「遺言書」で相続人である子供が成人になるまで「遺産分割を禁止」することはできますか

自分が亡くなった後の遺産相続について考えたとき、一番年齢の若い子供がまだ小中学生の場合があります。近い将来、自分が亡くなった場合、子供が未成年(18歳未満)」のままで相続人の一人として遺産相続手続を行う必要があります。

子供が未成年のままで遺産相続手続を行わせることには不安があります。そこで、何か対応策はないかと考えることになります。


( 相続人が未成年者の場合の遺産分割の方法 )

遺産相続手続では、相続財産を相続人全員で分割する手続き「遺産分割協議」が最も重要になります。この「遺産分割協議」において、未成年者は自分自身で協議に参加することができません。未成年者は民法上「行為無能力者」とされていて、単独では有効な契約行為をすることができないからです。

未成年者などの行為無能力者が重要な契約行為をする場合は、その親が法定代理人として代わりに契約行為を行うことができます。ところが、遺産分割協議においては、親も相続人の一人となるため子供の利益と相反することになります。

そこで、民法ではこのような場合、親の法定代理権を認めていません。このような親と子の利害が対立する行為を「利益相反行為」と言います。 この場合は親に代わって子供を代理することのできる「特別代理人」の選任が求められます。つまり、子供の特別代理人を家庭裁判所に選任してもらう必要があるのです。選任された特別代理人と残された妻、成年に達している兄弟で遺産分割協議を行うことになります。

このような面倒な手続きが予想されるため、事前に対応できる方法を考えることになります。


( 「遺言」で一定期間 遺産分割協議を禁止する方法 )

共同相続人は、いつでもその協議で遺産の全部又は一部の分割をすることができます。つまり、遺産分割の時期に関しては、原則として制限はありません。

但し、その例外として、親など(被相続人) は、遺言で遺産の分割を一定期間禁ずることができます。これを「遺言による遺産分割の禁止」といいます。

遺言書では、例えば、次のように書きます。

第○条 遺言者は、遺言者の遺産の全部について、遺言者の死後5年間、その分割を禁止する。

このように書いておけば、遺言者の死後5年間は遺産分割ができないことになります。この期間を経て、最も若い子供が成年に達した後、相続人全員で遺産分割協議をすることができます。

尚、禁止できる期間は最長5年間です。7年と定めても5年とみなされますので注意して下さい。


( 遺産分割を一定期間 禁止したい色々なケース )

遺産分割を禁止する手段として、遺言書以外にも「相続人間の合意」によっても行うことができます。つまり、相続人全員が一定期間 (最長5年) の遺産分割の禁止に合意すれば、その合意内容に従って、遺産分割が禁止されます。

ところで、遺産分割を一定の期間 (最長5年) 禁止したい必要性は、子供が未成年の場合以外にもあります。例えば次のようなケースです。

(1) 相続開始後一定期間の冷却期間が必要な場合

突然の相続の発生により、相続人間で混乱がみられ、少し落ち着いてからでないと冷静な遺産分割の話し合いができそうもないような時です。今、遺産分割協議を行えば、相続人間で冷静な話し合いができず争いが生じそうなケースです。

(2) 相続財産や相続人について詳しい調査が必要な場合

相続財産の規模が大きい場合、遺産分割協議の対象となる財産の漏れが生じやすくなります。遺産の調査が不十分な状態で遺産分割協議を行えば、後から漏れが発見された場合、手続きのやり直しなどの対応が必要になります。

また、家族関係に複雑な事情 (離婚、認知、養子縁組など) がある場合、相続人の確定に時間がかかる場合があります。協議に参加できない相続人がいれば遺産分割協議は無効になってしまいます。


このような場合も遺産分割を一定期間禁止することで対応できる場合があります。

( 未成年者が成年に達するまで遺産分割を遺言で禁止する遺言書の書き方 )

遺言書で、単純に亡くなってから5年間 遺産分割を禁止した場合、遺言者が亡くなった時点で既に未成年者が成年に達している場合があります。また、5年以内に成年に達する場合もあります。

この場合、遺言書の定めに従うと、亡くなってから、これから5年間は遺産分割協議ができないことになります。未成年者が既に成年に達している場合やあと少しで成年になる場合でもさらに5年間待つ必要が出てきます。しかし、これは意味のないことです。

そこで、このような不都合を避けるため、通常は、次のような条項を追加しておきます。これを「停止条件を付す」と言います。

第○条
遺言者は、遺言者の遺産の全部について、遺言者の死後5年間、その分割を禁止する。

第○条
前条の定めに関わらず、遺言者の子〇〇〇〇 (平成〇年〇月〇日生)が成年に達していたときは、遺言者の遺産の全部について、遺産分割を行うことができるものとする。


( 遺産分割を一定期間禁止した場合の注意点 )

遺産分割を一定期間禁止してしまうと不都合なことがあります。注意して対策を検討する必要があります。

(1) 相続登記の義務化への対応

平成6年4月1日より「相続登記の義務化」が施行されます。義務化によって亡くなってから3年以内に相続登記を行う必要があります。そのため、相続財産に不動産が含まれる場合で3年以内の遺産分割が禁止されている場合は、「相続人申告登記」を行うなど義務化への対応が必要になります。

(2) 相続税の申告との関係

相続税の申告期限は亡くなってから10か月以内とされています。この期限までに遺産分割が未了の場合は、民法で定める法定相続分に従って各相続人が相続したものとして相続税の計算をして申告納税を行うことになります。

注意点としては、相続税の軽減を受けることのできる特例措置の適用条件として、申告期限までに遺産分割協議が完了している必要があります。具体的には、「配偶者に対する相続税額の軽減措置」「小規模宅地特例」などです。

これらの特例措置は、遺産分割が禁止されている場合、適用申請することができません。そのため、一旦、特例がないものとして申告納税をすると同時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を税務署に提出しておきます。

こうしておけば、申告期限後3年以内に遺産分割が行われた場合、改めて特例の適用を申請 (更正の請求) することができます。多めに納付した相続税が還付されます。

さらに、申告期限から3年以内に遺産分割がなされなかった場合でも、申告期限後3年を経過する日から2か月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出すれば、分割することのできる日の翌日から4か月以内に行った分割について、更正の請求をすることができます。

この場合、遺産分割禁止の遺言や相続人の合意はやむを得ない事由に該当すると思います。

(まとめ)

子供が未成熟な状態で遺産の分割という高度な法律判断をさせたくない場合、遺言書によって「遺産分割を一定期間禁止」することができます。子供の自由な意思と判断能力によって遺産分割を行ってもらいたいと考える親心です。

もちろん、最初から遺言書で未成年者を含めた全ての相続人の相続分を遺言書に書いておくこともできます。こうすれば、このような問題の心配はないことになります。

しかし、遺言者本人が全てを決めるのではなく、相続人が全員で協議して納得のいく遺産分割方法を実現してもらいたいと考える場合もあります。今回の問題は、そのような場合の話になります。

何を相続したいかは、それぞれの相続人の判断に任せた方が良い場合もあるからです。

 

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