遺言書で「先祖代々の墓」や「仏壇」等の承継先を定めることができますか

相続人は、相続開始のときから亡くなった方の財産に属した一切の権利や義務を承継します。しかし、「系譜」「祭具」「墳墓」の所有権は、相続の対象とはならず、祖先の祭祀を主宰すべき者が承継することになります。この主宰者のことを「祭祀承継者」といいます。

祭祀承継者は、亡くなった方が生前に「指定」していれば、その指定された方が祭祀承継者となります。指定がなければ慣習により定まることになります。慣習が明らかでない場合は、家庭裁判所が申し立てに基づいて定めることになります。



(「祭祀承継者」の指定方法 )

祭祀承継者を指定する方法について特に制限はありません。現在の祭祀承継者が息子や娘に口頭で指定する旨を伝えても問題ありません。家族や親族間に異論がなければ、それで済むことになります。

但し、口頭ベースの指定の場合は、言った言わないでもめることがあります。後々の証拠として確実性を図りたいのであれば書面に書いておくことが必要になります。書くべき書面についても特に制限はありませんので任意の用紙に指定する旨を書いておけば良いでしょう。

しかし、現実的には任意の用紙に「祭祀承継者の指定」だけを書いておくことは、あまり聞いたことがありません。通常は「遺言書」の中に書いておくことが多いと思います。


(「遺言書」で祭祀承継者を指定する意味 )

遺言書には、遺言書に書くことによって法的な効力が生じる事項とそうでない事項があります。「自宅は妻に相続させる」等の財産の承継先に関する文言は法的な効力が生じる事柄です。

一方、「葬儀は家族葬にしてほしい」「散骨してほしい」「法要は7回忌までやってほしい」等の記載は、遺言書に書くことはできますが、書かれてあっても法的な効力は発生しません。これを「付言事項」といいます。

付言事項は、相続人に対する要望であり、お願い事項です。相続人が要望に応えれば効果を生じますが、無視されれは法的に請求することはできない事柄です。

今回のテーマである「祭祀承継者の指定」は、遺言書に書いても遺言書としての法的な効力の発生する事柄ではありません。「付言事項」という位置づけになります。

では、遺言書に書いても無駄になるかというとそうではありません。遺言書としての効力はありませんが、「祭祀承継者の指定」という意味では法的な効力が発生します。もともと任意の紙に書いても法的な効力が発生する事柄ですので、遺言書という書面に書いても、当然、法的な効力が発生するということです。

結論としては、遺言書に祭祀承継者の指定を書いておけば墓や仏壇などの承継先を定めることができることになります。


( 遺言書での「祭祀承継者」の記載方法 例 )

遺言書で祭祀承継者を指定する場合の書き方としては次のようになります。

第×条
遺言者は、祖先の祭祀を主宰すべき者として、遺言者の長男山田太郎(昭和〇年〇月〇日生)を指定する。

これにより、先祖代々の墓や仏壇等は、長男である山田太郎が承継して管理していくことになります。


( 墓や仏壇などを別々の者に承継させたい場合 )

祭祀承継をする者は通常は1人ですが、家庭の事情により、墓や仏壇ごとに別々の祭祀承継者を指定したい場合があります。例えば、結婚して長男が生まれたが、その後、妻が病死したため再婚したケースです。本人には先祖代々の墓があるのですが、再婚した妻との間にも子供ができたため、再婚した妻のための家族用に新しい墓や仏壇を揃えたような場合です。

先祖代々の墓は、先妻の子である長男に承継させて、新しい墓や仏壇は現在の妻との子に承継してもらいたいような場合です。

一般的に、民法の趣旨からすると、特段の事情がない限り祭祀承継者は1人であることが前提とされています。しかし、具体的事情により複数人にせざるを得ない場合もあることから、分割して承継することも可能であるとされています。

祭祀承継者を分割する場合は、分割すべき祭祀財産を明確に区別して遺言書に書くことが必要になります。



( 別々の祭祀承継者に分割して承継する場合の遺言書 例 )

第×条
遺言者は、祖先の祭祀を主宰すべき者として、遺言者の亡き妻山田花子(昭和〇年〇月〇日生 平成〇年〇月〇日死亡)との子である長男山田太郎(平成〇年〇月〇日生)を指定する。
ただし、次に記載する祭祀財産は、遺言者の妻山田良子(昭和〇年〇月〇日生)との子である長女山田優子(平成〇年〇月〇日生)に承継させる。

(1) 〇〇県〇〇市〇〇町123番地 □□霊園の遺言者の墳墓
(2) 遺言者の自宅にある卓上型仏壇とその付属品

(まとめ)


遺言書で先祖代々の墓や仏壇等の承継先を定めることはできます。自筆の遺言書に書いておくこともできますが、より確実性を求めるのであれば「公正証書」遺言にすることをお勧めしますす。お墓などの承継先については、先祖からの責任もあるため、相続財産以上に気を配り、より確実性を図る必要があるからです。

遺言書の作成の相談は、近くの相続に詳しい司法書士などに相談下さい。

 

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