「エンディングノート」を「遺言書」の代わりにしても良いですか

「エンディングノート」が静かなブームとなっています。書店に行けば色々なタイプのものが並んでいます。エンディングノートを書く目的は色々と考えられますが、主なものとしては、「自分の生きた証を残しておく」「自分の生活の備忘録として残しておく」「家族や大切な人への感謝の気持ちを書き残しておく」「亡くなった後の希望を書き残しておく」「自分の大切な情報を残しておく」「今後の人生を振り返るきっかけとする」等があります。


エンディングノートも目的に応じて色々な書式が装備されています。書く目的に合わせて最適な書式が用意されているものを選択すると良いと思います。

ところで、エンディングノートを「遺言書」の代わりとして書いた場合、遺言とは認められない可能性がありますので注意が必要です。エンディングノートに遺産の分け方などを記載しても自筆証書遺言と認められない可能性が高いと思います。

もちろん、遺言書としての法律上の成立要件を満たすように書けば認められると思います。しかし、遺言は正式な遺言書として別に作成することをお勧めします。

エンディングノートは、人生を振り返り、自分自身のこれまでの歩みの棚卸をすることから始まります。つまり、自分の生きた証を記録として残しておくことが基本となります。その過程で家族や大切な人への感謝の気持ちを表したり、亡くなった後の希望についても記載することになります。もちろん、残りの人生への思いを決意表明することもあるでしょう。


一方で「遺言書」は、主に相続財産関係についての分配方法を主眼として書くものです。色々な思いや感謝の気持ちを書くことも多いのですが、仮に書いたとしても遺言書としての法律上の効果には影響がありません。

「自宅を妻に相続させる」、「預貯金は長女に相続させる」のような、遺言書に書いて法律上の効果を発生させることのできる事柄は、法律上、厳格に決められています。これを「遺言事項 (法定遺言事項) 」といいます。遺言事項は民法で14項目が定められています。遺言事項以外の事柄を遺言書に書いても法律的な効果は発生しません。


このようにエンディングノートは、人生の振り返りを通して得られた記録の集積であり、これに関連して感謝の気持ちや亡くなった後の希望、残りの人生に対する思いなどを自由に書いていくものです。

遺言事項とそれ以外の事柄を意識しながら注意して書いていく遺言書とは性格が大きく異なります。両者のこのような違いを理解して、遺産相続に関する事柄は遺言書として作成することをお勧めします。

(エンディングノートの相続などに関する有効な活用法)

ところで、エンディングノートには、遺言書では書くことが難しい情報資産の相続手続で手助けとなる活用方法があります。具体的には、「デジタル資産」の ID、パスワード等を記載することです。


本人が使用していたパソコン内のデータの削除、SNSアカウントの削除などは、ID、パスワードがないと情報の確認ができません。ビットコインやインターネットバンクの預金などは、IDとパスワードがなくても相続手続はできますが、あれば残高照会などができて円滑に手続きが進みます。


情報資産の相続手続では、故人のID、パスワードが重要になります。どのような情報資産を保有していて、それに使用するID、パスワードが何であるかを一覧表にしておくことが残された相続人のために必要になります。

IDやパスワード情報を遺言書に記載することは通常しません。公正証書遺言であれば、作成時に公証人や立会証人の目に触れるため記載できないと思います。自筆証書遺言でも家庭裁判所の検認手続きが必要となるため、相続人や裁判所の関係者の目に触れてしまいます。

そのため、IDやパスワード情報は大切な情報ではありますが、相続人等への情報の伝達方法が限られてきます。一片の紙に記載しておくことはできますが、保管に不安があります。そこで、エンディングノートに専用の欄を設けて記載して、厳重に保管管理することができるのであれば、使い勝手が良いと思います。

但し、注意点として、他人のIDやパスワードを勝手に使用して情報資産にアクセスすることは、「不正アクセス防止法」等の関係法令に抵触する恐れがあります。法令上、正当な理由なく他人のIDやパスワードを使用することは禁止されています。そのため、エンディングノートに家族宛てに相続手続のために使用することを許可する旨を記載しておくことが必要です。


また、遺言書とのすみわけ方法として、遺言書には相続財産関係の事柄に絞って記載し、エンディングノートには、それ以外の本人の希望事項を書いておく方法もあります。遺言書には書かないでエンディングノートに書いておく項目として、例えば、次のような事柄が考えられます。

① 献体や臓器提供の希望
② 葬儀の方法 (三回忌、十七回忌、三十三回忌など)
③ 自然葬の希望 (散骨や樹木葬)
④ 墓じまいの要望
⑤ ペットの施設等への引き取りの要望
⑥ 所属団体や会員サービスの退会手続の依頼
⑦ 債務の弁済、税金の申告 など

これらの記載事項は、本人の要望事項です。相続人等が任意に行ってくれることを期待して書いておくものです。法的な効力を持たせたい場合は、作業を依頼する方との間で、別途、「死後事務委任契約」を締結する必要があります。

(まとめ)


「エンディングノート」を使って、これまでの人生を振り返り、残りの人生の活力を得ていくことは有意義なことだと思います。亡くなった後の要望についても色々と書いておくことは、残された家族にとっても大切な情報となります。

但し、遺産相続関係の事柄や一定の法定事項 (死後認知、持ち戻しの免除、祭祀承継など) については、その法的な効果が保証されている「遺言書」に書くことが必要になります。

上手く両者を使い分けて活用してもらいたいと思います。

 

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