであり、遺言書の全文記載との関連、遺言書作成時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真実を探求し、当該の条項の趣旨を確定すべきである。』

つまり、ささいな方式違反を理由として遺言を無効にすることなく、可能な限り遺言を有効に解釈しようとするのが裁判所の考え方です。


( 不動産登記を担当する登記所の考え方 )

裁判所では出来るだけ亡くなった遺言者本人の真意を探求して遺言書を解釈しようとしますが、登記所(法務局)ではそのようなことは行いません。登記所では提供された登記の申請書に添付されている書面を通して真実性を探求します。このことを講学上、登記官は「形式的な審査権しか有しない」といいます。

裁判であれば、裁判官は心証を得るために色々な証拠資料の提供を求めます。また、必要があれば証人尋問も行います。一方、登記所は提出された添付資料からのみ真実性を確認しなければなりません。そのため、不備のある遺言書をそのまま提供しただけでは、登記申請は「却下」されてしまいます。


( 今回の場合の対応方法 )

このままの遺言書では登記を通すことができません。遺言書の内容を何らかの形で補充する必要があります。今回の遺言書の「補充の方法」としては、遺言者は既に死亡していますので、遺言者の権利義務を承継している遺言者の相続人全員による補充が考えられます。

具体的には、遺言書に書かれている「山田町の土地建物」とは、「〇〇市〇町〇番地」の土地建物である旨を相続人全員で「上申書」に記載して登記所に提供します。不動産の特定方法は登記簿に記載してある通りに正確に記載します。上申書には相続人全員の住所氏名を記載してそれぞれが実印を押捺します。また、相続人全員の印鑑証明書も添付します。

このような書面が添付されていれば登記官も目的物の同一性を認定して相続登記をすることができると思います。


( よくある他の事例 )

遺言書の中には、「遺言者の配偶者と同居している者に自宅を相続させる」とする趣旨のものがあります。本人が亡くなった後、残された配偶者の面倒を見てくれる相続人に自宅等を相続させたいとするものです。

この場合も、このままの遺言書では登記所では受け付けてもらえません。「自宅で残された配偶者と同居している相続人は○○である」旨の上申書を登記申請書に添付する必要があります。この場合は、指定された相続人以外の相続人全員の印鑑証明書も添付して真実性を担保します。


今回紹介した事例は、いづれも残された相続人である家族全員に異論がない場合です。異論がある場合は、このような対応は出来ません。裁判手続きを通して真実性を探求することになります。

(まとめ)

自筆証書で遺言書を作成する場合、不備事項があると色々と面倒になります。内容確認のため弁護士や司法書士などの専門家に事前に内容をチェックしてもらった方が安心だと思います。

より確実に遺言をしたい方は「公正証書遺言」を検討する必要があります。亡くなったとき遺言書の内容で争いになれば、何のために遺言をしたのか分からなくなりますから。

 

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