父が亡くなり「貸金庫」に「遺言書」が入っていないか確認したいとき、どうしたら良いですか

父が亡くなり相続手続きをするにあたり、父が生前に契約していた銀行の貸金庫の中身を知りたい場合があります。不動産の権利証などと一緒に「遺言書」が入っていた場合、相続手続きに大きく影響するため早めの確認が必要だからです。


この場合、相続人の1人である長男などが銀行に行って貸金庫を開けて中身の確認や内容物の引き渡しを求めることはできるのでしょうか。答えとしては、銀行には応じてもらえないと思います。

( 銀行の「貸金庫」契約とは )

貸金庫契約は貸金庫自体の「賃貸借契約」と考えられています。貸金庫の借主は借家人のような立場になります。借家人が亡くなった場合、通常の賃貸借では、賃貸借契約が当然に終了することなく相続人に対して借家人の権利が相続されます。

これと同じように貸金庫契約の借主が亡くなった場合は、法律的には、その権利が相続人に相続されると考えられます。しかし、銀行としては、誰が相続人かいちいち確認することは事務処理上の大きな手間となります。そこで、通常は貸金庫を契約するときに締結する貸金庫契約に特約として「借主死亡のとき賃貸借契約は終了する」と定めていると思います。

そのため、貸金庫の借主が死亡すれば貸金庫契約は終了することになります。問題は契約終了時の貸金庫の開扉と中身の引き渡し方法になります。この場合、銀行としても相続人間のトラブルに巻き込まれることを避けるため慎重な対応を行っています。

通常は、全ての相続人の同意のもとで貸金庫の開扉と中身の引き渡しをすることになると思います。従って、相続人の一人である長男が銀行に行っても貸金庫を開扉することはできません。


( 銀行での「貸金庫」開扉の具体的手順 )

  1. 相続人であることの確認
    全ての相続人からの依頼であることが必要になるため、亡くなった方の「生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍」と相続人全員の戸籍が必要になります。法務局で発行される「法定相続情報一覧図」でもよいと思います。
  1. 同意書の提出
    全ての相続人の同意のもとで貸金庫を開扉し内容物を引き渡すことに関して、全ての相続人の同意書を銀行に提出します。併せて、内容物に亡くなった方以外の所有物が入っていた場合などについて、銀行は一切責任を負わず、相続人の責任において発生したトラブルは解決する旨の同意も求められます。同意書には相続人全員が署名し実印を押印します。相続人全員の「印鑑証明書」も添付します。


( 遺言書の保管場所として貸金庫は避けた方が無難です )

貸金庫を開扉して中身を確認することは意外と大変な作業となります。相続人全員が近隣に住んでいればよいのですが、外国や遠隔地に居住している場合など大変な作業になります。これから遺産相続手続きをしようとするとき「遺言書」の有無確認のため貸金庫を開扉して確認したいと思っても簡単にはできません。

そのため、遺言書の保管場所として貸金庫は避けた方が良いことになります。信頼のおける家族や法律の専門家等に託しておくことをお勧めします。


( 貸金庫に貴重な相続財産を保管している場合 )

銀行の貸金庫は、不動産の権利証や株券、ゴルフの会員証、宝石や貴金属など高価なものが通常入れられます。そのため、遺産相続手続きを行う場合は、現物確認として事前に貸金庫を開扉して内容確認する必要があります。

しかし、貸金庫を開扉するための手続きが面倒なため事前に取れる対策はとっておいた方が良いと思います。例えば、遺言書を作成する場合の対策の1つとして、遺言書に「遺言執行者」を指定しておくことです。

遺言執行者は、遺言の内容を実現する権限と責任がありますので、貸金庫の開扉をする権限もあることになります。但し、法律上の権限があるとしても、銀行として簡単に応じてくれない場合も想定されます。 

そこで、遺言書に遺言執行者の指定とともに遺言執行者の権限として貸金庫の開扉や内容物の引き取り権限についても明記しておくことが必要となります。


( 貸金庫の内容物について相続人間で疑義の出ないようにしておきたい場合 )

実際に貸金庫の開扉に立ち会わなかった相続人から、後々、内容物について疑義を持たれたくない場合があります。例えば、遺言執行者として指定された長男が1人で貸金庫を開扉して内容物を引き取った場合などです。立ち会った銀行員は一切何も証明してくれないと思います。

このような場合は、公証役場の公証人に依頼して銀行に出張してもらいます。そして、貸金庫の開扉と内容物の確認をお願いします。そして、その経緯と内容物について証明書を公正証書で作成してもらいます。これを公証人による「事実実験公正証書」といいます。

事実実験公正証書があれば、長男が1人で行った場合と違って、公証人が証明してくれますのでその信用力に問題がないことになります。


(まとめ)

貸金庫の開扉は意外と面倒で大変です。ところが、相続手続きが発生した場合、貸金庫は1つのキーポイントになります。中身が相続財産としてキーになる場合と「遺言書が入っているかいないか」がキーとなる場合です。

相続手続きを円滑に行うためには、貸金庫があればできるだけ速やかに開扉して内容確認をする必要があります。

そのため、貸金庫契約の有無は家族に事前に知らせておくことが必要です。また、遺言書は貸金庫に入れない方が良いと思います。遺言書を書く場合は、遺言執行者を指定して貸金庫に関する権限も明確に記載しておくことが必要です。

貸金庫はセキュリティ上便利なものですので、亡くなったとき無用のトラブルを起こさないように上手く使ってもらいたいと思います。

 

 

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