相続手続を終えた後に「新たな遺産」が発見された場合どうすれば良いですか

親が亡くなり実家の名義変更(相続登記)や預貯金、保険などの相続手続を終えていたところ、例えば、過去に住んでいた田舎に亡くなった親名義の山林があることが分かることがあります。この場合、相続手続をやり直す必要があるかどうかを含め、どのように処理したらよいか迷います。


( 通常の対処方法 )

相続人全員がこれまでに行った遺産の相続手続をやり直す必要がないと考えれば、今回見つかった遺産について、追加で相続手続をすればよいことになります。具体的には、新たに見つかった山林について誰が相続するかを相続人全員で話し合って(遺産分割協議)、相続することとなった相続人が自分名義に相続登記をすることになります。

このような取扱いを「一部分割」と呼んでいます。先に行われた相続手続において一部の遺産が漏れていたわけですから、そこで行われた「遺産分割」も一部であったことになります。そこで、このような遺産分割を経て行われた相続手続を「一部分割」と呼んでいます。

従来、遺産相続において「一部分割」が認められるかどうかについて法律に明文の定めがなかったため疑義がありました。平成30年の相続法の改正によって条文に「一部分割」が定められたことから、相続人間の協議による一部分割が可能であることが条文上からも明確になりました。

新たな遺産を発見する


( 遺産分割協議書に取扱い方法を定めた場合)

遺産分割協議をする時点で、このような相続手続後に発見される遺産があっても良いように取扱い方法を定めている場合があります。例えば、遺産分割協議の最後に「この遺産分割協議書に記載のない財産が新たに発見された場合は、各相続人が法定相続分の割合により相続する。」とか「…… 相続人のうち長男○○が相続する。」のような文言を入れている場合です。

この場合は、原則として、その定めに従って相続手続を行うことになります。

このような文言は、通常、ほぼすべての遺産は調査され尽くされているとの認識から、仮に新たに遺産が発見されても大きな価値のあるものはないとの前提で書かれていることが多いと思います。

その場合、新たに発見された相続財産の価値が非常に大きい場合、この合意事項はそのままの状態で維持できるかどうか疑問が生じます。先に遺産分割した相続財産より大きな財産が新たに発見されたような場合は、この取扱文言による対応では納得のできない相続人が出ることがあります。

具体例としてはあまり適切ではありませんが、例えば、当選した「宝くじ」が発見されたり、「金の延べ棒」が見つかったりした場合です。


( 遺産分割をやり直す場合 )

新たに発見された財産を含めた場合、先に行った遺産分割の方法では納得がいかない場合があります。相続人としては遺産がこれだけなので、このような遺産分割方法に同意したのであって、追加で新たな遺産があることが分かれば、このような遺産分割方法に同意しなかったと主張することになります。

このような主張を法律的には、遺産分割協議を「錯誤」を理由に「取消す」と言います。錯誤とは、勘違いという意味です。遺産分割の前提事実に錯誤がある場合、遺産分割を取消すことができるのです。

また、遺産分割協議書に取扱い方法が明記されていたとしても、発見された財産価値が大きい場合など、取扱い方法を定める前提としていた相続人間の認識を超えるような場合も「錯誤による取消し」が主張できることになります。

つまり、当初の遺産分割協議で前提としていた事情を超えるような新たな遺産が発見された場合は、先の遺産分割協議に納得のいかない相続人は、先の遺産分割に基づく相続手続を取消して、最初の遺産分割からやり直すことを求めることができるのです。

もちろん、不満はあっても取消までは必要ないと考えれば、新たに発見された遺産について追加で遺産分割をしたり、遺産分割協議に書かれた取扱い方法に従えばよいことになります。

また、相続人間に争いはないものの、このような新しい相続財産が発見されたことを契機に先に行った遺産分割を見直したいと考える場合もあります。この場合は、相続人全員によって先に行われた遺産分割協議を「合意解除」することができます。合意解除されれは、法的な効果は取消された時と同じで最初からやり直すことになります。


( 遺産分割をやり直した場合の登記手続 )  ※少し専門的な話です。

例えば、亡くなった父親名義の不動産を最初の遺産分割協議で長男名義にしていた場合において、遺産分割協議をやり直した結果、長女名義になったとします。この場合の登記手続は、長男名義の「抹消登記」と長女名義への「移転登記」となります。

注意する点として、「抹消登記」の登記原因があります。登記申請をするには、申請書に「登記原因」を記載する必要がありますが、少し注意点があります。

令和2年4月1日以降(債権法の改正施行日)に「錯誤」による取消しを行った場合は、「取消」となります。令和2年4月1日より前に「錯誤」による無効の主張を行った場合は、「錯誤」となります。

遺産分割を相続人全員で合意解除した場合は、「合意解除」となります。


( 課税上の注意点)

相続手続を終了して相続税等の納税を済ませている場合、今回のような取消や合意解除が発生した場合、税金の取り扱いには注意が必要になります。

追加で遺産分割協議を行った結果、当初の課税価格や相続税額に不足が生じれば、「修正申告」を行う必要があります。

また、一旦相続により取得した財産を遺産分割協議の取消し等を理由に相続人間で移動する場合、錯誤による取消や合意解除に正当な理由が見られない場合、単なる財産移動とみなされて「贈与税」「譲渡所得税」が課税される恐れがあります。

実施するにあたっては、税理士と入念に打ち合わせをして税務当局を納得させうる正当な理由を準備しておく必要があります。

(まとめ)


相続手続をする場合は、相続財産に漏れが生じないように色々な調査を行います。不動産であれば、登記事項証明書を取得したり、「名寄帳」を取得したりして出来るだけ漏れの生じないように注意して行います。

しかし、そうはいっても漏れはあるわけですから、その後の取扱い方法も理解しておく必要があります。実際に取り消しまで行えば、手続き費用が2倍必要になるため簡単には取消すことは難しいかもしれません。

いづれにしても、相続財産の調査は丁寧に行った方が良いということになります。

 

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