「遺言書」を書いておいた方が良い場合とはどのようなときですか

「遺言書」はどのようなときに書かれるのでしょうか。遺言は遺言をする方の所有する財産に対する最終的な処分意思の表明です。自分の財産は自分で承継先や処分方法を決めておきたい場合に遺言書を作成することになります。


しかし、実際にはこのような動機で作成される遺言書は意外と少ないと思います。自分が亡くなった後の財産の分け方について、生前に考えることはあっても実際に遺言書として作成される方はそんなには多くないと思います。

実際に作成しようとすると色々と面倒な手続を理解する必要があり、また亡くなった後のことを考えるのは縁起が悪いと考える場合もあります。結局、子供達が何とかしてくれるに違いないと思って検討をやめてしまうのです。

( 遺言書が実際に作成される事例 )

実務の中で遺言書の作成をお手伝いすることも多いのですが、その経験からすると遺言書を作成する事例には一定のパターンがあるように思います。ここでは、実際に遺言書が作成されることの多い事例について見て行きます。

< 子のいない夫婦の場合 >



子供のいない夫婦がお互いに全財産を分与する遺言書を書くケースがあります。夫婦がそれぞれ宛てに全財産を与える内容の遺言書を書いておくのです。子供のいない夫婦の場合、一方の配偶者が亡くなると相続人は残された配偶者と亡くなった配偶者の親や兄弟姉妹となります。

詳しく言えば、亡くなった配偶者の遺産相続では、相続人は残された配偶者と亡くなった配偶者の親です。親が亡くなっていれば亡くなった配偶者の兄弟姉妹が相続人となります。これらの相続人間で遺産分割協議を行って遺産の分割方法を決める必要があります。簡単に結論が出れば良いのですが、もめれば厄介なことになります。

残された配偶者にとって、面倒な相続手続はできる限り回避したいと考えます。そこで、生前に遺言書を作成することによって、このような面倒な相続手続を回避しようとするのです。兄弟姉妹には遺留分がないことから、親が既に亡くなっていれば、遺言書を書くことによって全財産を相手方配偶者に分与することができるのです。

<親族間で相続争いが予見される場合>



相続財産について相続争いが事前に予見される場合があります。生前から相続財産について「自分は○○が欲しい」「いや○○は私がもらいたい」など争いが予想される場合です。実際に争いになるかどうかは分かりませんが、親族が「争族」争いになることを避けるために遺言書を書いておくのです。

また、相続財産が多く相続税の申告が必要な場合は、相続争いをしていると亡くなってから10ヶ月という相続税の申告期限を守れなくなる恐れがあります。このような場合も事前に遺言書を作成して円滑な相続税の申告手続ができるようにしておくのです。

<相続人となる方の中に認知症の方がいる場合>



例えば、高齢の夫婦の妻が認知症の場合、夫が亡くなると相続手続は相続人である妻と子で行われます。しかし、妻が認知症のため意思表示をすることが難しい場合は、相続手続を行うことができません。残された子だけで相続手続を完結させることはできないのです。

この場合は、認知症の妻のために「成年後見人」を選定して相続手続きを行う必要があります。しかし、成年後見人の選任やその後の運営には費用がかかるためできるだけ避けたいと考えたくなります。

このような場合も生前に遺言書を作成しておけば、妻の認知症に関わりなく相続手続を遺言書に従って行うことができます。

同様のことは、相続人の中に「行方不明者」がいる場合も当てはまります。この場合も遺言書を作成しておけば、行方不明者のために「不在者財産管理人」などの選任をすることなく遺言書に従って相続手続を行うことができます。



また、最近は相続手続が面倒になるケースとして、相続人が海外にいる場合があります。この場合は、相続手続のために海外との往復をしたり、印鑑証明書に代わる「サイン証明書」などを取得したりと面倒な手続が必要になります。これを回避するために事前に遺言書を作成しておくことがあります。

<同居の親族が遺言書の作成を本人に迫るケース>


本人と相続人となる人が同居している場合があります。例えば、老夫婦と長男が同居していて長女などの他の兄弟は別に暮らしている場合です。この場合、同居している長男にとって、親の自宅は長男である自分が相続しないと住むところがなくなってしまいます。

他の兄弟との関係が良好であれば良いのですが、相続発生時に自宅の相続権を簡単に譲ってくれる保証がない場合は不安になります。この場合は、自宅の所有者である親に対して長男から遺言書の作成を迫ることになります。

自宅以外にも相続人にとってほしい財産について、抜け駆け的に相続できるように親に遺言書を書くように迫るケースもあると思います。

<遺贈寄付の場合>


身寄りのない いわゆる「お一人様」が最近増えています。このような方は財産の承継先がない場合や親族はいるものの折り合いが悪く親族への資産の承継を考えない場合があります。このようなとき財産の処分方法として「遺贈寄付」をされる場合があります。

住んでいる自治体や菩提寺、大学の研究機関、NPO法人など最近は寄付先も色々あります。自分で遺贈寄付の手続きをすることが難しい場合は、寄付を手助けしてくれるサービスも色々とあります。遺贈寄付によって遺言をされるケースも最近は徐々に増えています。

(まとめ)

実際に遺言書が作られるケースを見ると、本人の意思で遺言書を作成する場合もありますが、周りの親族が相続時に起こり得る不安を感じて、その対策として本人に遺言書の作成を迫るケースも多いと思います。

つまり、自主的な遺言よりも親族から勧められて行うものが多いということです。終活作業を進めていく中で、色々な不安材料が洗い出されてきて、その対策として「遺言書」の作成が検討されているのです。もちろん遺贈寄付のように本人だけの意思で遺言書を作成するケースもあります。

今回説明した遺言書がよく作られるケースを参考にして、これらのケースに該当する方は遺言書の作成を検討すべきかもしれません。検討にあたって相談事があれば、近くの相続に詳しい司法書士などに相談されると良いと思います。

 

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