「遺産相続」で被相続人が所有していた賃貸アパートの「賃料収入」や「固定資産税」、「葬儀費用」はどのようにすれば良いのですか

本人が亡くなった後、本人が住んでいた住宅では電気、ガス、水道などの光熱費NHK受信料、電話代新聞代などが引続き発生しています。契約解除や名義変更を行うまでに発生する費用は、本人死亡後に発生した費用ですので相続財産に含まれるかどうか問題となります。


これに対して、生前に発生した本人の医療費介護施設利用料所得税や住民税自宅の固定資産税などは、請求書が亡くなってから届いたとしても相続財産の中の「債務」となり、本人の遺産で処理することができます。


水道光熱費程度であれば、金額も些少のため、自宅を引き継ぐ相続人などが通常負担することになると思います。ところが、本人死亡後に発生するものの中でも本人が所有していた賃貸アパートの「賃料収入」「管理費用」「固定資産税」など、また「葬儀費用」についても金額が大きくなるため処理方法に悩むことになります。これらの点について考えてみたいと思います。


<賃貸アパートなどの対応方法について>

「賃貸アパート」や「貸し駐車場」などの収益物件が遺産の中に含まれていれば、遺産分割協議によって収益物件の相続人が決まるまでの間に収益や費用が発生します。収益としては、「賃料収入」であり、費用としては「管理費用」や「固定資産税」です。

これらの収益や費用を遺産相続の中でどのように取り扱っていくのかが問題となります。具体的には、遺産分割協議の対象となるのかどうかということです。収益と費用に分けて考えます。


まず、「収益」の処理方法については、遺産分割協議の対象となるか否かについて色々な考え方があります。
本人が亡くなってから発生した収益は遺産に含まれない以上、遺産分割協議の対象にはできないとする考え方(消極説)もあります。一方、これを可能とする考え方(積極説)もあります。

実務的には、「相続開始後に遺産から生じた収益は、相続財産そのものではなく当然に遺産分割の対象ではないが、相続人等の当事者全員が遺産分割の対象とすることに合意すれば遺産分割の対象とすることができる」(折衷説)との考え方が主流となっています。

これによれば、相続人全員が合意すれば、遺産分割の対象とすることができます。遺産分割協議の中で収益の額を遺産に含めて計算して遺産分割することになります。

遺産分割の中で協議することに合意ができない場合は、原則どおり、遺産分割協議とは別に話し合いを行い分配方法を協議することになります。話し合いで決着できなければ、裁判(民事訴訟)での決着となります。


次に「管理費用」「固定資産税」等の費用の処理方法については、遺産分割協議の対象にすることができるとする考え方とできないとする考え方があります。
こちらは両説が拮抗しており、実務的に主流となる考え方がありません。裁判でも判断が分かれています。

但し、当事者間で遺産分割協議の対象とすることに合意ができている場合は、遺産分割協議の対象として費用の負担方法を協議することができることに異論はありません。遺産分割協議の中で協議したくない場合や管理費用の算定方法に合意が見られない場合は、遺産分割協議とは別に話し合うことになります。

賃貸アパートの管理費用の算定方法は複雑な計算が必要となるため遺産分割協議の中で協議することは不向きな面も考えられます。遺産分割協議とは分離して費用負担の方法を協議した方が賢明な場合も多いと思います。


<葬儀費用の対処方法について>

「葬儀費用」に何が含まれるかということについて法律で明確に定めたものは存在しません。一般的には、棺その他の祭具代、葬式場費用、読経費用、火葬の費用、墓標の費用、通夜・告別式の飲食代、納骨費用などが含まれるとされています。


これに対して、墓地の費用、葬儀後の見舞客の食事代や足代、初七日法要、四十九日法要の費用は葬儀費用には含まれないと言われています。

葬儀費用も相続開始後に発生する費用であり、相続財産ではありませんので費用の負担方法について悩む場合があります。多くの場合、祭祀承継者と目される長男や長女の方の自腹で処理されることも多いと思います。


法的な意味での葬儀費用の負担者としては色々な見解があり裁判例も分かれています。考え方として、①喪主が負担する ②相続人の共同負担とする ③相続財産から支弁する ④その地方の慣習や習俗によって決まる など諸説があります。

相続人に争いがなく合意できるのであれば、①から④のどの考え方に従って定めても問題ありません。②や③の相続財産から相続人の負担で行う場合は、遺産分割協議の中で具体的な負担方法を明記すると良いと思います。


協議の中で「香典」の取扱いについて論点となる場合があります。
「香典」は、「葬儀費用の一部を負担し、遺族の負担を軽減するための相互扶助的な金銭の贈与」と考えられていますので、葬儀費用の支払に充当されると考えられます。葬儀費用を超える香典が集まった場合は、相続財産ではないので、基本的には喪主が受け取ることになると考えられます。

なお、葬儀費用については、「相続税の債務控除」にも関係してきますので、領収証の取り方を含めて注意が必要になります。

「葬儀費用の債務控除」とは、相続税法上の遺産の額を計算するとき、葬儀費用は債務として相続財産から控除できる制度のことです。葬儀費用として多額の費用を計上できれば、その分相続税を低く抑えることができます。

葬儀費用として認められるものとしては、先ほど述べた一般的な葬儀費用(棺その他の祭具代、葬式場費用、読経費用、火葬の費用、墓標の費用、通夜・告別式の飲食代、納骨費用等)があります。これに対して、墓地の費用、葬儀後の見舞客の食事代や足代、初七日法要、四十九日法要の費用は葬儀費用にあたりませんので注意が必要です。


特に初七日法要は、最近は告別式当日に行われることが多いことから、これにかかった食事代などの費用は葬儀費用として認められません。
葬儀社等の発行する領収書の記載内容には注意が必要となります。また、「香典返し」も葬儀社が一括して請け負う場合がありますので、葬儀分とは区分けできるように領収書を記載してもらう必要があります。

(まとめ)

本人が亡くなってから得られる収益や発生する費用には色々なものがあります。本人の生前中に発生したものであれば、本人の相続財産として遺産分割協議の中で処理方法を検討することができます。しかし、亡くなった後に発生した分は遺産ではありませんので、取扱いに色々と疑義が生じます。

相続人全員が合意できれば、遺産分割協議の中で処理方法を決めることができますが、これができない場合は、遺産相続とは離れて協議をする必要があります。揉めれば民事訴訟での解決となります。

従って、遺産分割協議をする前提として、本人が亡くなった後に発生した収益や費用についての取り扱いについて相続人間で話し合っておくことが大切になります。

 

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