親の預金が亡くなってから「勝手に払い出されていた」場合どうすれば良いですか

親が亡くなった後、親名義の預金が一部の相続人によって勝手に引き出されていることがあります。このような場合どうしたら良いのでしょうか。銀行に死亡の連絡をすれば預金口座は凍結(ロック)されて引き出すことができなくなります。しかし、死亡の連絡をしなければ、キャッシュカードを使って自動機からお金を引き出すことができます。


この問題は昔からある相続問題の1つです。勝手に引き出された預金を放置すれば相続人間の不公平を招くことになるため、裁判例も変遷をしています。また、この問題に対する法改正が平成30年になされています。

そのため、この問題の解答は親がいつ亡くなったかによって3つの期間に分けて考える必要があります。具体的には、平成28年12月19日に最高最判所でこの問題に対する重要な判決(実際は決定)がありました。また、その後、この問題への対処として平成30年7月13日に民法の相続法が改正されました。

これにより、亡くなったのが、①平成28年12月19日以前、②平成28年12月19日以降 平成30年の相続法の改正まで、③平成30年の相続法の改正後、の3つの段階ごとに分けて考える必要があります。


( 平成28年12月19日判決以前に亡くなった場合 )
預金の引出しも同期間中に行った場合とします。

従来の考え方によれば、預金などのように数量的に簡単に分けることができる財産 (これを「可分債権」と言います。) については、親が亡くなった瞬間に各相続人に対して、その法定相続分の割合で帰属するとされていました。

従って、相続人全員による遺産分割協議の対象とはならないと考えられていました。各相続人は銀行等に対して勝手に自分の相続分について権利を行使することができるとされていました。

しかし、それでは銀行の預金払い出し事務を含めて円滑な相続手続が難しいので、通常は、相続人全員が合意すれば預金も遺産分割の対象に含めることができるとされていました。実際の実務も預金を遺産分割協議に含めて行うのが通常でした。


ところで、相続人の1人が勝手に預金を引き出した場合、遺産分割協議の対象となる預金は、残された預金残高についてのみ行うとされていました。遺産分割協議の対象は、遺産分割協議の時に現存する財産とされていたからです。そのため、残された預金残高について遺産分割協議をしても勝手に引き出した相続人との間で不公平な結果になります。

そこで、勝手に引き出した相続人が、引き出した預金を遺産分割協議の対象とすることに合意すれば、引き出された預金を含めて遺産分割協議をすることができるとされていました。

しかし、同意されなければ、遺産分割協議の対象に含めることができませんでした。この場合は、勝手に引き出した相続人の法定相続分を超える分については、違法で不当な持ち出しであるため、裁判手続き(「不法行為による損害賠償請求」「不当利得による返還請求」) によって請求する他ありませんでした。

そのため、この期間に亡くなっていた場合は、最悪のケースは、裁判を起こさざるを得ず大変面倒なことになります。


( 平成28年12月19日判決以降、平成30年の相続法の改正までに亡くなった場合 )
※ 預金の引出しも同期間中とします。

平成28年12月19日最高裁判所は、共同相続された預貯金について、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないとし、預貯金が遺産分割協議の対象になるとしました。(従来の考え方を変更しました。)

この判決により、各金融機関も預貯金については遺産分割協議が済んでいない状態では払出に応じなくなりました。但し、キャッシュカードによる自動機からの支払は事実上可能なため、遺産分割協議前に勝手に引き出すことはできることになります。そのため、判決が出たのですが、問題の根本は解決していないことになります。

この場合でも遺産分割協議の対象は、遺産分割の時に現存する預金となります。そのため、勝手に引き出された預金は遺産分割協議の対象とすることはできないのです。

預金を勝手に引き出した相続人が引き出された預金を遺産分割協議の対象とすることに同意すれば、遺産分割協議の対象に含めることはできました。しかし、合意しなければ、判決前の結論と変わることはなく、裁判手続きによって解決するしかありません。


( 平成30年の相続法の改正後に亡くなった場合 )

勝手に引き出された預金を遺産分割協議の対象に含める手立てを考えない限り、問題の根本解決にはならないことになります。そこで、民法の相続法が改正されました。

改正法では、次のように改められました。

◆遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、処分された財産が遺産の分割の時に遺産として存在するものとみなすことができる。

◆共同相続人の一部又は数人により財産の処分がされた時は、上記の同意は、処分をした共同相続人の同意を得ることを要しない。( つまり、その者たちを除いて同意ができるということです。)

なお、今回の改正では、相続財産の対象を預貯金に限らず、遺産に属する財産と広くとらえています。

 


この結果、勝手に引き出された預金の対応としては次のようになります。

■勝手に引き出された預金がある場合は、その相続人が引き出された預金を遺産分割協議に含めることに同意すれば、その預金を含めて遺産分割協議をします。

■同意しない場合は、その相続人以外の相続人全員の同意によって、その預金を遺産分割協議の対象に含めることができます。勝手に引き出した相続人の同意は不要です。これにより、勝手に引き出した預金を、その相続人の相続分として既に受け取ったものとして加える等の対応をすることができます。これにより、各相続人間の公平を図ることができます。


但し、改正法によっても限界がありますので注意が必要です。

勝手に預金などの相続財産が処分された場合において、全ての財産が処分されてしまうと遺産分割協議自体が成立しなくなります。つまり、勝手な処分の結果、相続財産が「ゼロ」となった場合です。

遺産分割協議は、現に存在する財産の分割のための協議ですので、財産がない場合は協議が成立しません。そのため、このような場合は、他の相続人が同意しても勝手に処分した財産を戻すことはできません。受け皿となる遺産がないからです。

このようなケースは、改正法の限界となり、裁判手続きによって解決するしかありません。

※ 尚、平成30年の相続法の改正には「経過措置」がありますので、亡くなった日、預金を引き出した日などの前後関係によって適用される法律関係が異なりますので、詳しくは専門家にお尋ねください。

(まとめ)

親が亡くなって親の預金が勝手に引き出されていることがあります。相続人であれば、銀行に申し出れば、亡くなった親の預金口座の過去の履歴を請求することができます。この中で不正な引出しが発見されることがあります。

他の相続人が勝手に預金を引き出したように見えても実は色々な事情があることがあります。葬儀代、故人の借金の支払、介護施設や病院の代金の清算などの場合です。資金の使い道をよく確認してみることが必要です。

この問題は、相続人間で話し合いができるのであれば、特に揉めることなく済ませることができます。しかし、理由もなく勝手に引き出された預金について、不公平な分割を主張する相続人に対しては、公平な分割ができるように強硬な態度を見せることも必要かもしれません。

 

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