中小企業の事業承継対策としての「無議決権株式の活用」って何ですか

株式会社の株式について「普通株式」以外に色々な機能を持った「種類株式」を発行することができます。「無議決権株式」もその種類株式の1つです。種類株式の中に株主総会で議決権を行使できる権限を制限した株式があります。これを「議決権制限株式」といいます。一定の決議事項についてのみ議決権を行使できる株式です。この議決権制限株式のうち一切の議決権を行使できないとした株式のことを「無議決権株式」といいます。


この「無議決権株式」を使用して中小企業の事業承継対策や相続対策に利用することができるため、活用方法が検討されています。

< 中小企業の事業承継や相続対策における課題 >

中小企業の事業承継や相続対策には色々な課題があります。例えば、次のような課題があります。

① 後継者不足問題
② 自社株の承継に伴う贈与税・相続税対策
③ オーナーの認知症対策
④ オーナーの後継者による会社経営への影響力の確保
⑤ 自社株の相続に伴う「遺留分」対策

「無議決権株式」は、④や⑤の対策として活用できます。②~④の対策としては「家族信託」の活用が1つの対応策となります。今回は、④と⑤について活用方法を見て行きます。


< オーナーの後継者による会社経営への影響力確保としての活用方法 >

中主企業の社長兼オーナーである親が、例えば、会社の発行済株式100株の全てを保有している場合、100株のうち99株を「無議決権株式」に変更します。オーナー社長であるので種類株式の新設は社長1人の判断でできます。

無議決権株式である99株を後継者の息子に贈与します。これにより、会社の株式は、親が普通株式1株を保有し、後継者である息子が無議決権株式99株を保有することになります。会社の経営は、引き続き親が行うことも、息子に社長の座を譲ることも自由に行えます。

仮に社長の座を息子に譲ったとしても、親は株主総会の議決権を通して会社経営に対して影響力を保持することができます。株主総会は株式会社の最高の意思決定機関であり、「役員の選解任」、「剰余金の配当」、「増資」、「組織再編」など重要事項について決議が必要となります。このとき社長である息子の保有する株式には議決権がないため、親である元オーナーの承認が必要になります。

このようにして、親である元オーナーが後継者が独り立ちできるまで後見人として会社経営を見守っていくことができます。


次にもう1つの活用事例について見て行きます。

< 自社株の相続に伴う「遺留分」対策 >

親である会社のオーナー社長が、所有する株式の全てを後継者である息子に相続させたいと希望している場合があります。しかし、息子以外の他の相続人の「遺留分」の兼ね合いから、ある程度は分散させて相続させる必要があることがあります。特に相続財産の主要な部分が自社株しかない場合、その傾向が強くなります。

このような場合の対策として、自社株の「普通株式」の一部を「無議決権株式」に予め変更して、普通株式を会社後継者である息子に相続させ、無議決権株式を他の相続人に相続させる「遺言書」を作成する方法があります。

こうすれば、他の相続人への遺留分に配慮した相続を実現することができます。息子である後継者は、会社の経営を他の相続人の介入なく自由に行うことができます。他の相続人は会社経営に口出しはできませんが、配当金は受け取ることができます。

議決権の有無によって相続される株式の株価に相違はありません。しかし、議決権が制限されているため不満も出ることが予想されます。不満対策としては、無議決権株式について配当面で優遇する「配当優先株」にすることも考えられます。議決権が行使できない分、配当面で優遇するのです。


無議決権株式を導入する場合の会社「定款」の定め方について見て行きます。

< 議決権制限株式の定款記載例 >

議決権制限株式は、会社の「定款」でその内容を定める必要があります。株主が議決権を行使できる場面は、株主総会と種類株主総会があります。議決権を制限した株式は種類株式となるので、2つの総会での議決権の制限を検討する必要があります。2つの総会で一切の議決権を制限する場合の定款記載例は次のようになります。

(議決権制限株式)

第○条  甲種類株式を有する株主 (以下「甲種類株主」という。) は、株主総会において議決権を行使することができない。

2 甲種類株主は、会社法第322条第3項但書の場合を除き、甲種類株主を構成員とする種類株主総会において議決権を行使することができない。

※会社法第322条第3項但書の場合
「株式の種類の追加」、「株式の内容の変更」、「発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加」については、法令の定めにより、議決権の制限が禁止されています。


< 有限会社における無議決権株式活用時の注意点 >

中小企業の中には、昔の有限会社の会社形態を継続している場合も多いと思います。現在は会社法の改正によって有限会社は廃止され、「特例有限会社」として株式会社の一形態として存続しています。

この特例有限会社の場合、上記で述べた「無議決権株式」による事業承継、相続対策が有効に機能しない場合があるので注意が必要です。「無議決権株式」による事業承継、相続対策を行う場合は、特例有限会社を株式会社に移行する必要があります。

これは、特例有限会社の株主総会の議決要件について、「無議決権株式」の数についても決議要件に含める必要があるとされているからです。

株主総会での決議内容として、特に重要な案件については決議要件が加重された「特別決議」が必要とされています。特例有限会社の特別決議の要件は、「総株主の半数以上(頭数要件)」であって、「当該株主の議決権の4分の3以上(議決権要件)」とされています。

ところが、この「総株主」、「当該株主」には、議決権を制限された株主も含まれるとされているため、一部の株式を無議決権株式にした場合、普通株式のみでは議決要件を満たさない場合が生じます。そうすると、会社にとって重要な事柄についての決定ができないことになります。

従って、無議決権株式を有効に活用したい場合は、特例有限会社を株式会社に移行する必要があります。特例有限会社の株式会社への移行は、商号中に株式会社という文字を用いる定款変更決議を行い、移行の登記をすることによってその効力が発生します。

なお、移行の登記が効力を生じることを条件にすれば、移行の登記と同時に「議決権制限株式」を導入することも可能であると考えます。


(まとめ)

種類株式を活用した事業承継、相続対策は、他にも色々と考えられています。今回の「無議決権株式」の活用も対策方法の1つとなります。色々な対策を顧問税理士とも相談の上、工夫して頂きたいと思います。

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