遺言書は「遺留分」に気を遣うことが大切です

生前の相続対策として「遺言書の効用」が徐々に認識され、最近は遺言書の作成を検討されている方が増えています。遺言書を書く場合、「誰に何を相続させるか」を中心に考えると思います。相続人である配偶者や子供たちの現状や将来予測を考えて最適な遺産承継方法を模索すると思います。


このとき大切なことは、出来上がった遺言書について、各相続人の「遺留分」を侵害していないかという観点からチェックしてみることです。1人の相続人に多額の遺産を相続させたいと思って遺言書を書いても、それが他の相続人の遺留分を侵害する内容であれば、本人が亡くなってから「争族」問題に発展する恐れがあります。

本人が亡くなったとき、遺留分を侵害された相続人が遺言書の内容に文句を言わなければ争いは表面化しません。しかし、不満を表せば、「遺留分侵害額請求」という法的な争いに発展します。一旦、遺留分侵害に関する争いが表面化すれば、解決に相当の歳月と費用がかかる場合があります。


相続対策として遺言書を作成したにもかかわらず、結果として「争族」問題を引き起こしては本末転倒の状況になります。
そのため、遺言書を作成する場合は、各相続人の遺留分に配慮した内容とすることが必要となります。

具体的には、遺産全体の評価額を金銭に見積もった上で、各相続人に保障されている「遺留分」の額を計算し、遺留分の額に見合う財産を各相続人に保障する内容にする必要があるということです。遺留分の額は法定相続分の半額 (但し、直系尊属だけが相続人の場合は3分の1)ですので工夫して配分することがポイントになります。


ところで、現実には「遺留分」に配慮できない場合や配慮したくない場合も多いと思います。分与できる財産がないため配慮できない場合や相続人との過去の人間関係から財産をどうしても相続させたくない場合もあります。

具体的な事例は色々とあると思いますが、それぞれのケースに応じて最適な対応策を検討していくことが必要になります。公式に当てはめれば答えが出るような単純なものは少ないと思います。お一人で検討することが難しければ、相続の専門家に相談することも選択肢となります。

遺留分に配慮できない遺言書を作成する場合の対応策として、2つの事例を参考にお示しします。

<事例ケース1>

遺言者は、妻と長女と同居しています。遺言者は、長女に同居している自宅を相続させたいと思っています。遺言者は、妻を受取人とする生命保険金をかけていますが、年金生活のため、他に目ぼしい財産はありません。遺言者には独立して遠隔地に住む長男がいます。

この場合、遺言書で「自宅を長女に相続させる。」とすると妻と長男の遺留分を侵害します。では、どのような対応策が考えられるのでしょうか。


(対応策)
  1つの対応策として、次の内容の遺言書を作成する方法があります。

  1. 妻の居住権を保障するために、自宅に妻のために「配偶者居住権」の設定をする。
  2. 妻が受取人になっている生命保険金の受取人を長女名義に変更する。

いずれも遺言書に書いておくということです。効力の発生は、相続が発生した時になります。妻の自宅への居住権を保障することにより、遺留分相当程度の財産が妻に確保されたことになります。生命保険金の受取人を長女に変更することにより、長女から長男に対して遺留分相当額の給付をすることができます。もちろん、母親の生活は長女が面倒を見ることが前提となります。

この対応策によって、問題解決のように見えますが課題もあります。例えば、配偶者居住権の相続財産としての評価額について、実際には、自宅の築年数や配偶者の年齢によって、配偶者居住権の評価額(資産価値)が低額となり、遺留分に相当する額を下回る場合があります。

また、生命保険金は通常は相続財産にならないため設例のような対応策が取れますが、これについても、この家族の生活状況や保険金の額によっては、長女が受け取った生命保険金が「特別受益」となり、相続財産に持ち戻さなければならない可能性もあります。相続財産に組み入れられた場合は、遺留分の額が増え想定通りの結果にならない場合があります。


このように解決策の実現可能性については、慎重に確認していく必要があります。

 

<事例ケース2>

遺言者は、妻と長女と同居しています。遺言者は自宅を妻に相続させ、預貯金などの財産は長女に相続させたいと考えています。相続人は他に長男がいます。長男は家を飛び出して、別の町で生活しているようですが、音信不通の状態です。長男は、以前より「遺産の一部は自分にも貰う権利がある」と言っていました。事例1との違いは、長男が遺留分侵害額請求を匂わせている点です。

遺言者としては、長男が遺留分の請求をした場合、妻が自宅を売却して対応しなければならないことは避けたいと考えています。

(対応策)

長男から遺留分の請求があった場合、妻と長女は平等に負担を受けることになります。長女は相続した預貯金から支払うことができますが、妻の場合は自宅しかありませんので手元資金が少なければ自宅を売却する必要がでてきます。

そこで、遺言書に長男の遺留分請求に対する支払い負担者の順番を定めておくことによって、妻の自宅売却を防ぐことができます。

具体的には、次の内容の遺言書を作成しておくことになります。

1.遺言書で遺留分を請求された場合の負担者の順番を「長女」からと指定しておく。
【遺言書の記載例】
第×条 遺言者は、遺留分侵害額については、まず長女〇〇〇〇から負担すべきものと定める。

但し、注意点として、この方法でも長男の遺留分について長女が負担するのは、長女自身の遺留分額を除いた額が上限になりますので、それを超えた場合は、妻にも請求が行くことになります。この場合は、自宅売却の可能性がでてきます。

従って、遺産総額を正確に見積もった上で長男の遺留分額を計算しておかないと想定通りにならない可能性があります。

2つの事例を見てきましたが、何らかの理由で遺留分を侵害する遺言書を作成する場合は、慎重に対応策を検討する必要があります。一見、良さそうな対応策もよく検討してみると落とし穴がある場合がありますので注意が必要です。

(まとめ)

遺言書を作成する場合は、「遺留分」に十分配慮した内容とすることが大切です。

どうしても配慮できない又はしたくない場合は、専門家ともよく相談して対応策を検討しておくことが必要になります。

対応策も色々考えられますが、考え落ちがないように慎重に進めてもらいたいと思います。

 

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