子どもが海外在住のとき「相続手続」は苦労しますか

親が亡くなり相続手続をする必要があるとき相続人となる子供が1人でも海外に居住していると「遺産分割」などの相続手続で苦労します。子供が国際結婚などで海外に移住し日本国内に拠点がなくなった場合、相続した財産を引き継ぐのも簡単ではありません。また、相続税の申告が必要な場合の手続きも面倒となる場合があります。

日本人の海外居住者の数は年々増加しています。留学や仕事での海外赴任、国際結婚など理由は様々ですが、多くの日本人が海外で暮らしています。少し古い統計ですが、2015年時点の海外在留邦人は131万7000人となっています。このうち3分の1が永住者で残りの3分の2が長期滞在者となっています。


(海外居住者がいる場合の相続手続の問題点)

日本にいる親が亡くなり相続が発生したとき、相続人が海外に居住していたり、相続人の国籍が結婚により外国籍となった場合、どこの国の法律で相続手続きをするのでしょうか。この場合は、亡くなる親が日本人であれば、相続は日本の法律に従って行うことになります。

つまり、法定相続人の範囲や順位、法定相続分の割合、遺産分割の方法、相続税の申告・納付の仕方も全て日本の法律に従って行うことになります。

ところで、親が亡くなり葬儀や四十九日法要などが終われば相続手続を行うことになります。相続手続は、遺言書などがなければ、相続人全員による「遺産分割協議」が必要になります。葬儀などのために一時帰国していた相続人に対して、「遺産分割協議」のために再度帰国してもらう必要があります。


遺産分割協議が問題なく円満に進むのであれば良いのですが、相続分を巡って簡単に話し合いが進まない場合、海外在住者は日本との往復を余儀なくされます。電話やメールなどの活用も考えられますが、遺産分割協議の話し合いでは難しい場合があります。協議のための旅費などもばかになりません。


(「住民票」や「印鑑証明書」の問題 )

何とか遺産の分け方が無事まとまったとしても、その内容を「遺産分割協議書」にまとめて相続全員が署名捺印する必要があります。この場合の捺印は実印で行います。実印が真正であることを証明するため「印鑑証明書」を添付します。

ところが、海外在住者の場合、日本に住所がありませんので「住民票」や「印鑑証明書」を取得することができません。つまり、遺産分割協議書に添付する印鑑証明書を準備することができないのです。また、「住民票」が取得できないと不動産の名義変更(相続登記)ができません。

代替策として、海外在住者はこれらに代わる書類として、自分の「サイン証明書」「在留証明書」を海外の居住地の日本大使館または領事館で取得する必要があります。


( 「預金口座」や「証券口座」の問題  )

さらに、海外在住者で日本に預金口座や証券口座がない場合は、親の相続で取得した資金や株式などの入金先や保管場所がありません。海外居住者は、国内の金融機関で新たに口座を開設することはできません。日本に口座がない場合、自分の口座で遺産を直接受け取れないことになります。

日本に口座を残していて利用が可能であれば、その口座に振り込んでもらって受け取ることができます。しかし、口座がなければ新規に口座開設ができないため、海外送金を検討することになります。しかし、海外送金は手間と時間がかかります。金融機関によって対応方法も異なるため注意が必要になります。


証券会社で行う相続手続も日本国内の証券会社に口座を保有していないと、株式や投資信託、債券などの名義変更ができません。名義変更が完了しないと売却や換金もできません。亡くなった親が利用していた証券会社に相続人の証券口座があれば良いのですが、ない場合は名義変更ができません。別の証券会社に証券口座があれば、一定の手続きをすれば名義変更できる場合もありますが、手間と費用がかかります。

代替策として、国内の相続人の中から代表者1人を定め、その方がまとめて相続財産を受け取ってから、各相続人に分ける方法があります。しかし、全ての相続人からその取扱いについて「同意書」「委任状」を受ける必要があります。遺産に株式等がある場合は同意書の内容として、株式等の売却タイミング等についても委任を受ける形にします。株式等は売却価格が変動しますので事前の同意が必要になります。

また、遺産分割協議書の記載内容も慎重にする必要があります。書き方を誤れば、代表者から各相続人への分配行為が「贈与」とみなされ「贈与税」が発生する恐れがあるからです。

( 子どもが海外居住の場合の事前の備え )

このように子どもが海外に住んでいる場合、親の相続手続で苦労することになります。そのため事前の対策が重要になります。

まず、「遺産分割協議」の問題については、生前の「遺言書」の作成が解決策になります。遺言書があれば遺産分割協議は不要になります。協議のために国内外を何度も往復する必要はなくなります。遺言書は公正証書によって作成しておく方が良いと思います。


自筆証書遺言の場合、家庭裁判所による検認手続きにあたって、全ての相続人の立会いが原則として必要だからです。また、自筆証書遺言の法務局による保管制度を活用した場合、相続人への通知が必要になるため海外居住者の場合不向きとなります。

つぎに、「住民票」「印鑑証明書」の問題については、事前に「サイン証明書」の取得方法について確認しておくことが必要になります。大使館などへの交通経路や必要書類等について事前に確認しておけば慌てることなく手続きを進めることができます。

「預金口座」「証券口座」の問題については、できるだけ海外居住者でも日本国内に口座を保持しておくことが良いと思います。

(まとめ)

海外居住者の増加とともに日本国内での相続手続で苦戦するケースが増えてきます。子どもの海外居住が決まったときは、両親が高齢であれば、家族で相続問題について話し合ってもらいたいと思います。


特に、子供が1人しかいない場合で海外居住する場合、相続発生時は大変な問題になります。国内で相続手続をする方がいないからです。事前対策を十分に考えておく必要があります。

相続人が1人の場合、遺産分割協議は本来不要ですが、遺言書を作成しておいた方が良いと思います。海外に居住する相続人による相続手続が難しい場合、遺言書の中で「遺言執行者」を指定しておきます。弁護士や司法書士などの専門家を遺言執行者に指定しておけば、日本国内での相続手続をお願いすることができます。

 

Follow me!