遺産相続で「名義預金」はどのように取り扱ったらよいのですか

遺産相続でよく問題になるものに「名義預金」があります。名義預金とは、実際にお金を預金している人と口座の名義人が異なる預金のことを言います。例えば、預金は妻名義になっているが、預金したお金の出どころは亡くなった夫である場合、妻名義の預金は夫の「名義預金」とされます。このような場合「真の預金者は亡くなった夫である」と税務署が判断した場合、その預金は亡くなった夫の相続財産に含めて相続税の課税がなされます。


名義預金は、配偶者名義以外にも子供名義のもの、孫名義のもの、などがよく見られます。名義預金となった経緯は色々あると思いますが、「生前贈与」のつもりで預金を作成するケースが多いと思います。生前贈与の場合、年110万円の非課税枠を越えれば贈与税の申告が必要となります。預金をしておけばバレないだろうと考えて申告せずに作成することも多いと思います。

このように相続税の申告との関係で「名義預金」が問題となるケース以外にも名義預金が問題となることがあります。例えば、遺産分割協議の中で「兄名義の預金は亡くなった父親の財産である」と弟が主張するような場合です。弟の言い分は、父親と同居していた兄が父親の預金を払出して自分(兄)名義の口座を作成している。その分を遺産分割協議において考慮して分割してほしいというものです。

この事例のように「名義預金」は遺産相続の場面でも色々な問題を引き起こします。そこで、預金の原資の出損者と預け入れ行為者、預金名義人が異なる場合の預金の帰属先についてどのように判断したらよいか問題になります。この預金者の判断基準については色々な考え方があります。裁判所の判断は、定期預金については、名義に関わらず原資の出損者を預金者としています。つまり、お金の出どころの方の預金ということになります。

また、普通預金については、定期預金と異なり頻繁に入出金が発生し、出損者を特定することが難しいことから、個別の事案ごとに裁判所が事実を確認して預金者を判断しています。

具体的には、①口座開設の意図・目的、②口座に入金されたお金の出損者、③通帳や印鑑を管理し入出金を行っていた者、④口座の名義人、などを総合的に考慮した上で預金者が判断されます。


最近の金融機関は、マネーロンダリング対策、犯罪収益防止法などの観点から、預金口座開設時における本人確認や原資の確認が厳格化されています。そのため、従来のようには簡単に他人名義の預金口座の作成は難しくなっています。しかし、名義預金の発生を完全に防ぐことは難しいため、これからも名義預金の問題は発生します。

それでは、この「名義預金」問題に対してどのように対応すれば良いのでしょうか。まず、相続が発生する前の生前対策から見てみます。

(生前対策)

作成した預金が名義預金とみなされてしまうのは次のような場合です。(この例は、親が子や孫名義で預金をしたケースです。)

① 預金の原資(お金の出どころ)が親などのお金である。
② 口座の名義人となっている者が預金口座について知らない。
③ 親などが通帳と印鑑などの管理をしていた。
④ 預金が生前贈与されたものではない。

そこで、名義預金とみなされないようにするには、次のような対策をとる必要があります。

贈与契約書を作成する。(できれば、確定日付を受けておく)
② 銀行送金などで資金移動の記録を残す。
③ 非課税枠を越えた場合は、贈与税の申告をする。
④ 預金の管理は、名義人が行う。(通帳や印鑑は名義人が保管する)
  ※孫などが未成年者の場合は、その親が法定代理人として①~④を行う。

つぎに、相続発生後の対応について考えてみます。


(相続発後の対応)

生前対策が不十分で「名義預金」と判断される預金がある場合は、遺産分割協議や相続税の申告において「名義預金」と明示して処理を行うことが基本となります。

遺産分割協議においては、相続人間で名義預金も遺産に含めて遺産分割協議を行います。例えば、既に兄名義の預金であっても亡くなった父親の相続財産と考えて、他の遺産とともに遺産分割協議を行います。つまり、兄は預金の額面金額については、相続人としての取り分を取ったものとして計算します。


もちろん、父親の財産で作成した兄名義の預金だからと言って、全て父親の財産だと言い切れない場合もあります。父親と同居していた兄が介護費用などを立て替え、ある程度まとまった時点で父親の口座から引き出して兄の口座に移した場合もあり得ます。遺産分割時の協議では、事実をよく説明して納得してもらう必要があります。

遺産分割協議書上も名義預金は「名義預金」と分るように明示して分割協議をした方が良いと思います。この遺産分割協議書を使用して相続税の申告も行います。相続税の申告に当たっても、「名義預金」と判断されたものは隠さずに「名義預金」として相続財産に含めて申告します。

名義預金と明示をしないで申告をすれば、申告漏れとなり、税務調査が入った時、名義預金とみなされれば相続税の修正が必要になります。情状によっては、過少申告加算税重加算税などのペナルティの税がかかる場合があります。慎重な対応が必要となります。


(まとめ)

「名義預金」は相続発生時、色々と面倒になりますので、できるだけ発生させないように対策を取る必要があります。生前贈与のつもりであれば、生前贈与が認められるように要式を整える必要があります。

相続発生時に名義預金が含まれている場合は、隠し立てをすることなく、名義預金も含めて遺産分割協議や相続税の申告を行うことが、無用の混乱を招かないためにも大切なこととなります。

 

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