「相続登記」を司法書士に依頼した方が良い場合とはどんなケースですか

相続による不動産の名義変更(「相続登記」)をご自身で登記所に申請しようとする場合があります。市販のガイダンス本やネット情報、法務局の窓口相談などを活用して登記申請書類等を準備して登記申請することになります。法務局ではガイダンス資料を配布していますのでそれを活用して申請することもできます。

ごく簡単な相続事例の場合は、法務局配布のガイダンス資料通りに行えば申請できる場合が多いと思います。但し、ガイダンス資料は出来るだけ分かりやすく書かれてはいますが、軽く読んで理解できるものではありません。一読しても疑問点や確認したい項目が出ると思います。疑問点や確認事項は、法務局の窓口相談 (予約制で20分以内のところが多い)を活用して解決します。

尚、ガイダンス資料を見ても全く理解できない場合や事務手続きが細かく面倒でやる気がしない場合は早めに司法書士に依頼して下さい。


登記申請書などの必要書類は、ごく簡単な相続事例をベースに申請書の「ひな形」が法務局のホームページなどに掲載されています。この標準的な「ひな形」をベースに自分の相続事例のケース用に内容を修正して使用します。

法務局のガイダンス資料は、ごく標準的な相続事例をベースにして、登記申請に必要な書類の「ひな形」を提供しています。提供された「ひな形」を少し修正して活用できる場合は、ご自身で登記申請されれば良いと思います。

しかし、実際に発生している相続の事例は「ひな形」通りに収まらない場合が多いのです。自分の相続のケースにあわせて内容を追加変更したい場合、どのように書類を変更して良いか迷うことになります。

法務局の窓口相談で簡単に解決できれば良いのですが、少し複雑な要素がある場合、1回の相談では時間切れになる場合があります。法務局に何度も事前に相談に通うことになります。ケースによっては、窓口の相談担当者から司法書士への依頼を勧められる場合もあります。


( 相続登記を司法書士に依頼した方が良いケース )

次のようなケースは登記申請の難易度が高い場合が多いため、司法書士に最初から依頼することをお勧めします。

(1) 亡くなったのが10年以上前である。

相続が発生しても相続登記を行わずに放置されている場合です。この場合は、登記申請に必要な住民票などの資料が役所の保存期限切れで取得できない場合があります。また、亡くなったのが何十年も前ですと相続人の中に既に亡くなった方がいる場合があります。この場合は相続人の数が増えて手続きが大変面倒になります。

(2) 相続人の一部が既に亡くなっている。

(1)と類似しますが、相続人の中に既に亡くなった方がいるとその方の相続人を探す必要があります。直系以外の傍系の親族の方の場合、戸籍や住民票の調査も簡単にはできません。


(3) 亡くなった方の自筆の遺言書がある。

自筆証書遺言の場合は、裁判所の検認手続きが必要になります。法務局に自筆証書を保管されている場合は、保管されている遺言書の取得手続きが必要になります。自筆証書遺言の場合は、遺言書の内容を確認して「遺言の執行」が可能かどうか見極める必要があります。


(4) 不動産の管轄登記所が遠方である。

登記申請は不動産所在地を管轄する法務局に申請します。不動産の管轄登記所が遠方の場合、事前の相談や登記申請を現地に赴く必要があります。登記申請に誤りがあった場合の対応(補正処理といいます)も大変になります。

尚、登記申請については、オンライン申請や郵送申請による方法もありますが、司法書士以外の方の利用はお勧めしません。

(5) 相続人の中に「未成年者」「行方不明者」「認知症の方」がいる。

相続登記は、通常、相続人全員による「遺産分割協議」が必要になります。このとき相続人の中に「未成年者」「行方不明者」「認知症の方」がいる場合、遺産分割協議のために未成年者のための「特別代理人」、行方不明者のための「不在者財産管理人」、認知症の方のための「成年後見人」を選任する必要があります。選任は裁判所に申し立てる必要があります。


(6) 相続不動産が共有となっている。

相続する不動産が共有となっている場合、登記申請書などの書き方が難しくなります。ひな形にも共有のケースは準備されていない場合が多いのです。

(7) 未登記の不動産がある。

相続不動産(主に建物)の表示登記(表題登記)が未登記の場合です。この場合は、相続登記をするためには表示の登記をまず行わなければなりません。土地家屋調査士に依頼して表示の登記を行う必要があります。


(8) 相続人の中に「相続放棄」した方がいる。

相続人の中に相続放棄をした方がいる場合、その方は初めから相続人ではなかったことになります。相続放棄をいつ誰に対して行ったかによって相続における法律関係が異なる場合がありますので慎重に確認する必要があります。

(9) 相続人の中に海外居住者がいる。亡くなった方が外国人である。

相続人の中に海外居住者がいる場合、国内で印鑑証明書の発行ができませんので「サイン証明書」などの取得手続きが必要になります。亡くなった方が外国人の場合は、どの国の相続法を適用するか判断する必要があります。

(10) 亡くなった方に「離婚」経験がある。

亡くなった方が過去に離婚をして子供が離婚先に引き取られた場合、その子も相続人となるため遺産分割協議をするにあたってその方の協力が必要になります。現在の所在の探索が必要になります。


これ以外にも難易度の高いケースは色々あります。ガイダンス資料のひな形見本通りにいかないケースは早めに司法書士に相談した方が良いと思います。

(まとめ)


令和6年4月1日より「相続登記の義務化」がスタートします。これにより、多くの方が過去の相続分も含めて相続登記を行う必要が出てきます。司法書士に依頼すると費用がかかるため、ご自身で登記申請をしようと考える方も多いと思います。

ご自身で色々と調べられて努力をしてみたものの、結局途中で挫折して司法書士事務所に駆け込まれる方もいます。そうすると、折角行った努力が無駄になります。相続登記手続は一生に1回あるかないかの手続です。勉強した知識も将来的にあまり役立つものでもありません。

ご自身で検討されて無理だと判断されたら早めに司法書士に依頼して下さい。不動産の権利に関する重要な手続ですので、万一誤った登記になっては大問題になります。不動産に対する権利を安心して確保できるようにしてもらいたいと思います。

 

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