「遺産分割」で「名義預金」が問題になることはありますか

預貯金は、その名義が所有者であることが普通です。しかし、色々な理由から、その預貯金の名義が実際上の所有者ではなく、親族名義や第三者名義のものがあります。例えば、「夫のお金で妻名義の預金をする」、「祖母のお金で孫名義の通帳を作る」など色々なケースがあります。このような預貯金のことを「名義預金」と呼んでいます。


「名義預金」らしき預貯金が亡くなった方 (被相続人) の相続財産に含まれている場合、どのようにしたら良いか迷うことになります。例えば、亡くなった父親の遺産である預金通帳の中に「子供名義の通帳」があったり、専業主婦で働いたことのない妻の名義で多額の預金残高がある通帳がある場合などです。

( 遺産相続における「名義預金」の位置づけ  )

名義預金が相続財産に含まれると考えれば、名義預金を遺産に含めて相続人全員で「遺産分割協議」を行わなければなりません。つまり、妻や子供名義となっている預金についても、亡くなった方の遺産と考えて、誰が相続するかについて話し合い(「遺産分割協議」)を行う必要があるということです。また、相続財産に名義預金を含めて「相続税の申告」を行う必要があります。

一方、名義預金が相続財産に含まれないと考えれば、妻や子供名義の預貯金は相続財産に含めずに遺産分割協議を行うことになります。相続税の申告も名義預金を含めずに申告することになります。

このように、名義預金が相続財産に含まれるか否かは、相続手続において重要な意味を持ちます。


( 「名義預金」か否かの判断基準  )

このような他人名義で作成された預貯金が「名義預金」にあたるかどうかの判断基準は、預貯金の出捐者」は誰かということを基準に判断する考え方が有力です。つまり、お金の出どころを基準に判断するとするものです。この考え方によれば、亡くなった父親のお金で預貯金が作成されていた場合は「名義預金」に該当することになります。

裁判例も「定期預金」については、原資の出捐者が誰かを基準に判断されており、この考え方を採用しています。但し、普通預金については、必ずしも明確には判断されていません。これは、普通預金は当初の口座開設時から入出金が繰り返されるため、当初の原資の出捐者だけを基準に判断することが難しいからだと思われます。預金口座の運営や管理を誰がどのように行っていたか等を総合的に確認して個別に判断することになると思われます。


( 「遺産分割協議」における「名義預金」の取り扱い方法 )

名義預金か否かの法的な判断基準の考え方については上記で説明しました。しかし、これは名義預金か否かを巡って、相続人間で争いが生じた場合の話です。裁判紛争に発展して裁判所が判決をする際の判断基準です。

名義預金か否かについて相続人間で争いがなければ、その合意内容に沿って遺産分割協議を進めれば良いことになります。

従って、遺産分割の実務では、通常、次のように行うことになります。

(1) 他人名義の預貯金が、亡くなった方(被相続人)の「名義預金」であると相続人間で合意ができた場合は、名義預金を相続財産に含めて遺産分割協議を行います。つまり、その名義預金を誰が相続するかを決めることになります。

(2) 他人名義の預貯金が、被相続人の「名義預金」ではなく、被相続人が生前に名義人に「贈与」したものであると相続人間で合意できた場合は、名義預金は相続財産に含めないことになります。

但し、この場合は、生前贈与された預貯金が「特別受益」に該当することがあります。特別受益に該当する場合は、遺産分割の中で生前贈与を受けた相続人の遺産取得分から特別受益に相応する分を減らす旨の合意がなされることが多いと思います。

(3) 他人名義の預貯金が、元々他人の預貯金であると認められる場合は、名義預金ではないことになります。つまり、もとから名義人の固有財産であったということです。当然、遺産分割の対象にもなりませんし、特別受益にも該当しません。

 


( 相続人間で名義預金か否かについて争いがある場合 )

名義預金か否かの点について、相続人間で合意できない場合は、裁判所に判断を仰ぐことになります。その場合は、先ほど述べた判断基準にて裁判されることになります。

具体的には、「遺産確認訴訟」を提起することになります。この裁判の中で、預貯金の原資の出捐者、預貯金口座の開設後の運営・管理状況などについて、相続人双方が自己に有利な証拠を提出して立証していくことになります。


( 名義預金に対する税務当局の対応 )

相続税や贈与税を徴求する側の税務当局としても「名義預金」か否かの判断は、納税される相続税などに大きく影響してきますので重大な関心事となります。

相続税の税務調査でも「名義預金」か否かの確認は重要な調査項目となります。そして、多くの場合、税務当局の見立てを基に「名義預金である」と判断されて、追徴課税されることが多くなります。

従って、相続人間で名義預金ではないと合意して遺産相続手続が行われたとしても、それとは関係なく、税務当局は独自に判断することになると思います。

税務当局の判断基準は、下級審の判決を基に次の5項目を判断基準としているようです。

  • 預貯金の原資の出捐者
  • 預貯金の管理・運用の状況
  • 利子などの取得者
  • 原資の出捐者、口座名義人、口座管理人と被相続人との関係
  • 名義預金が作成された経緯

つまり、被相続人のお金で預貯金口座を開設し、通帳も印鑑も被相続人が管理していて、利子なども被相続人が使用しているような状況の場合は「名義預金」とみなされる可能性が高くなります。

名義預金とみなされないようにするには、通帳や印鑑の管理は名義人が行う必要があります。また、預貯金について名義人が出し入れをする等、名義人自身の口座として使用している外観が必要になります。生前贈与契約書を作成して贈与税の申告をすることも名義預金ではないことを主張する根拠になると思います。


(まとめ)

遺産分割において「名義預金」が問題になることがあります。預貯金残高が大きい場合、名義預金か否かで各相続人の相続分に大きな影響を及ぼすからです。

また、相続税の申告が必要な場合は、相続人間でどのように合意するかという問題とともに税務当局との対応も重要になってきます。この場合は、税務当局も納得する形で相続人間で合意をまとめた方が良いことになります。

つまり、明らかに名義預金と判断されるものについては、名義預金と認め、遺産分割協議の中に含めて協議します。そして、相続税の申告も名義預金を相続財産に含めて計算して申告納税します。

名義預金を相続財産に含めなかった場合、後日の税務調査で発見されれば追徴課税が重くのしかかることになります。くれぐれも注意してもらいたいと思います。

 

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