「住宅ローン」の返済が難しくなったときの「任意売却」って何ですか

コロナ禍で職を失ったり収入が減ってしまった方の中には住宅ローンの返済が難しくなっている場合があります。また、物価高その他の原因で住宅ローンの返済が苦しくなっている方も多いと思います。最悪の場合、自宅を手放さざるを得ない場合がありますが、このとき自宅の「任意売却」という話が選択肢として登場します。



(住宅ローンを延滞した場合の流れ)

銀行等の金融機関から住宅ローンを借りていて、返済が滞ると銀行から「督促状」が届きます。これを放置して数か月間に渡って延滞を続けると、銀行から「代位弁済の通知」がなされます。

現実的には「督促状」が届くまで何もしないことはないと思います。通常は、銀行の窓口で住宅ローンの返済について相談をすると思います。銀行もコロン禍で返済が難しくなっている方が多いことから相談に乗ってくれると思います。政府も金融機関に対して相談に応じるよう指導しています。延滞が一時的で将来の返済の目途が立つ場合であれば、返済条件の変更に応じてくれる場合があります。これを「リスケ (リスケジューリング) 」といいます。

しかし、延滞状況が一時的なものではなく、今後も返済の目途が立たない場合も多いと思います。この場合は、銀行と相談しても有効な解決方法はないことになります。結果として、「督促状」が届くことになります。


銀行の住宅ローンは、提携している保証会社が顧客の住宅ローンの弁済保証をしています。顧客の住宅ローンが返済できなくなれば、保証会社がローンを肩代わりして弁済します。これを「代位弁済」(略して代弁)といいます。

保証会社が代位弁済を行うと住宅ローンの債権は銀行から保証会社に移されます。つまり、この先の住宅ローンの貸主は保証会社となり、保証会社が顧客に対して住宅ローンの取立を行います。取立てを行うと言っても現実的には支払うことが難しい場合が多いため、自宅不動産に担保として設定してある抵当権を実行することになります。これを「担保不動産競売」と言います。

競売の申立が保証会社から裁判所に出されれば「競売開始決定」が行われ、自宅不動産の登記簿に「差押え」の登記がなされます。これによって開始される手続きのことを「担保不動産競売」といいます。

(担保不動産競売とは)

担保不動産競売とは、担保となった不動産を裁判所が売却し、売却で得られたお金を債権者に分配(「配当」と言います)する手続きです。裁判所による開始決定と差押え登記の後、次の段取りで進行していきます。

① 現況調査 (開始決定から1~3か月後)

不動産の現況を裁判所の執行官が評価人を伴って調査を行います。自宅の中に入って調査を行います。調査の目的は、「売却基準価格」を算出するためです。不動産の売り出し価格を決めるための調査です。

② 売却基準価格の決定と入札期間の通知 (現況調査から2~4か月後)

現況調査の結果を受けて裁判所が売却基準価格の決定を行います。また、入札期日が決定されます。入札希望者は売却基準価格の8割以上の価格で入札する必要があります。

③ 入札 (入札期間の通知から2か月後)

入札希望者が希望落札価格を明示して入札を行います。

④ 開札と売却許可決定 (入札から約1週間後)

最高価格で入札した人が落札します。落札者に対して、裁判所が売却許可決定を行います。

⑤ 代金納付と所有権移転登記 (開札から約1か月後)

落札者が代金を納付すると不動産の名義変更(所有権移転登記)が行われます。

⑥ 配当(代金納付から約1か月後)

債権者に対して競売の落札価格から債務の弁済を行います。

(担保不動産競売の問題点)

担保不動産競売は公的な手続きとして法的に整然として進められるため法的な安定性がありますが問題点もあります。


<債務者から見た問題点>

① 不動産の売却価格が市場価格に比べて安くなる。

1,500万円の建物であれば、1,000万円弱の価格で売り出されることになります。競売市場では、3割以上減額して売り出されることが普通です。また、1回の入札で売却できなければ入札を繰り返しますが、入札を繰り返すたびに売り出し価格は下がっていきます。

この結果、債務者にはより多くの借金が残ることになり、今後の再建の見通しが悪くなります。

② 競売にかかったということが近所に知られるリスクがある。

競売物件の情報は広くチラシやインターネットで公開されます。そのため、自宅が競売にかけられているとの情報が近所や友人などに知られてしまう恐れがあります。



<債権者から見た問題点>

① 不動産の売却価格が市場価格に比べて安くなる。

債権者としても売却価格が安くなれば、その分債権回収できない債権が増えてしまうことになります。

② 競売手続期間が長い。競売申立費用がかかる。

債権者としては、できるだけ早期に債権の回収を完了したいわけですが、競売手続期間は長期に渡るため負担となります。また、競売を裁判所へ申立てを行うには、諸費用や予納金などを裁判所に納める必要があり負担となります。



(「任意売却」とは )

担保不動産競売は、債権者、債務者双方にとってデメリットがあります。そのため、担保不動産競売に行く前に関係者で「任意競売」が検討されることが多くなります。

「任意売却」とは、ごく簡単に言えば、単なる自宅の売却のことです。自宅の買主を見つけて売買契約を締結し自宅を売却することです。不動産屋に頼んで自宅を売ってもらうことと基本的には同じです。裁判所の関与は何もなく純粋に私的な行為です。

但し、自宅には銀行の住宅ローンを担保する抵当権がついていますので、債務者である住宅の所有者が勝手に売却することはできません。つまり、売却行為には「利害関係人」が存在するのです。代表的な利害関係人は住宅ローン関係の融資や保証を行っている銀行や保証会社です。住宅ローンは複数金融機関から借りていることも多いと思いますが、その場合は担保権を持っている全ての金融機関が利害関係人になります。その他、税金を滞納していれば、国や地方自治体も利害関係人になる場合があります。

これらの利害関係人の同意を取ったうえで自宅の売却を行うことになります。利害関係人である金融機関としても任意売却にはメリットがありますので、できれば任意売却したいと考えているところが多いと思います。但し、金融機関にメリットがあるかどうかは、担保権の順位や自宅の時価などによって変わってきますので、金融機関毎に判断すると思います。

任意売却は、これら利害関係人の同意を取り付けた上で、任意売却などに手慣れた不動産会社に自宅の売却の仲介を依頼して行います。任意売却にメリットを感じる金融機関であれば、主体的に任意売却を推進してくれる場合もあります。

金融機関によっては、担保不動産競売手続を既に開始している場合もありますが、競売開札日の前日までであれば任意売却は可能と考えられています。

利害関係人の合意が取れ、不動産仲介会社が買主を見つけてくれれば、後は通常の不動産売買の手続きと変わることはなく、売買契約を締結して不動産を売却し、売却金を担保権の順位に従って配当することになります。


(任意売却のメリット)

任意売却のメリットは次の通りです。

① 売却価格が担保不動産競売より高くなる可能性が高い。

通常の時価に比べると若干低くなることが多いと思いますが、3~5割減となる担保不動産競売よりは高く売れる可能性が高いと思います。

より高く売れれば、金融機関にとっても債権回収にあたって大きなメリットとなるため、売却代金から債務者に「引っ越し代」を出してもらえる場合もあります。

② 裁判所に納める費用が不要となる。

裁判所の関与はないため、金融機関にとって申立に係る諸費用や予納金などの負担がいらなくなります。

③ 売却期間が不動産競売に比べると短くなる可能性が高くなります。

担保不動産競売では1年程度手続に時間がかかりますが、任意売却は買い手が早期に見つかれば短期間で売却することが可能となります。親類や縁者が購入を希望している場合は早期に売却できることになります。

④ 競売に関するブラックな情報の拡散はありません。

純粋に私的な売却行為ですの競売情報として近所や友人などに拡散される心配はありません。



(任意売却のデメリット)

任意売却のデメリットは次の通りです。

借金の返済という「債務整理」行為ではありますが、法的に決まったルールがないので手続き的に不安定な面があります。

担保不動産競売は、裁判所が主体的になって、定められた法律に従って粛々と進められていきます。一方、任意売却は私的な行為のため、利害関係人間でもめたり意見の隔たりがある場合は、合意を法的に取り付けることが難しくなります。特に配当に関する合意や「担保解除料」などの合意でもめる場合が多くなります。

※ 担保解除料とは、担保順位の低い金融機関の抵当権を抹消(解除)してもらうために支払う補償金のようなもの。担保順位の低い金融機関は売却代金から配当を受けることができない場合でも、担保権の抹消について利害関係人として同意が必要になります。このため、同意を得やすくするため、本来は配当がないにもかかわらず補償金を担保解除料として支払うものです。

任意売却に手慣れた不動産業者や金融機関などが中心となって、上手く合意を取り付けることができなければ、途中で破談してしまう恐れもあります。


(任意売却独自の契約条項について)

任意売却は、法律的に言えば、通常の売買契約と同じですが、行為の特殊性から売買契約の内容について次のような考慮点があります。

① 白紙契約条項

通常の不動産売買取引は、手付を打って取引を開始することが多いと思いますが、任意売却の場合は手付の授受はなく、1日で取引を完結することが通常になります。また、売買関係者や利害関係人の判断で急に取引が破談になることもあります。

そのため、売買契約書には「白紙条項」を入れておきます。債権者の同意が得られず、対象不動産の抵当権の抹消ができない場合などに備えて、無条件で契約を白紙解約できる特約を定めておきます。

② 担保責任免除条項


不動産売買契約には、通常、売主の担保責任(契約不適合責任)を明示します。例えば、住んでみたら雨漏りがするとか、地中から汚染物質が出てきたとか、などの場合に備えて損害賠償に関する条項を担保責任条項として定めておきます。

しかし、任意売却の場合は、お金がなくて自宅を売却する話なので後から担保責任を売主に追及されても賠償の目途はありません。そこで、担保は負わない旨を担保責任免除条項として契約書に特約として定めておきます。

このようなことから、任意売却における売却価格は「時価」に比べて少し安くせざるを得ないことになります。


(まとめ)

任意売却について見てきました。不動産を売却して借金返済の目途が立つ場合は、担保不動産競売手続に入る前に「任意競売」についても検討することをお勧めします。専門の不動産会社や金融機関などに相談下さい。

自宅を売却しても借金返済の目途が立たない場合や住宅ローン以外の借金で首が回らない場合は、「個人民事再生」手続や「自己破産」手続を検討する必要があります。弁護士や司法書士に相談下さい。

 

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