相続した実家が「既存不適格住宅」と言われましたが、どうしたら良いですか

親の自宅を相続で取得すると築年数が経っているため老朽化が進行している場合が多いと思います。そのままでは住み辛いので思い切って「建替え」を検討すると、建築業者などから「既存不適格住宅」のため建替えには一部建築上の制限がかかると言われることがあります。また、売却を考えた場合にも不動産業者から「既存不適格建物」ですので売却価格が少し安くなりますと言われることがあります。



「既存不適格建物」とは、建築当時は法令上適法であったものが、その後の法令の改正によって現在では不適格な部分が生じている建物のことを言います。簡単に言えば、作った当時は法令に準拠した適法な建物であったが、現在では法令が改正されて違法な建築物のような状態になってしまったものということです。当然、同じ建物は現在の法令の下では建築することができません。

もちろん、建てた当時は適法な建物であった以上、その後の法令の改正で不適合状態になったからと言って「違法建築物」になるわけではありません。そのままの状態で住み続ける場合は何の問題もありません。

( 既存不適格建物となる原因 )

既存不適格建物になる原因としては色々ありますが「建築基準法の改正」が代表例となります。建築基準法は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する基準を定めていますが、時代の変遷とともに改正が発生します。建築基準法では国民の安全で健康的な暮らしを守るために建築上の様々な規制をかけています。規制には「用途地域」「高さ制限」「建蔽(けんぺい)率」「容積率」「接道距離制限」「日影規制」などがありますが、時々の状況に応じて改正が発生しています。

また、「建築基準法の施行令の改正」も既存不適格建物になる原因となります。代表例は「耐震基準」の変更です。建物の耐震基準は昭和56年6月1日より改正法が施行されて新耐震基準が適用されています。そのため、これより以前に建てられた建物は旧耐震基準による建物として現在では「既存不適格建物」になります。


( 既存不適格建物となった場合のデメリット )

既存不適格建物は、そのまま使用する場合は問題がありませんが、建替えや売却時に問題が生じます。建替えの場合、「建蔽率」「容積率」が不適合の場合、現在と同等な大きさの建物が建てられない場合があります。「高さ制限」「日影規制」が不適合の場合、建物の階数や建物の形が制限されることがあります。希望している建物として活用が難しい場合は、取り壊して駐車場にするなどの対応策の検討も必要になります。


売却時には、「既存不適格建物」である事実とその内容を買主側に十分説明する必要があります。
不動産仲介業者を通した売買であれば、不動産業者所属の宅地建物取引士が不動産売買に関する「重要事項説明書」に既存不適格建物である旨とその内容を記載します。不動産売買にあたっては、宅地建物取引士が十分に説明して買主側の了解を得た上での売買取引となります。

さらに、売却時には買主側の銀行のローン審査が通りにくい場合があります。ローン融資をする銀行としても担保に取得する物件が既存不適格建物である場合、担保価値に影響しますので慎重になります。この結果、キャッシュで購入できる方など売却先が制限される可能性もあります。


これ以外にも色々な不都合がありますが、最も卑近な事例として「セットバック」の問題があります。これについては、次に説明します。

(「セットバック」とは )

建築基準法上、「建物の敷地は道路に2メートル以上接していなければならない」とされています。また、都市計画区域内における「道路」とは、幅員(道幅のこと)が原則として4メートル以上の道とされています。つまり、建物を建てる場合、敷地が道幅4メール以上の道路に2メートル以上接していないと建物を建てることができないことになります。簡単に言えば、道幅4メートル未満の道は、建築基準法上は「道路」と認められないということになります。



ところで、この建築基準法の規制は昭和25年に施行されています。つまり、昭和25年以前に建てられた建物は、この規制の制限がかかってません。道幅が4メートル未満の細い道に沿った敷地に建物が建っていることになります。

そこで、規制の導入にあたって、道幅が4メートル未満の道であっても、行政の指定したものは「道路」とみなし、道路の中心線から両側に2メートルの線をその道路の境界線とみなすこととしました。なお、この定めが「建築基準法42条の2項」に定められたことから、この道路のことを「2項道路」と呼んでいます。

道路の中心線から左右に2メートルの範囲は「道路」とみなされた結果、その場所が建物所有者の敷地であったとしても2メートルの範囲内の部分は「道路」の一部とみなされます。

道路ですので、当然、その部分に家を建てることはできません。現在、その場所に家の一部が建っていても構いませんが、将来、建替える時は2メートルの範囲外の場所に後退して家を建てる必要があります。建物以外にも門や塀も後退させる必要があります。そこで、このことを「セットバック」と呼んでいます。



親の実家を相続した場合は、昭和25年以前に建てられた古い建物の場合、この「セットバック」規制に該当することがあります。

( 「セットバック」が必要と思われる場合の対応  )

相続した不動産について「セットバック」の必要性が疑われる場合は、市町村役場の建築指導に関する部署(道路課など)に出向いて、実家に接する道路が「2項道路」か否か確認する必要があります。2項道路と確認されればセットバックについて対応する必要があります。



セットバック部分は「道路」とみなされるため、建物の敷地としてカウントされません。つまり、実家を建替える場合「建蔽率」や「容積率」の計算上、セットバックした部分の面積は敷地に含めることができないため、現在の建物と同等の床面積を建替えた家では確保できない場合があります。

場合によっては、建物を建てるには狭小となってしまう場合は宅地としての効用を失い、駐車場や資材置き場として活用するしかないかもしれません。当然、土地の資産価値も下がります。また、そのような土地であることが分れば、より低い価格でなければ売却できないことになります。

売却にあたっては、前面の道路が「セットバック」が必要な「2項道路」である旨を買主側に伝える必要があります。売買契約をするにあたって宅地建物取引士が作成する「重要事項説明書」にも対象面積を含め詳しく記載されます。

不動産業界では、このような狭小で使い勝手の悪い土地の売却にあたっての営業方法として、「まず、お隣さんに話をしてみる」があります。地続きのお隣さんがその土地を買った場合、お隣の土地と合わせて活用できるため問題が解消する場合があるからです。

セットバックが必要な土地もお隣の土地と合体すると有効に活用できる場合があります。お隣の土地が別に4メートル以上の道路に接していれば合体した土地全体で見ればセットバックをしても十分有効に活用できるからです。また、手狭な土地もお隣から見れば庭や駐車場として有効に活用できる場合もあります。

お隣が興味を示した場合は、売却価格はもともと安くしか売れない物件ですので、ある程度は値引してでもお隣に買い取ってもらった方が良いかもしれません。

(まとめ)


親から相続した不動産が「既存不適格建物」であることが判明した場合は、建替えや売却について制約が生じることを理解する必要があります。

親の住んでいる不動産について問題が予想される方は、事前に「既存不適格建物」であるかどうかは確認ができますので調査しておくと良いと思います。

この点を意識することなく実家の資産価値を見誤ったまま「遺言書」を作成したり「遺産分割協議」を行ってしまうと相続財産の価値に誤りが生じますので、後々の争いになる恐れがあります。十分注意してもらいたいと思います。

 

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