「相続手続」の不安なことは何ですか

親が将来亡くなったとき発生する相続手続について、何となく不安に思っている方が多いと思います。ネットや雑誌で親の相続手続で苦労したという話を目にすることが多くなっています。親しい友人から具体的な苦労話を聞くこともあります。


ところが、相続について漠然とした不安感はあるものの相続について何かしているかというとほとんどの方が何もしていません。「家族での相続についての話し合い」や「相続手続に関する準備や対策」について、ほとんどの方は何もしていません。

何となく心配に思っている点は、次のような事柄が多いと思います。

① 相続税がかからないか。申告や納付ができるか。
② 相続財産の分割で相続人間で争いにならないか。
③ 不動産や預貯金、株式などの名義変更手続がうまくできるか。

個人事業主で確定申告の経験のある方でも「相続税」の申告となるとハードルが高いと思います。まして、一般の方にとっては税金の申告については全く分からないと思います。


「遺産分割協議」で揉めてしまうのではないかと不安に思っている方も多いと思います。しかし、生前に相続財産の分け方について話し合いをすることは、憚(はばか)られることが多いと思います。

「相続財産の名義変更」は、不動産や預貯金など相続財産の対象ごとに相続手続が異なっているため、1つ1つ調べる必要がありますが、事前に確認する気にはなれないと思います。


ところで、相続が発生し相続手続を一度経験された方に実際に相続手続で苦労されたことを聞いて見ると、次のような事柄が多いようです。

① 不動産や預貯金、株式などの名義変更手続
② 戸籍収集作業
③ 相続手続きに関する必要書類の作成

これを見ると、相続税に関する事柄がなくなっており、相続人間の争いも心配されたほどは発生していないことになります。相続人が実際に苦労して大変だったことは、相続財産の名義変更手続に関する戸籍の収集や書類の準備ということだったようです。


相続発生前は「相続税の心配」が多く見られましたが、現実には少ないということになります。実際に相続税を納付すべき方がどれくらいいるかを調べてみると、2019年では亡くなった方の8.3%でした。つまり、100人のうち約8人ということになります。

統計数字は日本全国平均ですので、地価が高い都市部では10%程度になると思います。2015年に相続税の基礎控除が縮小される前は全国平均で4.4%でしたので、2014年以前に比べると納付される方は倍増しています。しかし、都市部でも10人に1人程度となっています。つまり、9割以上の方にとって相続税の心配をすることは「取り越し苦労」となっています。

また、相続人間の遺産相続に関する争いの発生も、マスコミなどで大騒ぎするほどは発生していないことになります。残された相続人で話し合いをすれば、多少の不平不満は生じるものの「遺産分割」で「争族」状態になるケースは比較的少ないということになります。

結局、相続手続で具体的に苦労する点は、相続財産の名義変更手続ということになります。この点は生前の不安通りということになります。


相続財産の名義変更をするためには、まず、亡くなった方や相続人全員の戸籍の収集が必要になります。特に亡くなった方は、生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍が必要になります。相続人の中に既に亡くなった方がいる場合は、その方も生まれてから亡くなるまでの戸籍が必要になります。

戸籍は生まれたときに記載された戸籍のまま亡くなるまで同じ戸籍に入っている方は、生まれて直ぐに亡くなったケース等を除いて皆無だと思います。通常は、戸籍の改製や結婚、転籍などで複数の戸籍を渡り歩くことになります。戸籍は市区町村で保管管理されていますので、戸籍の収集は保管管理されている市区町村から、それぞれ収集する必要があります。


収集された戸籍は、不動産や預貯金、株式などの名義変更手続で必要になります。
それぞれの手続毎に戸籍の原本を収集しても良いのですが、数が多くなることと費用が掛かることから、最近は、「法定相続情報証明制度」を利用することが多くなっています。

これは、収集した戸籍と「法定相続情報一覧図」を法務局に提供することによって、法務局から、相続人が誰であるかを認証した「法定相続情報一覧図」を入手することができる制度です。法定相続情報一覧図は、戸籍の原本の代わりとして各種相続手続に使用することができます。名義変更手続に必要な枚数分入手できますので便利です。


不動産の名義変更は、これを「相続登記」といいますが、少し面倒な手続となっています。
司法書士に依頼せず自分で行う場合は、登記に関するマニュアル本や法務局のホームページ情報などを参考に申請手続書類を作成する必要があります。簡単な相続事例の場合は、法務局に複数回通って申請手続書類を準備すれば登記することができます。


但し、少し複雑な相続事例の場合は、対応できずに司法書士事務所に結局依頼することになる場合が多いと思います。難しそうな事例の場合は、最初から依頼した方が時間と費用の節約の面から賢明であると思います。


預貯金や株式などの名義変更も、各金融機関によって取り扱い手続が異なっているため、金融機関毎に手続書類を準備する必要があります。対応窓口についても取引店もあれば、本部の相続センターの場合など色々あります。

相続手続で苦労することは、全て初めて行うため1から聞きながら手続きを進めていかなければならないことです。そのため想定していたよりも多くの時間と費用が掛かってしまいます。特に、平日は仕事の関係で役所や金融機関に行けない方は、必要書類の収集で苦労することになります。

(まとめ)

相続手続で事前に不安に思うことは「相続税」「争族問題」「名義変更手続」が多くなっていますが、実際には「名義変更手続」で苦労する場合が多くなっています。もちろん、相続財産の多い方は「相続税」の心配をする必要があります。税理士と事前によく相談した方が良いと思います。

「争族」問題も少ないとはいえ確実に一定数は発生しています。「争族」問題に発展しやすいケースは類型化できますので、相続人の状況から心配な方は、生前対策として「遺言書」の作成など対応策を検討する必要があります。相続の専門家にご相談下さい。

 

Follow me!