既に作成した「遺言書」を取消したり撤回したりできますか

相続問題が心配で生前対策として遺言書を作成することがあります。遺言書の信頼性を高めるために専門家などの支援を受けながら「公正証書」で作成することも多いと思います。遺言書が作成できたときは「これで相続問題に心配はなくなった」と安堵して肩の荷を下ろすことが多いと思います。その後、天寿を全うし、遺言書のお陰で相続人が相続問題で揉めることなく円満に相続手続を行うことができる場合が多いと思います。


ところが、遺言書を作成した後、状況が変化し作成した遺言書の内容では不都合が生じる場合があります。例えば、財産を相続させる予定の相続人が亡くなってしまった場合です。この場合、亡くなった相続人に対する遺言部分は無効となり、その相続人に対する相続財産は、他の相続人の話し合いで相続先が決まることになります。


専門家の支援を得て遺言書を作成した場合、ある程度の状況の変化に対応できるように考えて遺言書は作成されています。例えば、相続人が年齢や病歴などから見て本人よりも先に亡くなる可能性が高ければ、相続人が万一亡くなった場合を想定して相続財産の予備的な相続方法を定めておきます。遺言書で遺言執行者を定めた場合も指名された方が遺言執行業務を行うことができない場合を想定して、予備の遺言執行者を予め選定しておくこともあります。


しかし、将来のことは誰も正確には予測することはできません。相続させる予定の自宅が火災で焼失するかもしれません。配偶者と仲たがいをして、ある日突然「熟年離婚」するかもしれません。息子や娘が気に入らない行動をするかもしれません。新たに誕生した孫が可愛くなり、どうしても孫に財産の一部を与えたくなるかもしれません。


このようなとき、既に作成した遺言書の内容では不都合が生じることがあります。自筆証書で遺言書を作成された場合は、既に作成した遺言書に加除訂正したくなるかもしれません。公正証書で遺言を作成された方は、公証役場で公証人に作成してもらった遺言書なのだから簡単には変更できないのではないかと考える方もいると思います。


(作成した遺言書の撤回について)

遺言書を作成後、これを取消すことを遺言書の「撤回」といいます。そして、「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」とされています。

遺言書は、状況の変化に応じて、撤回することは自由となっています。但し、遺言書の作成について厳格な要件が定められていたことから、遺言書の撤回にも一定の方式に従うことが必要になります。つまり、遺言書は、遺言者が生存中であれば、遺言書の方式に従って、遺言を撤回することができます。撤回の回数制限はありません。極端に言えば、毎年、年末などに既に書かれた遺言書を撤回して、新しい遺言書を作成することもできます。

「遺言の方式に従う」とは、自筆証書遺言の場合は、自筆証書遺言の作成について定められた方式に従うということです。全文の自書や日付の記載、本人の署名押印などの定めに従って作成するということです。

遺言の方式に従っている限り、遺言書の作成方式が異なっても問題ありません。例えば、自筆証書遺言を撤回するときは、必ず自筆証書遺言の方式によらなければならないということはありません。自筆証書遺言を公正証書遺言で撤回することもできます。

遺言の撤回が自由にできる関係から、遺言書に記載された遺言書の「作成日」が重要になります。同一人物作成のA、B、Cという3つの遺言書が発見された場合、作成日により作成順を見て最後に作成された遺言書が本人の最終意思であると判断さることになります。その意味で、作成日が「令和3年11月吉日」のような遺言は許されません。

(自筆証書遺言の撤回方法)

自筆証書遺言を自筆証書遺言で撤回する場合は、自筆証書遺言の方式に従い「令和〇〇年〇〇月〇〇日付自筆証書遺言を撤回する」旨を新しい遺言書の前文などに記載して、新しい遺言書の全文と日付、署名を自署して印を押した書面を作成します。

自筆証書遺言を公正証書遺言で撤回する場合は、新しい遺言内容を公証人に伝えれば、公証人が前の遺言の撤回と新しい遺言内容の公正証書を作成してくれます。

なお、自筆証書遺言は、修正範囲が局所的であれば、遺言書の部分的な加除訂正で対応できる場合があります。その場合は、変更したい箇所に加筆又は削除を行い、変更した箇所に押印する必要があります。その上で、変更した部分の欄外や遺言書の末尾に「〇〇頁〇〇行目〇〇字削除〇〇字加筆」などと記載して、署名することが必要です。

自筆証書遺言の加除訂正は、要件が厳しいので実施する場合は専門家の確認を取るなど慎重に行う必要があります。加除訂正方法が間違っていると加除訂正が無効になってしまいます。

令和2年7月10日より開始されている「法務局による自筆証書遺言の保管制度」を利用している場合は、遺言者は遺言書が保管されている法務局に対して、いつでもその保管の撤回を申し出ることができます。

注意点としては、本人自ら法務局に出頭する必要があることです。本人が出頭して保管の撤回を申し出ると、遺言書が遺言者本人に返却されます。返却されたら、遺言書を破棄することになります。必要であれば、新しい自筆証書遺言書の保管依頼をすることになります。


法務局による保管制度を利用した自筆証書遺言について、撤回に本人出頭を求めることについては、高齢で歩行が困難になった遺言者にとって問題となるかもしれません。 

(公正証書遺言の撤回方法)

公正証書遺言を撤回したい場合は、公証人に撤回の旨と新しい遺言内容を伝えれば、従前の遺言書を撤回して新しい内容の遺言書を作り直してくれます。従前の公正証書遺言には、何ら手を付けずそのままの状態となります。

公正証書遺言の場合は、作成した遺言書は本人が120歳になるまで公証役場に保管されます。複数の遺言書を作成した場合は、全国の公証役場に保管されている遺言書を確認して最新日付のものを検索することができます。

公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することもできます。但し、自筆証書遺言の場合、遺言書の保管管理に不安な面があります。折角、遺言書の信頼性や安全性確保のために公正証書遺言を選択して遺言をした以上、遺言書の撤回や新しい遺言書も公正証書で行うのが合理的であり無難であると思います。

公正証書遺言の場合は、撤回して新しい遺言書を作る場合に費用が掛かります。初回の遺言書作成時と同じ報酬基準で費用が掛かりますので、頻繁な変更には不向きとなります。但し、高齢で足腰が不自由となっても、公証人や立会証人など関係者が自宅や病院、介護施設などに出張して対応してくれますので安心です。

(まとめ)

遺言書は作成した後、状況が代われば、変化に応して変更することができます。最新日付の遺言書が本人の最終意思として認められます。

そのためには、遺言書の作成で定められている一定の要件を満たす必要があります。色々と心配な方は、公証人による公正証書遺言の方式で遺言書を撤回することをお勧めします。

なお、最近始まった「法務局による自筆証書遺言の保管制度」を活用する場合は、将来、修正変更が必要になったとき、ご自身で法務局に出頭する必要があることを念頭に置いて頂く必要があります。

 

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