家の売却で「仲介トラブル」が多発しているようです

相続した親の実家や転勤、家族構成の変化で自宅などの売却を考えている人も多いと思います。売却は近くの不動産屋に相談したり、大手の不動産仲介業者に依頼することが普通です。この不動産仲介を巡ってトラブルが多発し、「全国の消費生活センターなどへの相談が毎年千件以上発生している。 」との新聞報道がありました。


家の売却は大抵の人は人生で初めての経験になります。具体的な進め方が良く分からない状況で仲介業者の言われるままに契約をして、後々トラブルに発展するケースがあるようです。

トラブルで多いのは、「売却価格」についてです。「安価な売却価格で売買契約を強引にさせられた。」「契約の解約には多額の費用が必要になると言われた。」「売買成立後、自分で周辺の不動産価格を調べてみたら、契約した価格が低額なものであった。」などがあります。

また、契約成立後、買主側から売却した不動産の不具合について「損害賠償」を求められるケースもあります。「買った家が雨漏りをするので修繕してほしい。」「買った土地に建物を建てようとして地盤を確認したら、廃棄物が埋設してあった。撤去費用を払ってほしい。」など色々あります。

不動産の売買手順は、次のような段取りで進んでいきます。

① 売主が売却の決心をする。
② 不動産仲介業者を選定し、物件価格の査定を依頼する。
③ 不動産仲介業者と「媒介契約」(不動産売却の仲介を依頼する契約)を締結する。
不動産を売り出す(広告などを出す)。
⑤ 不動産仲介業者が購入希望者に物件情報、売却価格を提供し交渉する。
⑥ 売主と買主で売買契約を締結する。
⑦ 司法書士が立会いの下、不動産仲介業者と売主・買主、融資に関係する銀行担当者が一堂に会して売買代金の支払いと物件の引渡しを行う。(「立会決済」と呼んでいます。)
⑧ 立合決済を行った司法書士が不動産登記(名義変更や抵当権の設定)を行います。


このなかで、③の売主と不動産仲介会社との「媒介契約」が重要になります。媒介契約とは、不動産の売却について仲介を依頼することです。仲介とは、買い手を見つけて売買契約のお膳立てをしてもらうことです。

この「媒介契約」には、契約形態が3種類あります。「一般媒介」「専任媒介」「専属専任媒介」です。「一般媒介」は、仲介不動産会社を1社に限定することなく複数の不動産業者との契約を可能とするものです。「専属媒介」は、仲介不動産会社を1社に限定するものです。「専属専任媒介」は、仲介不動産業者を1社に限定した上で、万一、売主が買い手を自分で見つけた場合でも仲介業者を通して売却するというものです。


仲介不動産会社としては、当然、「専属専任媒介」を希望します。この契約にしておけば、物件の売買は必ず仲介できるからです。逆に「一般媒介」で契約した場合、業者側のやる気が少し弱くなるかもしれません。

不動産仲介業は、物件の売却に伴う「仲介手数料」で収益を上げています。これは成功報酬となります。仲介手数料は、行政上の告示で上限金額が定められています。具体的には、「売買金額の3%+6万円」と消費税です。

 建物価格が3,000万円とすれば、「3,000万円×0.03+6万円」で96万円+消費税となります。(尚、土地代を含めた場合、土地代金については消費税はかかりません。) つまり、この場合、仲介手数料は100万円程度必要になります。行政告示上は上限金額となっていますが、大半の業者は上限金額で取り扱っています。


さらに、この仲介手数料は、売主側、買主側それぞれに発生します。上記例の3,000万円の物件の場合、売主側100万円、買主側100万円が必要になります。このとき、売主側の不動産仲介業者が自ら買主を見つけた場合、仲介手数料は売主、買主それぞれから頂くことができます。これを「両手」または「両手仲介」といいます。大変うま味のある商売になっています。

そのため、不動産仲介業者は、「両手」を目指して頑張ることになります。

不動産の売買を成立させるためには、買主を見つけなければなりません。この作業を効率的に行うために、業界では「レインズ」という名の「不動産流通標準情報システム」を整備しています。これは、売り出し物件の情報を全国で統一したデータベースに登録し、不動産仲介業者であれば情報を見ることのできるものです。


専任媒介契約や専属専任媒介契約で締結した場合は、不動産仲介業者は必ず売り出し物件情報を「レインズ」に登録しなければなりません。媒介契約締結から、専属専任媒介の場合は5日以内に、専属媒介の場合は7日以内に登録しなければなりません。

不動産の購入を考えて不動産仲介業者の店頭などに来た客のニーズを確認して、このレインズのデータベースを活用して売り出し物件の検索を行います。希望に沿う候補物件を顧客に紹介して売買契約の成立に向けて営業活動をするのです。


もちろん、レインズだけで仲介が成立する確率は高くはないので、積極的にチラシや広告を打つことになります。

このとき、業界内で「囲い込み」と呼ばれる悪徳手法があります。1つの売買物件の「両手」を狙って、物件の売買の独占を図ることがあります。物件情報は、レインズへの登録義務がありますが、仮に他の業者から購入希望の引き合いがあってもこれを拒否するのです。「先客がある」「現在交渉中」、「成約済みで登録抹消漏れ」などと虚偽の回答をするのです。

自分のところで物件の囲い込みを行い売買を独占しようとします。買い手を旨く見つけることができれば、「両手」での契約となります。期間が経過しても買い手を見つけることができない場合は、売主に大幅な値引きを要請します。「なかなか条件に合った買い手を見つけることができません。」「ここは、値引きをしないと売れませんよ」などと言って値下げを強要します。


また、会社自体は立派でも担当者が不正行為を行うこともあります。不動産仲介業では、取引成約に応じた歩合制が社員の給与体系となっていますので、個々の営業マンのモラルも重要になってきます。大手仲介業者だからといって油断はできません。

対策としては、不動産仲介業者の営業マンから、こまめに交渉状況の報告をもらうことです。業務処理状況の報告義務が専任媒介契約では2週間に1回以上、専属専任媒介契約では1週間に1回以上の報告義務があります。

また、レインズ自体の登録状況についても、依頼者が直接データベースをインターネットから確認することができます。時々データベースを確認して変な登録状態になっていないか確認する必要があります。物件の「取引状況(ステータス)管理」という項目を確認します。


ステータスとしては、「公開中」「書面による購入申し込みあり」「売り主都合で一時紹介停止中」があります。営業担当から報告を受けている状況と異なる場合は理由を確認する必要があります。

売買価格以外のクレームとして物件の瑕疵(かし)といわれる不具合情報の問題があります。売却物件について売主側で分かっている不具合情報は、売主が事前に不動産仲介業者に伝えてあることも多いのですが、仲介業者が故意に買主に伝えないことがあります。

不動産売買にあたっては、「宅地建物取引士」資格を持った不動産仲介業者が売却物件についての「重要事項説明書」を作成し、買主に丁寧に説明する義務があります。物件の不具合情報は瑕疵情報として記載して説明しなければなりません。


購入する物件の不具合情報を確認して納得の上、購入の判断をするのです。瑕疵情報として記載して、免責条項とする場合もあります。この記載をしない、あるいは記載しても説明しない場合があるのです。「重要事項説明書」の記載は、十分確認する必要があります。故意の記載漏れや説明不足であれば、業者への損害賠償問題になります。

人生1回限りの不動産の売却かもしれませんが、見えないリスクが色々ありますので十分注意して行ってもらいたいと思います。

 

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