「法定相続分による相続登記」をした後の登記手続が変更になるようです

親が亡くなり、親名義の不動産の名義変更を行うとき色々な事情から、とりあえず「法定相続分による相続登記」を行うことがあります。法定相続分による相続登記とは、例えば、父親が亡くなり、相続人として妻と長男、長女がいる場合、実家の名義を民法で定められている法定相続分に従って、妻1/2、長男1/4、長女1/4と共有名義で登記することです。

本来は、親の残した実家を誰が相続するかについては相続人全員で話し合いを行って相続する者を決めます。これを「遺産分割協議」といいます。遺産分割協議で相続先が決まった相続人が自分名義への相続登記をするのが一般的なやり方です。


わざわざ「法定相続分による相続登記」を行ってから、遺産分割協議後に再度「相続登記」を行うことは二度手間となるためあまり行われません。しかし、色々な理由から、とりあえず「法定相続分による相続登記」をする場合があります。

「法定相続分による相続登記」を行う理由として次のようなことが考えられます。①遺産分割の話し合いで相続人間での合意が簡単にはできない場合、②相続人の中に行方不明者や海外居住者などがいるため簡単には相続手続ができない場合、③相続人の中に認知症の方がいるため簡単には相続手続ができない場合、等が考えられます。

もちろん、これらの理由があっても、それぞれの問題が解消されるのを待ってから「遺産分割協議」を行って相続登記を行うこともできます。しかし、登記名義が宙ぶらりんのまま放置しておくことを嫌って、法定相続分による相続登記を行ってから正式の相続登記を行いたい場合もあるのです。

法定相続分による相続登記を行ってから後の相続登記手続きについて、令和5年4月1日以降、取扱い手続に変更が発生するようです。少し専門的でテクニカルな話になりますが説明します。

 
今回の話ではありませんが、法定相続分による相続登記を行わないで、遺産分割協議の成立により相続登記をする場合は、所有権を取得した相続人が単独で相続登記を申請することができます。登録免許税は不動産の課税価格に1000分の4の税率を掛けたものになります。この点の変更はありません。


( 従来の取り扱い )

(1) 法定相続分による相続登記を行った後、「相続放棄」の結果や「特定財産承継遺言」「遺贈」に基づいて共有名義を単独名義にするためには、登記権利者と登記義務者の「共同申請」による「更正登記」によることとしていました。登録免許税は不動産1個につき1,000円です。

法定相続分による相続登記を行ったが、その後、相続人の一部が相続放棄を行うと、その方は初めから相続人ではなかったことになります。また、「遺言書」が発見されて、その内容が実家を長男に相続させるという内容 (これを「特定財産承継遺言」と言います)であったり、実家は亡くなった親の孫に遺贈するという内容であったりした場合、登記名義の修正をする必要があります。

相続放棄も遺言書もその効果は、親が亡くなった時点に遡って発生するとされています。つまり、法定相続分によって登記されている各相続人の登記は、初めから正しくなかったことになります。

このように登記が何らかの理由で初めから誤っていた場合は、登記の「更正」を行うことができます。これを「更正登記」と言います。更正登記は、権利を失う者と権利を獲得する者が共同して申請します。これを「共同申請」と言います。また、更正登記は不動産1個につき1,000円の登録免許税で処理することができます。

今回、この取扱について変更が発生します。(変更内容は後述します。)


(2) 法定相続による相続登記を行った後、遺産分割協議が成立した場合は、権利を取得した者と権利を失う者が共同して「持分移転登記」をすることとしていました。登録免許税は、不動産価格の4/1000です。

遺産分割協議の効果は、親が亡くなった時点に遡って発生すると考えられています。そう考えると、このケースも(1)の場合と同様に、登記が当初から誤っていたと考えて「更正登記」ができてもよさそうです。しかし、登記実務は従来より、この場合は遺産相続協議により所有権の移転が生じると考えて「持分移転登記」を行う必要があるとしていました。

そのため、登録免許税も、より高額な移転した不動産価格の4/1000となっていました。

この取扱についても変更が発生します。


( 今回の取り扱いによる変更点 )

法定相続分での相続登記がされた場合における登記手続きの簡素化の観点から、令和5年4月1日以降、次のように変更されます。

◆ 法定相続分での相続登記がなされた場合、次の①から④の登記をする場合は、「更正の登記」によることができるものとした上で、登記権利者が「単独で申請」できることになりました。登録免許税も不動産1個について1,000円となります。

① 遺産分割協議 (調停・審判含む) による所有権の取得に関する登記
② 他の相続人の相続の放棄による所有権の取得に関する登記
③ 特定財産承継遺言による所有権の取得に関する登記
④ 相続人が受遺者である遺贈による所有権の取得に関する登記

①は、法定相続分による登記後、遺産分割協議か成立した場合の話です。従来の「持分移転登記」による扱いが「更正登記」に変更されました。結果として、登録免許税も安くなります。遺産分割協議が当事者の話し合いだけで解決しない場合は、調停や審判などでの裁判手続きで決着した場合も含まれます。また、従来の「共同申請」が「単独申請」に変更されました。

②は、法定相続分による相続登記後、相続放棄が発生した場合の取り扱いです。こちらは、「共同申請」が「単独申請」に変更されました。「更正登記」によることは変更ありません。

③は、法定相続分による相続登記後、特定財産承継遺言が発見された場合の取り扱いです。こちらも従来の「共同申請」が「単独申請」に変更されました。「更正登記」によることは変更ありません。

④は、法定相続分による相続登記後、特定の相続人宛てに遺贈するとする遺言書が発生された場合の取り扱いです。こちらは「更正登記」による「単独申請」となりました。

なお、登記申請時には、申請書に「登記原因」を書きます。更正登記の場合の登記原因は「錯誤」となります。当初から間違っていた登記を更正する原因として「勘違い」の意味で「錯誤」と書きます。

しかし、上記①の「遺産分割協議が設立した」場合は、「錯誤」ではしっくりきません。遺産分割協議の成立は勘違いではないからです。この場合は「遺産分割協議」とする扱いになるものと思われます。

 


( 今回の取り扱い変更の方法 )

今回の取り扱いの変更は、「不動産登記実務の運用により対応する」とされています。つまり、この点に関する明確な法令の改正はされないという意味のようです。法務局の取り扱いの変更という形で実務に下ろされると思われます。具体的には、登記実務に関する「通達」や「先例」の形で運用されのではないかと思います。変更時期などについても、今後情報収集していく必要があります。


(まとめ)

法定相続分による相続登記を行うことは珍しいと思います。法定相続分による相続登記を行ってから遺産分割協議が成立した場合、相続登記手続を二度行う必要があります。登録免許税も移転する不動産価格の4/1000を2回支払う必要があり、手続き費用面から考えてこのような登記は行われてこなかったと思います。

しかし、今回の取り扱いの変更によって、より気軽に「法定相続分による相続登記」を行える環境が整ったことになります。

令和6年4月1日からの「相続登記の義務化」を見据えて、相続登記手続の簡素化の観点からの変更が続いていると思います。

 

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