「老朽化マンションの建て替え」を容易にするための法改正が検討されています

マンションは建物の老朽化と住民の高齢化という「2つの老い」が深刻化しています。国交省の統計では、2021年末時点で築40年以上のマンションは全国に116万戸あるそうです。これが10年後には249万戸となり、20年後には425万戸に増加すると試算されています。


また、「2つの老い」問題以外に「所有者不明」問題も増えています。相続などを経てマンションの名義変更の手続きが適正に実施されていないため、マンションの所有者が不明となっているのです。管理費の滞納にもつながり、マンション管理組合でも足元の問題として頭を悩ませています。

2018年度の抽出調査では、所在や連絡先が分らない「空き家」があるマンションは、マンション全体の3.9%でした。これが、築40年以上のマンションに限ると13.7%に跳ね上がり、およそ古いマンションの7棟に1棟の割で所有者不明の「空き家」があることになります。

このような状況の中で、古いマンションの修繕や建て替えを行おうとすると「多数決要件」を満たすことができず苦慮することが増えています。現在の法律(「区分所有法」)では、マンションの建て替えには、マンション住民の5分の4、共用部分の変更工事には4分の3の同意が必要になります。


法律上は、所在不明の空き家の住人は、決議に反対しているとみなされます。そのため、建て替えや大規模修繕を行おうとすると、この多数決要件が高いハードルとなって実現が難しくなります。実現できず放置すれば、さらにマンションは老朽化し、住民の高齢化と所有者不明の「空き家」が増加することになります。

この問題を抜本的に解決するには、区分所有法の改正を行う必要があります。そこで、政府は、老朽化したマンションの建て替えや修繕を容易にするため、マンションの住民の合意要件を緩和する区分所有法の改正などの検討に着手しました。

2022年9月2日、葉梨法務大臣は、区分所有法改正などの検討を、9月12日開催の法制審議会に諮問すると記者会見で発表しました。会見の中で『高齢化社会を背景に所有者の所在が分からない部屋が増加している。合意形成のハードルを下げることで、建物の安全性や耐震性が懸念される建物の再生を促したい。』と述べています。


これを受けて、法制審議会では、合意要件の緩和を具体的に検討することになります。現在俎上に載っている案では、建て替えの合意要件を現在の「5分の4」から「4分の3」または「3分の2」に緩和すること。あるいは、要件緩和の条件として「耐震不足であること」を追加する。などが検討されています。

また、所有者不明の空き家に対応するため、裁判所などが関与して、マンション建て替えなどの合意形成時に、所在不明の所有者を多数決から除外することも検討されています。


今後は法制審議会の議論を経て改正法案が策定されると思います。パブリックコメントに付された後、早ければ次期通常国会に提出されると思われます。

合意要件が緩和されるとしても、決議に反対するマンション居住者への補償を含めた対応をどのようにするかなど解決すべき課題は色々あります。改正法が成立して合意要件が緩和されたとしても、老朽化マンションの建て替えが円滑に進むかどうかは不透明だと思われます。


高齢で金銭的に余裕のないマンション住民がマンション建て替えによって住む場所がなくなるようなことのないように、弱い立場の住民にも配慮したきめ細かい改正内容となることを期待したいと思います。

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