相続した土地を売却したいが「隣地との境界」が不明確な場合どうしたらいいですか

親から土地を相続したとき自分で利用する予定がない場合は売却を考えることになります。この時よくある問題として、隣地との土地の境界が不明確な場合があります。境界を表す杭が見当たらない場合や、杭は打たれてはあるが公図などから見て違和感のある場合など色々な場合があります。


土地を売却するには、売買契約書に境界明示義務を定めることが通常です。つまり、売主側で売却する土地の境界を確定した上で売却する扱いです。
通常の実測売買においては、隣地所有者立会いの下で境界とその標識(境界標 杭など)を確認し、この境界に基づき土地家屋調査士が作成した実測図面と隣地所有者の「境界確認書」を売主から買主に交付することになります。


隣地所有者の「境界確認書」とは、境界が土地家屋調査士の作成した実測図面の通りである旨を隣地所有者が確認し署名捺印したものです。土地が複数の隣地と接している場合は、隣地所有者ごとに確認を取る必要があります。土地が道路などと接している場合で境界確定の必要がある場合は、役所との間で境界確定をします。(私人間の境界確定のことを「民民確定」、公(おおやけ)との確定のことを「官民確定」と呼ぶことがあります。)



( 隣地所有者の協力が得られない場合の対応方法 )

隣地所有者の中で境界確定の協力が得られない場合があります。通常は気心の知れた隣人のため境界確定に協力してくれる場合が多いと思います。しかし、近所付き合いが悪かったり、所有者が分らない場合もあり、簡単には協力が得られないケースもあります。

このような場合対応方法として、次のような段階を経て話を進めていくことになります。



(1) 公簿売買

実測売買の場合は、土地を測量し隣地との境界も確定した上で売買を行います。しかし、土地の売買の中には実測は行わず、登記簿や公図などに書かれている情報を基に取引を行うものがあります。これを「公簿売買」といいます。

買主側が公簿売買で良いという場合は、境界確定などの面倒な手続きは一切不要で売買できます。もちろん、売主側の責任として売った土地の境界が不明確な状況は許されませんので、売主として考える境界は明示する必要があります。


(2) 土地家屋調査士から隣地所有者の協力を依頼する

実測売買の場合は、土地家屋調査士が測量を行いますので、土地家屋調査士から測量結果なども踏まえて隣地所有者の協力を得ることが考えられます。測量の専門家から実測結果などのデータを基に話をしてもらいますので納得しやすくなります。最近の測量はGPSを使った精度の高いものですので信頼性があります。

尚、令和3年の民法改正によって境界標の調査又は境界に関する測量を行うため一時的に隣地に立ち入る権利が明示されました。従来は、隣人が拒否すれば測量すら難しいのが実情でした。今回、測量のため隣地に立ち入ることのハードルが低くなったので、この点は協力依頼にも良い効果を及ぼすと思います。



(3) 免除特約つき売買契約

隣地所有者の「境界確認書」がどうしても取れない場合は、売買契約書に隣地所有者の境界確認が取れない旨を明示して買主側の了解を得る方法です。具体的には、売買契約書の条項の中に「売主の境界明示義務免除の特約」を設けることになります。

当然、買主側にリスクが発生することになりますので、売却価格はリスクに応じて安くなるものと考えられます。売主側、買主側が売却代金に納得の上、売却することになります。

(4) 筆界特定の活用

専門家からの説得にも応じて貰えず、公簿売買や免除特約つき売買が難しい場合は、境界を明確にするしか方法はありません。売買契約前に第三者機関を通して境界を確定する方法として「筆界特定制度」があります。

土地の境界には、詳しく言えば、「所有権界」「筆界」の2種類があります。所有権界とは、土地所有者のそれぞれの所有権の境界ということになります。本来は、この所有権界を明らかにすればよいのですが、所有権という目に見えないものの境界ということになりますので明らかにするのは大変です。

そこで、「筆界」が登場します。「筆界」とは、ある土地が登記された時にその土地の範囲を区画するものとして定められた線のことを言います。つまり、登記所に登記されたときに定められた公図などに記載されている線ということになります。

公図などで登記所が保管管理している公の情報ですので、隣地所有者同士が合意等によって勝手に定められた線を変更することはできません。変更したい場合は、「分筆」や「合筆」などの正式の手続きを取らない限り変更することはできません。



つまり、隣地所有者の間で土地の境界が不明確の場合、この「筆界」を明確にすることによって土地の境界を明確にすることができることになります。厳密に言えば、筆界は所有権界ではないため、所有権を画するものとしては保証できません。しかし、登記所が登記記録によって確保している情報に基づいているため、それに近いものと考えて良いのではないかということで活用するものです。

また、「筆界」は既に定まっているものです。登記をした時点で確定していますので筆界自体はその時点で定まっています。従って、「筆界」は「特定」するものとなります。「確定」ではありません。過去に定められたものを現時点で掘り起こし明確化するということです。今回、改めて筆界を定めるものではありません。過去に定まっていたが、現在不明確状態になっている「筆界」を探し出して「特定」するものなのです。

そのため「筆界特定」という奇妙なネーミングになっています。

「筆界特定制度」は、筆界について争いがある場合、土地の所有者やその相続人からの申請によって、筆界特定登記官が民間の専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて、現地における土地の筆界の位置を特定する制度です。隣地所有者がその内容に同意すれば筆界は特定されます。

簡単に言えば、登記所に対して一定の費用を支払って申請すれば、筆界の位置を特定してくれる制度ということができます。但し、裁判手続きではないため、隣地所有者の同意が得られない場合は、特定できないことになります。

(5) 境界確定訴訟

筆界特定も上手くいかなければ、最後の手段として裁判手続きを活用することになります。具体的には「境界確定訴訟」を行います。こちらは、先ほどの所有権界を裁判手続きによって新たに確定するというものです。

境界確定訴訟は、形式的形成訴訟と呼ばれており、処分権主義が妥当しないとされています。

簡単に言えば、境界の確定にあたっては、裁判官はあらゆる証拠書類から判断して土地の境界を確定するというものです。この際、当事者からの境界に関する請求の放棄や認諾、訴訟上の和解や民事調停等は認めないこととされています。つまり、裁判官は出された客観的な証拠資料をもとに境界を定めるというものです。当事者の言い分は聞くものの、当事者間の裁判上の駆け引きには一切影響されず、境界を客観的に定めるということです。

(まとめ)

相続した土地をすぐにでも売りたい場合は多いと思います。しかし、土地の境界に不明確な点があると手続きが難航する場合があります。このようなことにならないためには、両親が存命なうちに土地の境界を画する「杭」の存否や位置などは確認しておいた方が良いと思います。

筆界特定が必要になる場合は、土地家屋調査士や司法書士にお尋ね下さい。最終的に裁判になる場合は、土地問題に詳しい弁護士に相談下さい。

 

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