「子のない夫婦」がお互いに財産を相続させる「遺言」をする場合の注意点は何ですか

子のない夫婦の一方が亡くなると、通常、相続財産は残された者と亡くなった配偶者の兄弟姉妹との間で遺産分割をする必要があります。


亡くなった者の相続人は、先ず第一順位として「配偶者と子」になります。子がいなければ第二順位として「配偶者と亡くなった者の親」になります。親が既に亡くなっていれば第三順位として「配偶者と亡くなった者の兄弟姉妹」となります。このため親が既に亡くなっていれば、相続人は残された配偶者と亡くなった者の兄弟姉妹となります。その結果、相続財産は残された配偶者と兄弟姉妹で遺産分割を行う必要があります。

残された配偶者と亡くなった配偶者の兄弟姉妹との関係が良好で相続財産を分割することに問題がなければ特に問題は生じません。しかし、夫婦2人で築き上げた財産は、夫婦の一方が亡くなった時、お互いが保有している財産は全て相手方配偶者に相続してほしいと考える場合があります。

また、親族関係が良好でなく配偶者の兄弟姉妹とは交流がない場合があります。このようなときも亡くなった配偶者の遺産分割で疎遠となっている兄弟姉妹と「遺産分割協議」を行うことを避けたいと考えたくなります。

このような問題の解決方法として「遺言書」の作成があります。夫婦がそれぞれ相手方に全財産を相続させるという内容の遺言書を作成しておけば、配偶者の兄弟姉妹と遺産分割で協議する必要がなく、残された全財産を相手方配偶者に相続させることができます。

遺言書を書く人


( 夫婦で遺言書を作成する場合の注意点 )

夫婦で遺言書を作成して相続財産は全て相手方配偶者に相続させる旨の遺言書を作成する場合の注意点がありますので見ていきます。

(1) 1通の遺言書で夫婦まとめて遺言することは避ける。

1通の遺言書で夫婦がそれぞれ全財産を相手方配偶者に相続させる旨の遺言をすることは避けるべきです。これを「夫婦共同遺言の禁止」と言います。

遺言書は書いた本人が後々自由に取り消したり訂正できます。そのため、遺言書の形式として書いた本人が自由に取り消したり訂正できるようにしておかなければなりません。夫婦が共同で遺言書を作成すると、その書き方にも拠りますが、夫婦の一方が自由に取り消したり訂正できなくなる恐れがあります。

そのため、夫婦で遺言書を作成すると言っても、それぞれ別々の遺言書を作成する必要があるのです。公正証書で遺言を作成するには費用がかかりますが、2通分作成する必要があります。


(2) 配偶者の一方が亡くなることを前提に作成する。

夫婦で遺言書を作成する場合、それぞれが相手方に全財産を相続させると書きますが、夫婦はどちらか一方が先に亡くなります。例えば、夫が先に亡くなった場合、夫の書いた遺言書は有効に機能して夫の全財産は残された妻に相続されます。

しかし、その後、妻が亡くなった場合、妻の書いた遺言書は「全財産を夫に相続させる」と書いてあれば、夫は既に亡くなっていますので効力が認められないことになります。その結果、妻の書いた遺言は無効となり、その財産は亡くなった妻の相続人(妻の両親や兄弟姉妹等)に相続されることになります。

この結果で問題なければ良いのですが、あくまで自分の財産の相続先は自分で決めておきたいと考える場合は、相手方配偶者が自分より先に亡くなる場合も想定して遺言書を作成する必要があります。


(「遺贈寄付」について )

夫婦の財産について他の人に相続させたくない場合の選択肢の一つとして「遺贈寄付」があります。菩提寺、自分の故郷、出身学校、公共性の高い研究機関、日本赤十字、難民救済などのNGOなど最近は色々な寄付先があります。

遺贈寄付はその希望を遺言書に書くことによって簡単にできますが、実際に遺贈寄付が実現できるかどうかは分かりません。 遺贈寄付を希望する場合は、遺贈寄付を専門にしている公的機関に相談したり、遺贈寄付を得意としている専門家に相談する必要があります。

なぜなら、遺贈寄付をするには事前に確認しておかなければならないことがあるからです。事前に確認しておかなければならない点として次のような事柄があります。

① 相手先が遺贈寄付を受け取ることができるかどうか。事前の承認がいるかどうか。
② 法人や地方公共団体の場合、受け取るにあたって社内の承認手続き、議会の承認手続きが必要となるか否か。
③ 受け取るとして土地建物のような現物を受け取るかどうか。
④ 現金しか受け取らないかどうか。
⑤ 他の相続人の「遺留分」を侵害している場合、他の相続人の同意はとれているか。
⑥ 遺贈寄付を受けた場合、相手方や他の相続人に対して、どのような税金が課税されるか。

いずれもしっかりと事前に確認を取っておく必要がある事柄です。遺言書に遺贈寄付の希望が書いてあっても、事前の確認が不十分であれば、実現することができない場合があるのです。


(「遺言執行者」の定め )

遺贈寄付を実現したい場合は、遺言書に「遺言執行者」として法律の専門家を指定しておく方法があります。弁護士や司法書士などを遺言執行者として指定して遺言の執行を任せるのです。

遺贈先の多くは現金での遺贈を希望します。現物での遺贈は使い道がはっきりしていれば受け取ってもらえる場合もありますが、通常は拒否されます。従って、自宅などを遺贈寄付した場合は、遺言執行者によって自宅を売却してもらい、必要経費や税金を納めた残りの現金を遺贈することになります。

専門家を遺言執行者に指定すれば、その専門家は事前に相手(寄付先)との確認作業を行って遺贈寄付が問題なく実現できるように調整を行います。


( 子のない夫婦で財産は他の親族に渡したくない場合の遺言書の見本 )

子のない夫婦で相続財産の遺贈寄付まで考えた遺言書の見本を提示します。

 <遺言書サンプル>

第○条 遺言者は、遺言者の有する下記の財産を含む一切の財産を遺言者の妻山田花子(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。

1.不動産

(1) 土 地
  所  在  〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目
  地  番  〇番○
  地  目  宅地
  地  積  〇〇〇.〇〇㎡

(2) 建物
  所  在  〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目○番地
  家屋番号  〇番○
  種  類  居宅
  構  造  〇〇造〇階建
  床 面 積  1階 75.75㎡
         2階 40.45㎡

  1. 預貯金
    (1) ○○銀行〇〇支店 普通預金 口座番号 〇〇〇〇〇〇
    (2) ゆうちょ銀行   通常貯金 記号 〇〇〇 番号 〇〇〇〇〇

第○条 遺言者は、前記妻山田花子が遺言者より先に又は遺言者と同時に亡くなったときは、遺言執行者において、〇条第1項記載の不動産を売却し、売却に係る諸費用を支払った後の残金及び○条第2項記載の預貯金を日本赤十字社に遺贈する。

第○条 遺言者は、遺言執行者として次の者を指定する。

住  所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目○番地の○
氏  名 司法太郎
職  業 弁護士
生年月日 昭和〇年〇月〇日生

2 遺言執行者は、移転登記手続、預貯金の解約、払戻し、名義変更、貸金の開扉、貸金庫契約の解約その他この遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有する。

3 遺言執行者の報酬は、金〇〇円とする。


(まとめ)

子のない夫婦の場合、遺言書の作成は終活としての重要検討項目になります。相手方配偶者に全財産を相続させたい場合は遺言書の作成が必要になります。その先の相続先として関係親族に財産を渡したくない場合は「遺贈寄付」も選択肢になります。

自分が亡くなったら全財産は相手方配偶者が相続しても良いが、土地など先祖伝来のものは、相手方配偶者が亡くなった後は自分の血縁に相続させたいと考える場合があります。この場合は遺言書では難しいかもしれません。家族信託を組成して対応することになります。

遺言書の作成について相談したい場合は相続に詳しい弁護士や司法書士などの専門家にお尋ね下さい。

 

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