令和5年4月1日より「遺言」による「相続登記」が簡単になる場合があります

不動産登記法の改正により、令和5年4月1日より、遺言による相続登記の手続きが一部簡素化され簡単になります。遺言による権利の移転のことを「遺贈」といいます。今回、遺贈を原因とする不動産の相続登記について、従来は、亡くなった方の相続人(遺言執行者が定められていれば遺言執行者)と遺贈を受ける方(受遺者といいます)が共同で行う必要がありました。今回の改正によって、受遺者が相続人である場合は単独で行うことができるようになりました。


簡単に変更点を書きましたが、専門家以外は意味が分からないと思いますので、順を追って説明します。

(不動産登記の申請の仕方について)

例えば、不動産を売買したとき、売り手の名義から買い手の名義に名義変更します。これを「所有権移転登記」と言います。この登記手続は売り手と買い手が共同で行います。共同で行うとは、売主側で本当に権利者であることを証明するために、権利証や実印、印鑑証明書を準備します。買い手側も住民票を用意して所有者として登記される氏名・住所が正しいことを証明します。

そして、買い手を登記権利者、売り手を登記義務者として、共同で登記の申請書を作成して、必要な証拠書類等も添付して登記所に申請します。但し、実際の登記申請は、司法書士に依頼することが多いので、登記権利者と登記義務者が司法書士にそれぞれ登記を委任して行います。依頼を受けた司法書士が登記所に申請しますが、それぞれから委任を受けていますので共同申請であることは変わりません。


このように不動産登記は、原則として、売り手や買い手が登記申請手続を共同して行います。これを「共同申請」といいます。共同申請が不動産登記手続の基本となる申請方式ということができます。

ところで、人が亡くなって相続が発生した場合、亡くなった方名義の不動産について名義変更(「相続登記」といいます)が必要になります。通常は、相続人全員で協議して不動産を取得する相続人を決めます(これを「遺産分割協議」といいます)。

このとき、登記の基本である共同申請方式では相続登記をすることができません。なぜなら、元権利者である本人は既に亡くなっているからです。そのため、本人が亡くなったことや申請者が適正な相続人であることを、相続関係者の戸籍や遺産分割協議書、相続人の印鑑証明書などで証明して、不動産を相続した相続人が単独で申請することになります。これを「単独申請」方式と言います。


このように不動産登記には、「共同申請」方式と「単独申請」方式の区別があります。単独申請方式は、共同申請方式に比べて、他の方の協力が必要ないことから手続きは非常に簡素で楽になります。

( 遺言による相続登記について )

本人が生前に遺言書を作成していない場合は、相続人全員が遺産分割協議を行って不動産を相続する者を決めます。この場合は、その相続人が単独申請によって相続登記を行います。

しかし、最近は本人が生前に遺言書を作成している場合が多くなっています。遺言書による相続財産の承継のことを「遺贈」といいます。遺贈は相続人に対して行うこともできますし、相続人以外の第三者に対しても行うことができます。

ところで、「遺贈」には、遺言者本人の一方的な意思が入っています。遺贈は自分の財産の処分行為です。生前の売買行為や贈与行為と同じような本人の考えや意思が入っています。一方、「相続」は本人が亡くなれば当然に発生するものです。そこには本人の財産処分に対する意思の入る余地はありません。

そこで、従来より、相続登記の手続きにおいても、「遺贈」を原因とする相続登記については、当事者の意思のある「売買」や「贈与」等と同じように共同申請方式で行うこととされていました。但し、この場合本人は既に死亡しているため、残された相続人全員と不動産を遺贈された相続人(受遺者)とで共同して登記申請を行うことになります。遺言書の中に「遺言執行者」が定められていれば「遺言執行者」と受遺者とで共同して行います。


( 問題を複雑にしている事柄 )

このように「相続」を原因とする相続登記は単独申請で行い、「遺贈」を原因とする相続登記は共同申請で行うことが原則となります。しかし、大きな例外が存在するため問題を複雑にしています。

遺言書の書き方として、遺贈である本来の趣旨からすれば「自宅を長男に遺贈する。預貯金は長女に遺贈する。」のように書くのが本筋だと思います。しかし、「自宅を長男に相続させる。預貯金は長女に相続させる。」という遺言書があります。このような書き方を「特定財産承継遺言」といいます。

この「特定財産承継遺言」の相続登記については、例外的に「単独申請」が従来より登記手続で認められていました。そこで、多くの遺言書では文末を「遺贈する」ではなく「相続させる」と書く場合が多くなっていました。こうすれば、単独申請で行うことができて相続登記が楽だからです。

遺言は、相続人宛てでも第三者宛てでもすることができます。第三者宛ての場合は、「自宅を町内会長の山田さんに遺贈する。」のように必ず「遺贈する」になります。山田さんは相続人ではありませんので「相続させる」とは書けません。

このように、遺言書を書いて相続人に遺産承継する場合、遺言書に「遺贈する」と書けば共同申請方式となり、「相続させる」と書けば単独申請方式となります。


( 今回の改正の意味 )

このような遺言書の文言の僅かな違いにより、登記申請方式が大きく異なることは不合理な取扱いではないかと感じられていました。そこで、今回の改正によって、一部取り扱いを緩和することになったものと思われます。(もちろん、他の理由もあると思いますが)

具体的には、遺言書に「自宅は長男に遺贈する。」と書かれた場合でも、長男は相続人であるので「自宅は長男に相続させる。」という内容の遺言書と差異はないと考えて単独申請を認めることとしました。

「自宅は町内会長の山田さんに遺贈する。」の場合は、山田さんは相続人ではありませんので、原則通り、共同申請で行う必要があります。山田さんと相続人全員(または遺言執行者)との共同申請になります。

( 相続登記手続に必要な書面 )

単独申請で相続登記を行う場合は、自分が適正な相続人であることを申請者が証明する必要があります。そこで登記申請書には、原則として、次のような書面を添付して登記申請します。

① 遺言書 (自筆証書遺言の場合は家庭裁判所による検認済みのもの。但し、法務局で保管されている場合を除きます。)
② 亡くなった方と受遺者である相続人の関係が分る戸籍
③ 受遺者である相続人の住民票
④ 亡くなった方の住民票の除票や戸籍の附票など

なお、登記申請に必要な登録免許税については、「遺贈」を原因とすれば不動産価格(固定資産税評価額)の20/1000、「相続」を原因とすれば4/1000ですが、相続人宛ての遺贈の場合は、4/1000となります。

(まとめ)

今回の改正内容は、少し分かりにくいものだと思います。これまでの経緯が分れば理解できると思います。相続登記の義務化が令和6年4月から開始されることから、相続登記に関する国民負担の軽減策が順次実施されています。今回の改正もその1つということができると思います。

 

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