相続手続で「デジタル資産」や「デジタル情報」は大変苦労します

最近は、高齢者でもスマホやパソコンなどのデジタル機器を扱う方が増えています。中には生活の一部となっている方もいます。色々なサービスをデジタル情報で受けていた方が突然亡くなると、残された家族は本人がどのような情報サービスにアクセスしていたか分からず大変苦労することになります。


本人が亡くなってから対応が必要となるデジタル資産やデジタル情報には、次のようなものがあります。

(1) 資産価値のある「デジタル資産」

① ビットコインに代表される暗号資産
② ネット金融機関の資産 (ネット銀行、ネット証券、ネット保険など)
③ PayPay(ペイペイ)などのキャッシュレス決済サービスの残高
④ Tポイントなどの企業ポイント


(2) 故人の「デジタル情報」

① パソコン内に保存してある写真や動画、メール、文章など
② スマホやクラウド上のデータ
③ ツイッター、フェイスブックなどのSNSアカウント情報


(3) 故人の利用していたサブスク型のサービス情報

① ゲームや音楽配信サービス等の課金型のサービス

相続手続で残された家族などが苦労しないためには、本人が生前に「デジタル情報の終活」作業を行うことが必要です。何も対応しなければ、本人が亡くなった後、本人の残したデジタル情報にアクセスすることができなくなり、本人の大切なデジタル情報資産を失うことになります。

「デジタル情報の終活」方法としては、利用している「デジタル情報サービスの種類」とそのアクセスに必要な「ユーザID、パスワード情報」などを書面に書き出しておくことになります。「エンディングノート」などを活用しても良いと思います。最近のエンディングノートでは記入欄を設けているものもあります。但し、書面には機密情報が含まれますので厳重に保管管理する必要があります。


また、不要な情報サービスの解約手続きを早めに行っておくことも有用です。エンディングノートなどを活用して情報資産の棚卸を行ってく中で、不要なサービスは早めに解約手続きを行っておくと良いと思います。特に、サブスク型のサービスは、本人が亡くなった後も契約を放置すれば継続して課金され続けてしまうため注意が必要です。

しかし、携帯電話プロバイター契約SNSのアカウントなどは、本人にとって早めに解約することは難しいと思います。これらについては、本人が亡くなってから速やかに解約できるように準備しておく必要があります。

注意すべき点は、これらのサービスの解約手続きは、本人が亡くなっている場合は、家族や相続人以外は手続きができないことが多いことです。それぞれのサービス契約の約款を調べてみる必要があります。第三者に委任して行ってもらう (これを「死後事務委任」と言います) ことが難しい場合が多くなっています。



次に相続が発生した場合の対応について、資産価値のある「デジタル資産」と故人の「デジタル情報」の取り扱い方法について考えてみます。
エンディングノートなどに書かれている取引情報やID・パスワード情報をもとに行います。

<デジタル資産>

ネット銀行の定期預金などに代表される資産価値のある「デジタル資産」については、取引していた金融機関と取引情報が判明すれば、通常の相続手続と同様な方法で相続人に対して資産承継できます。具体的な手続方法は、ネット銀行などのホームページやコールセンターなどで確認することができます。

ビットコインなどの暗号資産については、まず取引所を確認します。日本で開設している取引所であれば、取引所のホームページを見れば相続手続を確認することができます。国内の暗号資産取引所は、金融庁に「暗号資産交換業者」として登録していますので、国税庁が作成した暗号資産の相続手続きのガイドラインに沿って対応してくれます。

多くの場合、全ての相続人を確認し、相続人の同意を得て、代表相続人の指定口座に暗号資産の残高が死亡日のレートなどに換算して日本円で振り込まれます。

<故人のデジタル情報>

パソコンやスマホ、クラウド上の情報などについては、故人の残したID、パスワードを使って故人のアカウントにログインしてデータの削除やアカウントの削除を行います。メール、写真、動画などの情報が対象になります。


問題となるのは、故人のアクセス情報を使用してこれらの処理を行うことが、不正アクセス行為の禁止を規定した「不正アクセス防止法」に抵触しないかということです。家族などが行えば、問題は表面化しないと思います。

しかし、相続人が情報システムの操作に不慣れな場合、第三者の専門家に処理を依頼する場合があります。また、故人の希望で情報の削除は家族ではなく専門の外部業者を希望する場合もあります。このようなとき不安になります。

不正アクセス防止法は、「何人も不正アクセス行為をしてはならない」「何人も不正アクセス行為の用に供する目的で、アクセス制御情報に係る他人の識別符号を取得してはならない」として、正当な理由なく他人のIDやパスワードを取得したり、これを利用したアクセス行為を禁止しています。


但し、故人から亡くなる前にデータやアカウントの削除事務の依頼を受けていた場合は、委任事務遂行のためにID、パスワードを取得して作業をしても「正当な理由」に基づくものということができます。

従って、家族であれ専門事業者であれ、事前に書面で削除事務依頼を受けておけば安心ということになります。家族宛てであれば、エンディングノートなどに削除依頼を明記しておけば良いと思います。専門業者の場合は、「死後事務委任契約」を締結しておく必要があります。

(※ 前述したように専門業者の場合は、不正アクセス防止法の面からの懸念は解消できますが、相続人以外の者からのアカウントの削除などが認められるかどうかは各SNSのサービス約款を確認する必要があります。)

なお、Facebookアカウントの場合は、本人の生前の意思表明によりアカウントを削除する方法があります。具体的には、本人の希望により「追悼アカウント」(利用しなくなった後、友人や家族が集い、故人の思い出をシェアする場所)への移行を利用するか、該当アカウントを完全に削除するか選択することができます。

以上はIDやパスワードを含むデジタル情報が事前に本人によって書面などに明記されていた場合の対応となります。これらの情報が相続人に分からないまま、本人が亡くなれば、残された家族や相続人は大変なことになります。多くの場合、ネット上の情報資産へはアクセスができないことになり、大切な相続財産などが失われることになります。

(まとめ)

「デジタル資産」「デジタル情報」などの相続手続が、今後、大きな社会問題になる恐れがあります。適切な対応がとられないと多くのデジタル資産が事実上喪失してしまう恐れがあります。デジタル資産を取り扱っている事業者も、本人が亡くなったときの相続手続に関する情報提供を積極的に行ってもらいたいと思います。

 

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