親が亡くなり「空き家」となった実家を売却して「遺産分割」する場合の注意点はありますか

親が亡くなり相続財産が「空き家」となった実家だけの場合、残された相続人としては、空き家となった実家を売却してお金で遺産分割したいと考えることがあります。特に相続人が既に自宅を保有している場合、実家に強い思い入れがある場合を除いて売却が選択されることになります。


通常は相続人の中で交渉上手な人が中心となって売却手続きを進めていくことになると思います。例えば、長男に売却手続を一任するような場合です。

このとき相続人の間で相続や売却の方針について十分に合意しておかないと途中でトラブルになることがあります。ここでは、実家の売却で注意すべき点について考えてみます。

(1) 売却価格の決め方

不動産を売却する場合は、不動産仲介会社に売却を依頼することになります。このとき売却価格は相手方のあることから「市場価格」のような決め方になります。不動産の価格は、固定資産税評価額、路線価、公示価格、時価など色々あります。時価が最も高くなると思いますが、時価を具体的な金額で事前に明示することは難しいと思います。


相続人としては金額が明確となっている公的評価額である「固定資産税評価額の1.3倍程度では売りたい」、「最低でも路線価の2割増し程度では売りたい」など色々な見立てをすることになります。そのため、実際に不動産会社の仲介の結果、買い手が見つかった売却金額が想定したものに比べて低い場合は不満が出る場合がありあます。

不満だけなら良いのですが、売買に同意しなければ取引自体が不成立になります。このような事態を避けるためには、「最低売却価格」について事前に相続人間で書面で合意をしておくなど、十分なイメージ合わせが大切になります。

(2) 実家の相続名義を誰にするかの問題

実家を売却する場合、前提として実家の相続登記が必要になります。このときの方法としては2つの選択肢があります。1つは、交渉人と定められた長男などの単独名義で相続登記をする方法です。他の1つは、相続人全員の共有名義で相続登記をする方法です。

相続人全員の共有名義にすると、実家の売却手続について相続人全員が関与する必要があります。売買にあたって売買契約書への署名・捺印は全員が行う必要があります。買主への登記名義の移転についても全員が移転登記手続の書類に署名・捺印が必要になります。また、印鑑証明書等の書類も全員分必要になります。


そのため、手続き的な煩雑さを嫌って交渉人の単独所有で相続登記をすることが多くなっています。特に相続人の数が多い場合や遠隔地に住んでいる場合はその傾向が強くなります。

このとき注意しなければならない点は「譲渡所得税」「贈与税」の問題です。例えば、長男の単独所有として売却した場合、「売却益」が長男1人に発生するように形式的には見えます。売却益とは、親が実家を取得した時の価格と今回売却した価格との差額です。この売却益に対して譲渡所得税が長男1人に課せられる恐れがあります。

また、長男が売却金を各相続人に分配すると、こちらも形式的には「贈与」が発生したように見えます。そのため売却金を受けた相続人に対して贈与税が課せられないか心配が生じます。


国税当局は、遺産分割の1つの手段として長男を名義人にして売却手続きをした場合、譲渡所得税を長男1人に求めることや各相続人に対して贈与税の負担を求めるものではないとしています。

但し、遺産分割協議書の書き方によっては課税されるリスクが生じます。リスクを回避するためには、長男を名義人にして売却手続きをしたことは、遺産分割の1つの手段として「便宜的に」行ったことが分かるようにすることが必要です。遺産分割協議書に明確に書いて説明できるようにすることが大切です。相続人間でそのように思っていただけでは税務当局は納得してくれません。

具体的な対応策としては、遺産分割協議書の中に親の実家を長男の単独名義にした上で換価分割することを明確に記載しておく必要があります。「換価分割」とは、相続財産を売却し、その売却金で遺産分割することです。このような記載があれば、譲渡所得税は各相続人に対して、その取得した相続額に応じて課税されることになると思います。贈与税については課税されることはないと思います。

しかし、更なる注意点として、この遺産分割協議書を用いて相続登記をする場合、注意が必要になります。法務局の登記官によっては、長男への相続登記(名義変更)は、遺産分割協議書上に「便宜」的なものと記載されていると、「便宜」では実態に合わないから登記は認められないとされる恐れがあります。


そのため、遺産分割協議書の書き方には細心の注意が必要になります。具体的な書き方としては、例えば、次のような点をポイントとして作成します。

  1. 長男が実家を単独で相続する。
  2. 長男は実家を売却して、売却代金を各相続人の法定相続分の割合に応じて分割し、各相続人に取得させる。

細かな点は省略していますが、「便宜」とか「一旦」、「とりあえず」のような表現は禁句です。1項で長男が確定的に実家を単独相続することを明示します。2項で換価分割をする旨を明示します。1項と2項を全体として見た場合、「便宜」的な取扱いであることが理解できるようにします。

(3) 自宅には税の軽減を受けられる特例が多い

自宅を相続したり売却するする場合、相続税や譲渡所得税に関して軽減税率などの特例が色々あります。「小規模宅地の特例」「3,000万円の居住用財産の特別控除)」「3,000万円の相続空き家の特別控除」など色々あります。

それぞれに要件が細かく定められていますので、事前に税理士などに相談して最適なものを選択する必要があります。このとき、親の実家の相続名義人を誰にした方が良いかの議論に関係してくる場合があります。

(まとめ)

空き家となった親の実家の相続手続は、これからは増加していくものと思われます。実家に資産価値のある場合は、売却して分割する手続きも選択されることが多くなると思います。しかし、売却手続きは意外と面倒で大変です。また、注意すべき点もあります。


不動産業者や税理士、司法書士などの専門家とよく相談して進めて頂くことが間違いが少なくなると思います。手続きの途中でトラブルが発生すると解決に余分な時間と費用がかかることになります。


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