遺産分割における「代償分割」とは何ですか

相続による遺産分割では、亡くなった方が残した財産の「現物」を共同相続人が分割するのが原則的な分割方法です。しかし、財産の状況によっては、共同相続人のうちのある者が、その相続分を超える額の財産を取得する代わりに、相続分に満たない財産しか取得できない相続人に対し不足分相当額の「債務」(代償金)を負担する方法があります。これを「代償分割」といいます。

 


例えば、相続財産が実家しかない場合で、相続人の1人である長男が実家を相続する場合、他の相続人である長女には相続分に相当する金銭を長男が支払うケースが考えられます。
相続財産が実家などの現物しかない場合において、現物の分割が難しい場合に「代償分割」という選択肢が登場します。

ところで、実際に代償分割を行おうとすると考慮しなければならない点が2つあります。1つは、現物資産の価格の「評価」方法です。他の一つは、「代償金」の支払方法です。順に見て行きたいと思います。


<代償金の評価方法について>

現物資産の価格の評価次第で他の相続人に支払う代償金の額が決定されるため重要になります。この評価方法について相続人の間で予め合意を得ていないと争いのもとになります。例えば、評価対象の現物が不動産の場合は、評価尺度として、①固定資産税評価額、②相続税評価額、③公示価格、④不動産会社の査定価格、⑤不動産鑑定士による鑑定価格 などがあります。どの尺度を使用しても良いのですが、相続人の間で合意しておくことが重要になります。


また、実家などの不動産の場合、完済されていない住宅ローン等の債務が残っている場合があります。
通常は金融機関を権利者とする抵当権(又は根抵当権)等の担保権が設定されています。この場合は、不動産を取得する相続人が残った債務(ローン)を負担することとし、その額を不動産の評価額から差し引くことになります。


但し、相続における「債務」は、相続人が勝手に負担者を定めても債権者である金融機関には対抗できませんので、金融機関と事前に相談することが必要になります。
金融機関は、相続債務について、各相続人に対して、法定相続分の割合に従って請求できる権利があるからです。金融機関と対応方法 ( 少し難しい用語ですが、「債務引受」や「履行引受」と言います。) を協議して合意しておく必要があります。


重要な点は、不動産の評価方法や債務の承継方法について、「遺産分割協議書」に明記して相続人間で合意しておくことです。
住宅ローンなどの債務承継方法については、事前に金融機関と合意できた内容を記載しておく必要があります。

 

<代償金の支払方法について>

遺産分割協議書で代償金を支払う旨の合意をしたとしても信頼性が乏しい場合があります。実家などを取得することとなる相続人に手元余裕資金があり、一括で支払いが可能な場合は問題ありませんが、「一括払い」が難しい場合も多いと思います。

この場合「分割払い」を選択することになりますが、将来的な支払面の不安が生じます。そのため、不安が高いのであれば債権保全のための方策を考える必要があります。具体的には、相続した実家などの不動産に他の相続人が抵当権を設定したり、実家を相続した相続人の配偶者などに連帯保証人になってもらうことが考えられます。

また、債権保全面の管理をみずから実施したくない場合は、実家を相続した相続人に対して、取引金融機関で相続した実家を担保に融資を受けてもらい、その融資金を代償金として一括で支払ってもらう方法も考えられます。その後、実家を相続した相続人は、金融機関に対して定期的に債務を返済していくことになります。

代償金の支払い方法や担保、保証のあり方など合意できた内容についても「遺産分割協議書」に明記して相続人間で合意しておくことが重要です。


さらに、「代償分割」の範疇を越えますが、実家を相続した相続人が保有する他の資産 (例えば、駐車場などの不動産)を代償金の支払に代えて交付する方法もあります。
もちろん、資産価値が代償金の価格に見合うことが前提となります。

この「代物弁済」的な方法は、相続人間で合意できるのであれば、代償分割の代わりとして活用できると思います。


但し、注意点として、交付される不動産が潜在的に持っている「瑕疵(かし)」についての責任の所在を予め明確にしておく必要があります。
「土地の公簿上の面積と実測面積が異なる」、「土壌汚染があった」、など不動産のもつ「瑕疵」について、交付側が責任をどこまで負うのか、又は負わないのか明確にしておく必要があります。

また、不動産登記上の考慮点があります。この「代物弁済」のような対応方法は、遺産分割方法として法が想定している枠組み ( 具体的には、「現物分割」、「代償分割」、「換価分割」の3種類 )に入っていないため、登記原因の定め方に疑義が生じる可能性があります。

登記先例では、代償金の支払に代えて固有の不動産を譲渡する場合の登記原因は、「遺産分割による贈与」となっていますが、「遺産分割による交換」「共有物による交換」等の見解もあるようです。また、最高裁の判例として、「遺産分割による代償譲渡」とした所有権移転登記申請について、法務局が「登記原因証明情報の提供を欠く」として不適法却下した処分を違法であると判示したものもあります。

いずれにしても、この問題は司法書士等の専門家に任せればよいと思いますが、遺産分割協議書の書き方が「登記原因」を決める場合に重要になりますので、遺産分割協議書の文言に十分考慮して頂く必要があります。



(まとめ)

「代償分割」は、相続法が認めた遺産分割方法の1つです。現物分割や換価分割が難しい場合の選択肢として活用できます。通常は、「分割払い」の方式になる場合が多いと思いますので、支払総額、支払期日、各期日の支払額、遅延した場合の損害金の定めなど必要な事項を遺産分割協議書に明確化しておくことが必要になります。

支払に不安があれば、必要な保全措置も考慮する必要があります。お金の支払に代えて固有資産を代物として交付する場合は、専門家に相談すると良いと思います。

 

 

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