市街地で一戸建の「空き家」を相続した場合どうすれば良いですか

市街地にある一戸建ての実家を相続して相続人がそのまま住み続けるのであれば特に問題はないと思います。しかし、既に自宅を保有している相続人の場合、実家の取り扱いに悩むことになります。


実家への思い入れがある場合は売却には抵抗感があります。他の兄弟姉妹も売却には反対することが多いと思います。しかし、空き家のままでは固定資産税の負担もあります。そのため、更地にして「駐車場」としての活用が選択されることも多くなります。とりあえず、駐車場にして、後で最終的な処分方法を考えようとするものです。

しかし、土地の広さや所在場所の関係で駐車場には不向きの場合があります。不動産会社などに相談すると「賃貸アパートを建築して収益物件にしたらどうですか」などと勧誘されます。「低金利の今であれば、収益率はこれくらいで魅力的ですよ」と猛烈にセールスされます。


駐車場として当面活用するにしても、いずれは処分を検討することになります。また、賃貸アパートなどの収益物件として活用することは、相当な覚悟が必要になります。それなりの事前勉強をしてアパート経営の基礎的なスキルを習得することが必要です。それをすることなく不動産業者の言うがままに始めれば、将来的に経営が難しくなることも予想されます。

また、古い実家の相続の場合、建物の老朽化が進んでいますので、耐震性などに問題があると思います。仮に継続的に住むにしても費用をかけた改修工事が必要になる場合が多いと思います。


総務省の直近の統計データによれば、空き家の戸数は全国で846万戸となっています。共同住宅や長屋建を除いた一戸建ての空き家は317万戸もあり年々増加傾向にあります。一戸建ての空き家の57%は相続によって発生しています。また、空き家の69%は旧耐震基準(1980年以前の建築)の家屋です。

( 空き家となった実家を売却する時の考慮点 )

そこで、相続した不動産に特別の思いがなく、自分や子供なども将来的に活用する見込みがないのであれば、早めの売却を検討して、不動産の有効活用を考えることが必要かもしれません。

しかし、多くの人は不動産の「売却」について、税金の心配があると思います。不動産を売却した時に必要となる税金には色々ありますが、金額的に大きなものとして「不動産の譲渡所得税」があります。


不動産の譲渡所得とは、売った値段から買った値段の差額を利益と考え、これを譲渡所得として課税するものです。詳しく言えば、次の算式で求めます。

譲渡所得= 売却価格-(取得費用+譲渡費用)

譲渡費用とは、不動産会社への仲介手数料や登記費用などです。取得費用は、亡くなった親などが不動産を取得した当時の取得費用の額です。相続時は親が取得した金額を引き継ぎます。通常は、何十年も前に取得していますので取得費用は相当程度低くなります。

あまり古すぎて当時の売買契約書などが見つからない場合もあります。そのような取得費が不明な場合は、売却価格の5%が取得費用とみなされます。つまり、仲介手数料などを加えても売却価格の90%程度が譲渡所得とみなされます。

この譲渡所得に対して譲渡所得税が課税されます。税率は、短期と長期の区別がありますが、相続で取得した空き家の場合は、通常は長期になると思いますので、20.315%です。5,000万円で売れ、取得費が不明であれば、その9割程度の4,500万円が譲渡所得とみなされ、その2割の900万円が譲渡所得税として納税する必要があります。


ところで、このように空き家を相続して売却した場合の重い税負担である譲渡所得税の軽減措置が、平成28年に創設されています。相続により発生する「空き家対策」として「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得税の特別控除の特例」として定められました。

この特例が適用されると、亡くなった被相続人の居住用の土地・家屋について、一定の要件の下、相続した人が売却した場合の譲渡所得から3,000万円を特別に控除することができます。

(「空き家」についての譲渡所得税の3,000万円の特別控除について )

空き家の多くは、古い耐震基準で建てられているため、空き家となって老朽化が進めば、近隣住宅への危害の発生が予想されます。そのため、その対策として、この制度が創設されています。本来の制度目的は、地震などへの備えとしての制度ですが、適用要件が満たされるのであれば、3,000万円の特別控除を「空き家」売却に活用することができます。


平成28年4月1日から令和5年12月31日までの時限措置であるため、活用する場合は、早めの利用が必要になります。また、制度利用の要件として、後述するように、亡くなってから3年以内となっています。

制度を利用するためには、以下の適用条件を満たした上で「耐震基準を満たしていない古い建物を壊して更地を譲渡する」「古い建物について耐震基準を満たすように耐震リフォームしてから譲渡する」必要があります。(耐震基準を満たしていればリフォームは不要。マンションは対象外です。)

<適用条件>

① 被相続人居住用家屋  

相続開始直前に被相続人の居住用家屋であったこと
相続開始直前に被相続人以外の居住者がいなかったこと
昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること(区分所有建築物を除く)

② 土地等

相続開始直前において「被相続人居住用家屋」の敷地の用に供されていた土地等であること

③ 対象者

相続により「被相続人居住用家屋」及びその敷地の用に供された土地等を取得した個人であること

④ 適用期間

平成28年4月1日から令和5年12月31日までの譲渡であること

⑤ 譲渡期限

相続の時から相続開始日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡であること

⑥ 譲渡対価限度額

譲渡対価の額が1億円を超えるものを除く

上記適用条件①「被相続人居住用家屋」中で、最初の条件「相続開始直前に被相続人の居住用家屋であったこと」があります。親が老人ホームなどに入所していた場合、2019年4月以降は、要介護認定を受けており、居住家屋を他人に貸していない場合など一定の要件を満たせば条件を満たすことができるようになりました。


(まとめ)

相続で市街地の一戸建ての「空き家」を取得した場合、利用価値のある不動産の場合は、有効活用を検討してもらいたいと思います。

売却する場合は、譲渡所得税が重い負担となりますが、軽減税率の適用も考えられます。軽減税率の適用には細かい条件がありますので、不安な方は最寄りの税理士や税務署に確認されると良いと思います。

 

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