父親の書いた「遺言書」を勝手に破棄したらどうなるのですか

最近は遺言書を作成する方が増えています。遺言書に関する相談も増えています。遺言書が段々と身近なものになって来たことは良いことだと思います。ところで、遺言書が身近なものになると遺言書に関するトラブルも増えてくると思います。想定される代表例として、遺言書の「破棄」「隠匿」があります。

身近に親の書いた遺言書があると書いてある内容を知りたくなります。こっそりと親の書いた遺言書を読むことができたとき、書いてある内容が自分に不利な内容であった場合、遺言書を破棄したり隠したりすることがあります。このような行為は問題のある行為だと思いますが、親の相続においてどうなるのでしょうか。

 


(「相続欠格」について )

相続人(※1)であっても、一定の事由があると相続人としての資格を喪失します。これを「相続欠格」といいます。例えば、親を故意に殺害するとか、親を騙したり脅したりして遺言書を書かせたり、書くことを妨げたりするとか、今回の例のような遺言書を破棄したり、隠したりするとか、などの行為が一定の事由に該当します。

( ※1 相続人には、推定相続人を含みます。以下の本文でも同じ。)


相続欠格者になると親の遺産の相続を受けることができなくなります。相続欠格を発生させる一定の事由は、先ほど例示したもの以外にもありますが、重大な刑法犯罪に該当する行為によることは稀だと思います。殺人や詐欺・脅迫などの行為は滅多に発生しないと思いますが、遺言書の破棄や隠匿は現実に発生しうる可能性がある事柄だと思います。


つまり、遺言書の内容が気に入らないからと言って、親の書いた遺言書を勝手に破棄したり、どこかに隠したりすると大変なことになるのです。本人としては、そんなに重大なことになるとは思っておらず、親に対する不満を表す意味で、破いたり隠したりすることがあるのです。本人が気づいていなくても、実はこの行為が大変な結果をもたらすことになるのです。


相続欠格は、定められた行為に該当すれば、当然に相続欠格になります。相続欠格と同じような行為に「廃除」という制度があります。昔風に言えば「勘当」のようなものです。親に対する侮辱的な行為や暴力行為など相続人としてあるまじき行為を行った場合、親が裁判所に申し立てて、相続人から「廃除」してもらう制度です。廃除されれば、遺産相続を受けることができません。

このように「廃除」は、裁判所の関与 ( 廃除の審判を受ける ) が必要になります。ところが、相続欠格については、親の行為も裁判所の関与も一切必要としません。行為があれば自動的に「相続欠格者」になります。

尚、相続人が相続欠格者や廃除者になると相続人としての遺産相続はできませんが、これらの者に子供がいる場合は、その子供が欠格者に代わって相続人となります。つまり、代襲相続できるということです。


( 「相続欠格」の「宥恕」について )

「宥恕(ゆうじょ)」とは、寛大な心で過去を許すことです。相続人が相続欠格に該当しても、反省して詫びを入れているなどしている場合、親としてもこれを許したいと思う場合があります。これを相続欠格の「宥恕」といいます。

親に対する殺人未遂や暴力行為を受けた場合などは宥恕する余地は少ないと思いますが、遺言書の「破棄」や「隠匿」の場合は、十分反省していれば許したくなる場合があると思います。

ところで、法律にはこの相続欠格者に対する宥恕を認める定めがありません。学者の中にはこれを認めないとするものもありますが、過去の裁判例の中ではこれを認めたものもあります。

そこで、親が宥恕の意思を明確にすれば、相続欠格者となった者を復権させることができると思います。


( 遺言書破棄の場合の「宥恕」の具体的な方法 )

遺言書を勝手に見て内容が気に入らないからと言って、怒りに任せて遺言書を破棄した場合、相続欠格に該当します。しかし、その後十分反省して親に詫びを入れ、親が許してくれた場合でも他の相続人から相続欠格者であると主張される場合があります。

このようなことにならないためには、一定の形を作っておくことが必要になります。もちろん、遺言書の破棄や隠匿について、親とその相続人しか知らないことであれば、親が破棄された遺言書を再作成しておけば済むことです。

しかし、遺言書の破棄や隠匿行為が他の相続人の知るところとなれば、「相続欠格の宥恕」を行った事を形に残す必要があります。

具体的には、遺言書に宥恕の記載をすることです。破棄された遺言書を再作成するときに宥恕に関する条項を設けておくのです。遺言書が隠匿された場合は、返却された遺言書を生かすのであれば、宥恕の意思を表示した遺言書を新たに作成することです。


( 相続欠格を宥恕する遺言書の見本 )

相続欠格を宥恕する遺言書の見本を次に示します。ポイントは、「付言事項」で宥恕に至った親の心境を細かく書いておくことです。これにより、万一裁判になった場合でも宥恕を認めてもらえる可能性が高くなります。

遺言書の付言事項とは、遺言書の末尾などに遺言書を作成するに至った経緯や遺言者の心情を書き記しておくものです。

<遺言書サンプル>

      遺言書

第○条 遺言者は、遺言者が令和5年12月24日に作成した遺言書を、遺言者の長男 山田太郎(平成〇年〇月〇日生)が破棄したことについて、山田太郎を宥恕する。
……

(付言事項)

私の書いた遺言書を長男が勝手に破棄したことに関し、私は長男を許すことにしました。理由は、長男が自分のした行為を深く反省して、自分のしたことを正直に私に話してくれたからです。

令和○年〇月〇日、長男が突然私のところに来て謝罪を始めました。私が何事かと事情を聴いたところ、長男が私の書いた遺言書を盗み見て、内容に納得がいかなかったことから、怒りに任せて遺言書を破棄したというものでした。

長男が十分反省して、このような形で謝罪してくれたため、私としてもこのような長男の行為を許すこととしました。

 

付言事項に関しては、日付やその時の言葉のやり取りなど臨場感のある表現にすれば、より説得力のあるものになると思います。

(まとめ)


遺言書はその内容について事前に家族に見せて納得をしてもらう方法と本人や一部の家族だけで勝手に作成する方法があります。相続発生後の無用なトラブルを回避する為には、相続人になる方にある程度の情報は開示しておいた方が良いと思います。

完全にマル秘状態で遺言書を作成すると、内容を盗み見た家族には相続欠格に該当するような行為に出る場合があります。行った本人としては軽い気持ちで行ったとしても法律的には重大な意味を持ちますのでくれぐれも注意が必要です。

万一、相続欠格に該当した場合は、親の宥恕をお願いすることになります。親が許してくれた場合は、宥恕を形に残しておくことが必要になる場合もあることを覚えておいてほしいと思います。

 

Follow me!