親の介護で苦労しても「相続」には反映されないのですか

相続でもめる原因の1つに「相続人間の不公平感」があります。相続財産の分け方で「多い少ない」があってもめる場合も多いのですが、「人の苦労が相続額に反映されていない」という理由でもめるケースもあります。特に高齢の両親の介護で苦労した相続人やその配偶者に不公平感が強く出ると思います。


現在の法律では介護をした相続人と介護に無関心だった相続人との間で「法定相続分」に違いはありません。相続人の配偶者が相続人の親の面倒を見ても相続人の配偶者は相続人ではありませんので相続分はゼロです。

もちろん、法律も「寄与分」あるいは「特別寄与」という制度を設けて不公平感の解消を図っています。しかし、この寄与分制度の使い勝手は悪く、相続時に寄与分を主張しようとすれば、予め「寄与した事実」を証明できるように色々な証拠資料を準備しておく必要があります。

「介護によって亡くなった親の財産消費を減少させたこと」が寄与分成立のポイントになります。このため、介護の記録やかかった経費の領収書などをこまめに収集しておく必要があります。但し、寄与した事実を立証できたとしても認められる寄与分の額は多くを望めないのが実情です。

それでは、親の介護で現在苦労している場合、将来の相続額に反映させる手立てはないのでしょうか。介護を受ける親にとっても熱心に介護してくれる親族に対して感謝の気持ちを持っていると思います。


それでは次に、介護で苦労している場合の事前の対策について見て行きます。必要な対策を行えば、介護に報いた相続ができる可能性が高くなります。

( 親の介護で苦労している場合の事前対策 )

  1. 親に遺言書を書いてもらう

対策としてまず最初に考える方策です。遺言書があれば法定相続分に関係なく親の意思として自由に相続財産の分割方法を決めることができます。介護で苦労した相続人やその配偶者に多くの財産を与えることができます。

もちろん、他の相続人には「遺留分」という遺言書によっても奪うことのできない権利があります。遺言書の作成にあたっては遺留分にも配慮した内容とすることが必要です。遺留分は法定相続分の半分ですので、その額に見合う財産は他の相続人に与える内容にすることが肝要です。

また、相続発生時に相続人間でもめる恐れがある場合は、遺言は「公正証書」で作成した方が良いと思います。高齢の親が自筆で遺言書を作成した場合、遺言書の内容に不満のある相続人から「父親は認知症が進行していたから、こんな遺言書は書けるはずがない。」などの文句が出ることがあります。公証役場で公証人によって本人確認と意思確認がされている公正証書遺言であれば、このような不満は出にくくなります。

  1. 生前贈与を行う

介護を行ってくれる親族に対して「生前贈与」を行う方法があります。但し、多額の贈与を行えば、「贈与税」が発生しますので注意が必要です。毎年、低額の贈与を行っていく「暦年贈与」であれば贈与税の負担を少なくすることができます。年間110万円までの贈与であれば贈与税はかかりません。それを超える贈与でも額が低額であれば贈与税の負担は少しで済みます。

なお、令和4年度の税制改正大綱によって令和5年以降の「暦年贈与」については、本人が亡くなる7年前までの贈与分は相続財産に組み入れられることになりました。経過措置はありますが、これによって「暦年贈与」の税制面のメリットは薄れました。しかし、亡くなる7年以上前であれば非課税メリットはありますので活用の余地は多いと思います。

 


なお、単純に生前贈与していた場合、相続発生時にこれまでに生前贈与した財産を相続財産に組み入れて遺産分割しなければならない場合があります。これを「特別受益の持ち戻し」といいます。亡くなった親から生前に特定の相続人に対して生前贈与が行われた場合、相続人間に不公平感が生じます。これを是正するために生前贈与した財産額が相続財産に存在するものとして計算して遺産分割を行うものです。この結果、生前贈与を受けた相続人の取り分は、既に生前贈与を受けた分だけ少なくなります。

これでは、せっかく生前贈与した意味がなくなってしまいます。これを防ぐには、介護を受ける親は介護をしてくれる親族に対して、予め「特別受益の持ち戻しの免除の意思表示」を行っておく必要があります。意思表示は口頭でも何でも良いのですが、実務的には文書に残しておくことが必要になります。

具体的には、遺言書や贈与契約書に書いて残しておけば良いでしょう。暦年贈与の場合は、毎年贈与をしていますので、その都度、贈与契約書に書いておきます。例えば「親は令和○年○月○日、長男甲に対して金110万円を贈与する。民法903条1項に規定する相続財産の算定に当たっては、当該贈与額は、相続財産の価格に加えないものとする。」のような書き方になります。

  1. 養子縁組を行う

例えば、親の介護を長男の嫁が行った場合、長男の嫁には「相続分」がありません。介護でどんなに苦労しても「特別寄与料」が認められなければ相続分はありません。また、特別寄与分は簡単には認められませんし、認められても額は少ないと思います。

そこで、生前に介護している長男の親の養子になるのです。こうすれば、介護している親の正式の子になりますので自分自身の「法定相続分」が発生します。

養子縁組は、相続税対策で行われる場合が多いと思います。法定相続人の数が多いほど、相続税の基礎控除額が増える点を利用して相続税の節税対策として行います。例えば、孫を養子にするケースなどです。

但し、実施するに当たっては、関係親族とよく相談する必要があります。法律上の血縁関係を発生させる重大な身分行為ですので安易に行うものではないからです。後々問題になるような場合は選択すべきではないと思います。

  1. 生命保険を活用する

生命保険を利用して、本人(親)が亡くなったときに一定の資金が生命保険金として受け取れるようにしておくものです。具体的には、現在掛けている生命保険の受取人を介護で苦労している親族に変更したり、新たに生命保険を掛けて受取人を介護で苦労している親族とする方法などです。

生命保険金は相続財産ではなく、保険契約で受取人と指定された者の固有の財産とになります。つまり、受け取った生命保険金を相続財産に供出して相続人全員で遺産分割するような財産ではないのです。


生命保険を活用すれば遺産分割でもめることなく相続手続を行うことができる可能性が高くなります。

(まとめ)


親の介護で苦労している方は、そのまま何もしなければ「不公平」な相続になるかもしれません。もちろん、他の相続人に親の介護の苦労が認識されていて遺産分割において配慮してもらえる場合も多いと思います。また、「お金のために親の介護をしているのではない」と言われる方も多いと思います。

しかし、中には不公平を感じている方もいると思います。不公平感を感じている方は、事前の準備を適切にしておけば、ある程度の不満は解消されることがあります。相続でもめないように必要な対策をご検討下さい。

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