「相続税」の節税対策として何をしたら良いですか

相続と言えば「相続税」が気になる方が多いようです。しかし、現実には全ての相続発生件数のうち約8%程度で相続税が納められています。また、地価の高い都市部でも10数%程度となっています。つまり、相続税が実際に問題になる方は全体の1割程度であり、残りの9割の方にとっては相続税は関係ないことになります。

そうはいっても、気になる方には気になります。相続税申告の適正確認として実施される「税務調査」は、相続税を申告した方も申告しなかった方も関係なく、税務署の判断で調査が入ります。税務調査を受けた場合、大半のケースで申告漏れを指摘され加重に税金を追徴されているようです。

そこで、資産のある方や都市部にお住まいの方は事前の対策を考えておく必要があると思います。

ここでは、相続税の節税対策として広く行われているものを紹介します。あわせて注意点についても説明します。

(1) 暦年増与

<メリット>

年間110万円までは贈与税の基礎控除額があるため、この非課税枠を有効活用して、毎年110万円を超えない範囲で贈与を繰り返していくというものです。相続人以外の孫などにも贈与できることから活用範囲は広くなっています。


<注意点>

「名義預金」とみなされるリスクが高いことです。名義預金とは、預金の名義人と本来の預金者が異なっている預金のことです。祖母が孫の名義で預金をした場合、お金の出所は祖母で通帳の名義は孫になります。祖母から孫に「贈与」がなされていれば問題ありませんが、通帳や印鑑を祖母が保管していると、税務署は祖母が孫の名義を借りて自分の財産を少なく見せようとしていると考えます。これが「名義預金」です。税務調査でよく指摘されているようです。

対策としては、適正に「贈与」することです。贈与する者と贈与される者が「贈与契約」を締結していることです。具体的には、贈与契約書を作成して双方が署名押印します。贈与を受ける者が孫の場合は、父母が法定代理人として署名押印します。通帳や印鑑は贈与を受ける側か保管管理します。


心配な方は、贈与契約書に公証役場で「確定日付」を受けて下さい。また、通帳から少額でも良いので出金をして贈与を受けた者が実際に使用していることを記録して下さい。

尚、暦年贈与は相続税の節税効果が高いことから、政府の中で見直しの議論が出ています。制度そのものを廃止するのか節税効果を減殺する措置を取るのか分かりません。今後の改正情報に注意する必要があります。

(2) 相続時精算課税

<メリット>

「相続時精算課税」とは、暦年贈与では贈与しきれない大きな財産の贈与を一定の非課税枠を活用して行うものです。非課税枠は2,500万円まであり、これを越える分は一律20%の贈与税がかかります。

相続時精算課税を活用して贈与を受けた財産は、本人(贈与者)が亡くなったとき、本人の相続税の計算において、相続財産に加えて計算します。つまり、この制度を利用しても相続財産を減らすことはできないのです。

但し、メリットとして、相続財産の価値の判断基準時を贈与時とすることができます。例えば、5,000万円の土地を贈与して、本人が10年後になくなった場合で、亡くなったときの土地の価値が7,000万円に値上がりしていたとしても、5,000万円として相続財産にカウントします。つまり、差額の2,000万円分相続財産の価値を下げることができるのです。


利用方法としては、値上がりが見込める不動産 (市街化区域に編入予定の土地など) や成長が著しい非上場の自社株などが考えられます。なお、相続税の計算においては、相続時精算課税段階で支払った贈与税は相続税の支払に充当されて計算されます。

<注意点>

値上がりすると思って制度を活用した財産が値下がりすればメリットはなくなってしまいます。

また、相続時精算課税と暦年贈与は選択制となっています。相続時精算課税を一旦選択すると、それ以降は、本人(贈与者)との関係では、非課税で贈与をうけることができなくなります。日常生活でのちょっとした贈与でも年間110万円の非課税枠がありませんので、厳密に言えば、僅かな金額でも課税される可能性があります。

(3) 小規模宅地特例

<メリット>

要件を満たす宅地などについて、土地の評価額を最大80%減額できる制度です。事業用のの宅地でも条件を満たせば減額されます。適用条件は、改正が続いており複雑になっています。簡単には説明が難しいので、税務署や税理士に確認することが必要です。

相続財産に不動産がある場合は必ず本制度の適用可否を確認する必要があります。適用条件の中で事前対策に関わるものとして「被相続人との同居」があります。本制度の利用には被相続人との同居が必要になりますが、この「同居」の意味について緩和措置があります。その条件に適合するように事前対策を検討することができます。

具体的には、通称「家なき子特例」といわれるもので、被相続人に配偶者も同居人もいない場合で、相続人(子)が3年間借家住まいの場合、相続してその家に住めば「同居」とみなすというものです。


<注意点>

要件が複雑で難しいので、適用可否や事前対策は税理士とよく相談する必要があります。

また、土地を共有で相続した場合、この制度の恩恵を誰がどの程度受けるかで揉める場合があります。事前に相続人間で合意しておく必要があります。

(4) 教育資金の非課税贈与制度

<メリット>

30歳未満の方を対象とした非課税制度で、祖父母などの直系尊属から教育資金の一括贈与を受ける際、贈与額の1,500万円までが非課税になる制度です。暦年贈与と併用できます。

教育資金としての非課税制度を利用していることの証明が容易で税務調査でも指摘されることはないと思います。また、贈与者である祖父母が高齢の場合、一括して贈与できる便利さがあります。


<注意点>

制度を利用するには、金融機関との間で専用の口座を作成し、教育資金として入金します。制度の利用開始を金融機関を通して税務署に申告します。教育資金として使う場合は、領収書を金融機関に提出して預金を引き出します。教育目的以外には非課税枠を使用することができません。

利用者が30歳になった時点で未使用の預金が残っていた場合、残額に対して贈与税がかかります。

そもそも子や孫などへの教育資金については、必要の都度、必要金額を贈与しても贈与税は課税されないと思います。従って、わざわざ資金をまとめて一括で贈与することに意味が見出しにくいと思います。

 

(5) 結婚・子育て資金の非課税制度

<メリット>

20歳以上50歳未満の方を対象とした非課税制度で、結婚・子育ての資金として贈与額の1,000万円までが非課税となる制度です。結婚・子育て資金としての非課税制度を利用していることの証明が容易で税務調査でも指摘されることはないと思います。


<注意点>

教育資金の非課税制度と同じような金融機関との仕組みになります。従って、結婚・子育て資金以外の目的には使用できません。受贈者が50歳になると制度は終了し、残額があれば贈与税がかかります。

また、本人(贈与者)が亡くなると、その時点の預金残高は相続財産となり相続税の対象になります。

結婚や子育て資金は、親族に対して必要の都度、必要額を贈与しても、贈与税はかからないと思います。従って、この制度の活用の意味が見出しにくいと思います。

 

(6) 生命保険

<メリット>

生命保険には専用の非課税枠があるため、相続税対策として活用できます。非課税枠は、相続人の数×500万円です。相続人が3人であれば保険金1,500万円まで非課税に出来ます。

生命保険は、法律的には相続財産ではないため、遺産分割協議の対象外となります。保険契約で定めた受取人が全額受け取ることになり、遺産分割での争いにはなりません。


<注意点>

保険契約の定め方によっては、相続税としての非課税枠を活用することができず、所得税や贈与税が課税される場合があります。

具体的には、保険契約者が「夫」で被保険者が「夫」、生命保険の受取人が「妻」のような定め方は、相続税の対象となり問題ありません。

ところが、保険契約者が「妻」で被保険者が「夫」、生命保険の受取人が「妻」のような定め方は、所得税の対象となり非課税枠を活用することができません。

また、保険契約者が「妻」で被保険者が「夫」、生命保険の受取人が「子」のような定め方は、贈与税の対象となり非課税枠を活用することができません。

このように、生命保険の定め方が重要になりますので、保険契約の確認と必要な場合は変更の手続きをすることが必要です。

 

(7) 死亡後の退職金

<メリット>

通常は、本人が退職して退職金を受け取ってから亡くなるケースが多いと思います。しかし、中には、在職中に亡くなって、家族が退職人を受け取る場合があります。この場合、この退職金に対して相続税がかかりますが、非課税枠が用意されています。

具体的には、相続人1人に対して500万円の非課税枠です。

事前に対策できるような制度ではありませんので、死亡退職金が発生したら、非課税枠を有効活用することになります。

 

(8) 養子縁組

<メリット>

養子縁組をするとその子は法定相続人となります。その結果、相続税の基礎控除額がその子の分だけ増加して、課税対象財産を少なくすることができます。

相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 法定相続人の数 × 600万円

相続税の基礎控除額以外に「生命保険」の控除額、「死亡退職金」の控除額も増加します。このメリットを生かして、祖父が孫を養子にする相続対策が行われることになります。

相続対策としての養子縁組は、本来の意味での養子縁組とは言えません。養子縁組は当事者が心から法律上の親子になる固い意思が必要です。相続対策としての便法としての養子縁組は、法律上は無効です。しかし、本人の内心の意思は傍から伺い知ることはできませんので税務調査で指摘されることはありません。


<注意点>

利用できる養子の数に上限があります。実子が既にいる場合は1人まで養子にすることができます。実子がいなければ2人まで養子にできます。それ以上を養子にできますが、基礎控除額などは増えません。

親子関係や相続関係での「争いの種」になる場合があります。相続税が節税できたとしても別の親族トラブルの発生が予想されますので慎重な対応が必要です。

(9) タワーマンション節税など

タワーマンションの高層階と低層階の価格差を利用した節税策や土地の評価額が「路線価」になることに着目した節税策が色々と実施されてきました。しかし、今後は何れも節税策としては利用が難しくなっています。

令和4年4月19日の最高裁判決によって、不動産について節税対策を駆使したものであっても、税務当局が必要と判断すれば、市場価格などを個別に評価して、実質的な評価額をもとに課税することができるようになりました。税務当局の具体的な運用方針は分かりませんが、当局が不当な節税策だと判断すれば、適正額に評価し直して課税されます。

(まとめ)

相続税の節税対策は、色々なものがありますがメリットとデメリットがあります。専門家である税理士などとよく相談して事前対策を検討してもらいたいと思います。

 

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