遺言で「相続分の指定」をしたいのですが注意点はありますか

「相続分の指定」とは、遺言書で法定相続分の割合とは異なった割合で相続分を定めることです。例えば、父親が亡くなり相続人が妻と長男、長女の場合、各相続人の「法定相続分」は、妻が1/2、長男1/4、長女1/4と法定されています。しかし、この法定相続分の割合が気に入らなければ、遺言書を書くことによって自由にこの割合を変更することができます。これが遺言による「相続分の指定」ということです。

遺言書を書く人


相続分の指定方法としては、「妻、長男、長女の相続分を各3分の1ずつとする。」とか、「妻に遺産の60%、長男に20%、長女に20%を与える。」などのように相続財産全体に対する割合を指定します。

ところで、遺言書の書き方としては、この「相続分の指定」方式以外に特定の財産を特定の相続人に相続させると書くことができます。例えば、「自宅は妻に相続させる。預金は長男に相続させる。株式は長女に相続させる。」というものです。これを「特定財産承継遺言」といいます。

次に、この「相続分の指定」方式の遺言と「特定財産承継遺言」の違いを見て行きます。


(「相続分の指定」と「特定財産承継遺言」の違い )

「相続分の指定」方式の遺言と「特定財産承継遺言」の違いは、遺産相続の完結性の有無にあります。「相続分の指定」方式の遺言は、相続財産に対する各相続人の相続割合を定めたに過ぎないため、具体的な相続財産の分け方について、遺言書とは別に、相続人で話し合いが必要になるということです。この話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。

一方、特定財産承継遺言の場合は、遺言書の指定で相続する財産が決まっていますので遺言書の指定通りに相続すれば良いことになります。

つまり、「相続分の指定」方式は特定財産承継遺言に比べて迂遠な方式ということができます。しかし、相続財産の種類や数が多い場合など、いちいち「何は誰それに相続させる」と書くことが面倒な場合などに「相続分の指定」方式が利用されることもあるのです。


遺言書を自筆証書で作成する場合、全文を自署することが求められます。遺言者が高齢や病気の場合、相続財産毎に相続先を書き分けることは大変な筆記作業になります。そのため、昔の遺言書の中には、書くことが簡単な「相続分の指定」方式が多く見られることになります。

尚、最近は、自筆証書遺言について「遺言書の全文自署」の定めが緩和されて財産の明細についてはパソコンなどでの作成も認められました。また、公正証書遺言については公証人が遺言書を作成しますので、「特定財産承継遺言」の方式で作成されるものが多いと思います。

 


次に「相続分の指定」方式の遺言書の注意点について見て行きます。

(「相続分の指定」方式の注意点 )

(1) 相続人全員による遺産分割協議が必要になります

「相続分の指定方式」で遺言書を作成すると具体的な財産毎の相続先を決めるために相続人全員によって「遺産分割協議」を行うことが必要になります。

遺言者が指定した割合に従って、相続財産の分割方法を具体的に決定する必要があります。相続人全員が同意できるのであれば、遺言者の指定した割合を変更して分割方法を定めることもできます。遺言者の意思には反しますが、相続人全員が納得できるのであれば問題が生じないからです。(但し、弁護士や司法書士等が遺言執行者に指定されている場合は、それらの者の同意も必要になります。)

もちろん、相続人間で協議がまとまらなければ、家庭裁判所で「調停」や「審判」手続によって分割方法を決定することになります。この場合、裁判所は遺言者の指定した相続割合に拘束されますので、その割合を考慮して分割方法が決定されるものと思います。

 


(2) 相続割合が100% にならない遺言書の場合、遺言書の解釈でもめることになります。

「相続分の指定」方式の場合、相続分の指定割合の合計は通常100%になります。しかし、中には、「長男に遺産の50%を与える。」とだけ書いてある場合や「妻に30%、長男に20%、長女に20%を与える。」と書いてある場合など全体の合計が100%未満の場合があります。

この場合は、残り遺産についてどのように考えたらよいのか分からなくなります。もめる原因にもなります。残りは法定相続分で相続するとする考え方もあります。しかし、「長男に遺産の50%を与える。」とした場合について、長男は50%プラス法定相続分も相続するのか50%だけ相続することなのか遺言書の解釈が分かれることになります。

「相続分の指定」の方式には合計を100%にするという法律要件はありませんが、色々な解釈が生じないように100% 指定しておくことが必要だと思います。


(3) 相続分の指定のない相続人がいた場合、その方も「遺産分割協議」の参加者になります。

例えば、相続人が妻と長男、長女のときで、遺言書の記載が「妻に2/3、長女に1/3与える」とされている場合です。この場合、長男は指定相続分がありませんので相続財産の分割手続きである「遺産分割協議」に参加できないように見えます。しかし、実際は逆で長男を入れた形でないと遺産分割協議は無効になる場合があります。

相続分の指定を受けなかった長男も相続人であることに変わりがありません。また、長男の「遺留分」が侵害されています。長男がその遺留分を主張する場合は、長男を遺産分割協議に加えなければならないと考えられています。

つまり、相続分の指定のない相続人も遺産分割協議に参加させないといけないということです。


遺言者としては、長男との折り合いが悪いため長男を除いた遺言書を書いたつもりでも、最終的には長男が遺産分割協議に参加してくれないと協議が有効に成立できないのです。この点を理解した上で遺言書を作成する必要があるのです。長男が気を悪くして協議に参加してくれなければ相続手続が止まってしまいます。

なお、長男が「遺留分を放棄」している場合や「相続放棄」をしている場合は協議に参加する必要はありません。(なお、相続開始前の遺留分の放棄は家庭裁判所の許可が必要となります。相続開始後でも遺留分は放棄することができます。)

実家などの不動産の相続による名義変更(相続登記)手続においては、「遺産分割協議書」を登記申請書に添付する必要があります。前例のような相続分の指定のない長男の署名捺印(印鑑証明書付き)も遺産分割協議書に必要となります。

遺留分を放棄していたなどの場合は、家庭裁判所の許可を受けたことを証する書面などを登記申請書に添付して登記申請します。


(4) 借金の額は「相続分の指定」どおりにはならない

遺言書の「相続分の指定」は、プラスの財産であれマイナスの負債であれ遺産全てについての相続割合を指定しています。その結果、遺言者に借金があれば、その借金もその指定割合で引き受けることになります。

但し、その引受ける割合は、遺言者が勝手に決めた割合ですので、遺言者にお金を貸している債権者の知らない話です。そこで、遺言書によって「相続分の指定」がなされていたとしても、その指定は債権者には通じません。債権種は遺言者の相続人に対して、その法定相続分に従って借金の請求ができることになります。

もちろん、債権者がその指定割合に同意するのであれば、その指定に従って請求されることになります。債権者としてもより多く相続した方に対してより多く請求した方が債権回収しやすいと考えれば同意するかもしれません。


(まとめ)

「相続分の指定」方式の遺言書の注意点についてお話ししました。司法書士などの専門家が作成を支援する遺言書の多くは「特定財産承継遺言」方式で行うと思います。遺産分割協議を行う手間を考えると「特定財産承継遺言」の方が簡便でメリットが多いと感じるからです。

しかし、自筆証書で遺言書を作成される場合は、またまだ「相続分の指定」方式で作成される方も多いと思います。その場合は、今回お話をした注意点などを参考にしてもらいたいと思います。

 

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