「争族」問題は、他人事ではありません。

週刊誌やテレビ等のマスコミで「争族問題」がよく話題になっています。しかし、報道を見ている多くの方は自分には関係がないと考えていることが多いと思います。仮に自分の置かれている立場が「争族」問題に発展するリスクが高いケースであると分かっていても、自分の場合は大丈夫と考えてしまう傾向があります。


また、相続財産を譲る親の心理として、相続について多少の関心はあるかもしれませんが、それについて「誰かに相談する」とか「相続について勉強する」などの行動をとる方は稀だと思います。
いざ相続が始まれば、相続手続を行うのは自分ではなく、それは相続人であると考えるからです。それがどのように大変になるのか、どんな負担が発生するのかなど、相続人の立場になって考えることのできる方は少ないと思います。


その結果、いざ相続が発生したとき、相続人は初めて「争族」問題の存在と解決の難しさに直面することになります。
何らの事前対策を取らないで直面する「争族」問題は、対応に大変な負担が発生する場合があり、場合によっては解決に長い年月と「親族間の絶縁」という重い後遺症をもたらす場合があります。


そのような事態に陥らないためには、「争族問題」に発展しうるリスク要因を正確に見極め、事前の対策を実施しておくことが大切になります。
多くの場合、親などの本人に期待するより相続人の側で事前にリスク調査を行って、積極的に事前の対策を親などに働きかけていくことが必要になります。

つまり、「争族」問題への事前対策は、親などに頼ることなく、相続人である子の世代が積極的に考え行動する必要があります。子世代であればネットを活用してより多くの情報収集ができ、必要な対策も積極的に行動して準備することができます。

そこで、次に「争族」問題に発展しうる代表的なリスク要因を列挙します。ここに列挙された事例に該当する場合は、「争族」問題のリスク要因として認識する必要があります。該当する数が多ければよりリスク度が高くなるということになります。

<争族問題に発展しうる代表的なリスク要因>

1.相続人について

□ 子供の数が多い。
□ 相続人が遠方に住んでいる。又は海外に住んでいる。
□ 音信不通の者がいる。又は行方不明の者がいる。
□ 子世代が不仲である(兄弟の仲が悪い)。
□ 自立できない子供がいる。
□ 障がいを持った子供がいる。
□ 親の面倒を特定の相続人がみている。
□ 親の介護を長男の妻がしている。
□ 相続人の中に障がい者や認知症の者がいる。
□ 相続人の中に未成年者がいる。


これらのケースに該当する場合、考えられるリスクは、相続手続の前提となる「遺産分割協議」の成立が難しくなる場合があるということです。
協議参加者の人数が多いとか住所が離れている問題であれば、時間で解決できるケースが多いと思いますが、それでも大変苦労することが予想されます。

相続人間のそれまでの人間関係が原因で遺産分割協議が円満に成立できない場合もあります。親の介護をしていた方の相続分や寄与分を巡って揉める場合も想定されます。また、相続人の「意思能力」の問題で遺産分割協議に参加できない場合もあります。未成年者や行方不明者がいれば、特別の代理人を選任する必要があります。

2.被相続人(親など) について

□ 再婚している。
□ 後妻に子供がいる。前妻に子供がいる。
□ 未婚である。
□ 子供がいない。
□ 特定の相続人(子)に生前にお金を渡している。
□ 取引している金融機関が多い。
□ 借金がある。連帯保証人になっている。


こちらのケースに該当する場合も「遺産分割協議」の成立が難しくなることが考えられます。
相続人として関与する方として、前妻の子や兄弟などが登場するため、協議が簡単に成立しないことが想定されます。また、特定の相続人に生前に贈与していると、その分の扱いについて揉めることになります。

また、取引金融機関が多いと相続財産の調査に手間取りますし、多額の借金があればとるべき手続きが違ってきます。

3.相続財産について

□ 財産が自宅などの不動産のみである。
□ 先祖の名義の不動産がある。
□ 農地や山林がある。
□ 相続財産がよくわからない。
□ 名義預金(家族名義で貯めたお金)がある。
□ 賃貸アパートなどの収益物件がある。


相続財産が不動産の場合、分割方法が難しくなる場合があります。できるだけ共有名義での相続は避けたいと考えると、うまく分割できないケースもでてきます。相続登記が実施されていない先祖名義の不動産がある場合も相続人の数が多くなるため問題となります。不動産の中に農地や山林があると承継したくない相続人の問題が発生します。

ビットコインやネット銀行口座などのオンライン上での金融資産の場合も相続財産の調査において困難を伴う場合があります。名義預金は、相続税法上、みなし相続財産とされますので取扱いに注意が必要になります。賃貸アパートなどの収益物件は、管理が伴いますので承継者にも一定のノウハウが必要になります。

 

以上、リスク要因について見てきましたが、事前にリスク要因が分かっている場合は、必要な対策を検討して最善の準備を行う必要があります。

具体的な対応策は、それぞれのケースに応じて異なってきます。一般的には、「相続人の事前調査」「相続財産の事前調査」「遺言書の作成検討」などが、有力な事前の対策アクションとなります。

相続人の事前調査は、戸籍を見ればできますが、相続財産の調査は簡単ではないかもしれません。少しづつでも資産情報の収集を行っていくことが大切になります。遺言書の作成は、本人がするものなので、いかに親などをその気にさせて作成してもらうかということになります。相続発生時に起こり得る問題を丁寧に説明して、遺言書を作成してもらうことになります。

その他、「家族信託」の活用など色々な方策もありますので、相続に詳しい専門家に相談されると良いと思います。


(まとめ)

「争族」問題は他人事と考えず、必要な対策を考えておくことが必要です。相続発生時に慌てないためにも、事前に必要な対策を検討することが重要になります。多くの相続の場合、リスク要因の1つや2つは大抵の場合存在しますので、この問題に目をそらさずに対応することが必要です。

 

Follow me!