「遺産分割協議」で相続した財産に不具合があったとき、どうしたらよいのでしょうか

遺産相続のため「遺産分割協議」を行い、各相続人が遺産分割協議の合意内容に従って相続財産を分割したとき、後日になって相続した財産に不具合があったときはどのようにすればよいのでしょうか。


不具合の内容は色々考えられます。相続財産が住宅等の不動産の場合や自動車等の現物の場合、遺産分割時の相続人の意思としては「現状有姿」での引渡しを想定していると思います。相続した家屋の「建具の立て付けが悪い」とか自動車の「エアコンの調子が悪い」といった程度の不具合は、各相続人が対処することになると思います。


しかし、相続した不動産や自動車について、よく調べてみると相続開始以前に第三者に既に売却されていた場合はどうでしょうか。
不動産の登記名義の変更や自動車の車検証の名義変更だけが何らかの都合で遅れていたケースが考えられます。また、家屋が土台から傾いていて居住するには大規模修繕が必要な場合なども考えられます。


また、遺産相続として取得した書画骨董について、遺産分割協議の段階では名のある作者による本物ということで合意したものが、後日の鑑定評価の結果、真っ赤な贋作だった場合はどうでしょうか。
ブランド品などのコピー商品の場合もあります。


これらの場合は、遺産分割協議の前提としていた相続財産の存否や評価額に重大な認識相違があります。
この場合は、誤った情報を基に行った「遺産分割協議」の効力に影響が出ることになります。

 

遺産分割協議の効力への影響としては、遺産全体に占める不具合財産の割合が相当程度に多ければ、遺産分割協議はそもそも成立せず「無効」と判断されることになると思います。無効と判断されれば、遺産分割協議は始めからやり直しということになります。当然、無効な分割協議に基づいて既に行われた遺産承継手続は取り消す必要があります。

 

また、そこまで不具合の程度が高くない場合は、遺産分割協議としては一応有効に成立していると考えることができます。例えば、相続した建物に「雨漏りがする」、相続した自動車の「エンジンがかからない」、相続した掛け軸は一応本物だが、汚れがひどく「想定した価値はなかった」などがあります。


相続人が取得した財産の一部に不具合が存在する場合で不具合の程度が比較的重大ではないケースです。
遺産分割協議は相続人間での「契約」行為ですので、この場合の問題の解決方法は、契約法に定められている「担保責任」の問題として処理されることになります。

もちろん、不具合なものを取得した相続人として、遺産分割協議を有効と考えることに納得できなければ、遺産分割協議の「錯誤による取消し」を求めることも考えられます。「錯誤」とは、相続人の認識した事柄と実際の事実との認識相違のことです。

「錯誤による取消し」を求めるためには、相続人が錯誤に陥っていなければ遺産分割協議に応じなかったであろうと認められる程度に重要な点についての「錯誤」がある必要があります。錯誤を主張する相続人の取得財産の総額に占める不具合なものの割合が比較的少ない場合、錯誤とは認められない可能性が高くなります。「錯誤による取消し」が裁判で認められるハードルは相当程度高いと考えられます。

そこで、問題の解決方法は、共同相続人の「担保責任」ということになります。担保責任とは、相続人が遺産分割協議の結果得た物又は権利が、遺産分割協議の内容に適合しない場合に、他の共同相続人が、その相続分に応じて、「売主と同じ担保責任」を負担することを言います。


「売主の担保責任」
とは、売買をしたとき売ったものに不具合があれば、買主は売主に対して「代金減額」を請求したり、損害があれば「損害賠償」を請求したり、契約をした意味がなければ契約の「解除」を請求することができます。これを売り主の担保責任といいます。遺産分割協議で不具合なものを取得した相続人を買主と考え、他の相続人を売主と見立てて責任を追及していくことになります。

具体的には、「代金減額」「損害賠償」として不具合分について本来の評価額と実際の価値との差額を金銭によって評価し、各相続人の相続分に応じて金銭で補填してもらうことが考えられます。

遺産分割協議の「解除」については、取引の安全の観点からこれを認めないとする考え方が一部にあります。解除すれば、遺産分割後に相続財産を相続人から取得した第三者に影響が出るということです。しかし、遺産分割協議を解除した場合は、遺産分割協議をやり直すことになりますが、この場合は、「第三者の権利を害することができない」と第三者保護規定が民法で定められています。そのため、取引の安全の観点からは問題ないと解除を認める考え方が有力となっています。

ただし、実際問題として「解除」まで求めれば「無効」と同じく遺産分割協議のやり直しが必要となるため、多くの場合は金銭面での補填で納得する場合が多いと思います。なお、担保責任を追及することのできる期間は、事実を知ってから1年です。

(まとめ)

遺産分割協議を実施後、相続した財産に不具合が発見された場合は、不具合のあるものを相続した相続人は他の相続人に対して金銭面で不足する分を補填請求することができます。通常は、先の遺産分割協議書を前提とした上で、相続人全員で別途「合意書」を作成し、補填内容について合意します。

このような取扱いができない場合は、遺産分割協議が当初より「無効」または「錯誤取消し」又は「解除」により成立しなかったものと考え、遺産分割協議をやり直すことになります。この場合は、紛争として裁判での決着となる可能性が高くなります。


いずれにしても、このような事態に陥らないように遺産分割の前提となる相続財産の確認・評価は慎重に行ってもらいたいと思います。

 

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