「在職老齢年金」を廃止して、高齢者の就労の後押しが検討されています

60歳以上の方で勤務されている場合、一定以上の収入があれば厚生年金の支給額が減額されています。これを「在職老齢年金」 (略して「在老」)といいます。 政府は、この制度が高齢者の働く意欲を削(そ)いでいるとして、制度廃止の検討に着手しました。来年(令和2年)の通常国会に厚生年金法の改正案として提出を目指しています。

そもそも、なぜ60歳以上の高齢者が、働いて一定以上の収入があると本来貰(もら)えるはずの年金の支給額が減額されるのでしょうか。これを理解するには、この制度の本来の考え方を理解する必要があります。そして、この制度の本来の考え方は、この疑問とは全く逆の発想でスタートしています。

在職老齢年金制度は、在職老齢「年金」と言われるように、給付される年金の1つのカテゴリーとして制度発足しています。本来貰えるはずの年金を減額する為の制度ではないということです。

年金制度の基本的な考え方として、「働いて収入がある時は、年金は支給しない。」というコンセプトが大前提にあります。働いて収入があれば、それで生活することができるから年金を支給する必要がないという考え方です。これは、年金制度の本質的な考え方であり、働けるうちはご自身の収入で賄い(「自助」)、働くけなくなった後は年金で面倒を見てもらうという発想 (「共助・公助」)です。

ところが、60歳以上の就労では、給与は大幅に減額される事が多かったことから給与収入だけでは生活が苦しいという現実がありました。そこで、60歳以上の方が就労して給与収入を得ている場合でも、特例として生活できるように「年金を支給しましょう。」ということになりました。但し、年金制度の趣旨から、貰っている給与収入に応じて一部減額して支給するという制度としました。これが「在職老齢年金」制度の始まりです。

 

在職老齢年金制度は、あくまでも、生活費の補填として与えるための「年金」制度でした。
しかし、時代と共に本来の趣旨がぼやけてしまっています。現在では、年金は一定の年齢が来れば、支払った分の見返りとして、「満額」が貰えて当然という発想が強くなっています。本来貰えるものが収入により減らされれば、不平不満が制度自体に向かいやすくなっています。

在職老齢年金制度の対象者数を厚生労働省の統計などで見てみると対象者は、60歳以上で就労し一定以上の賃金を得ている厚生年金受給者です。60~64歳は賃金(ボーナス含む)と年金の合計額が月28万円、65歳以上は月47万円を超えると年金支給額が減らされます。賃金が増えるほど減額幅は大きくなる仕組みです。制度の対象者は、2016年度末時点で60~64歳の方が約88万人、65歳以上の方が約36万人いるとのことです。

政府はこの制度を廃止して高齢者の就労活動を支援して、生産労働人口不足を補おうとしていると思われます。高齢者の就業意欲が高まることは、本人のみならず国としても大変歓迎すべきことであり、特に反対する理由もないことから積極的に検討を進めてもらいたいと思います。

但し、安易に制度を廃止すれば、年金制度の基本的な考え方である「自助、共助、公助」の原則から大きく逸脱することも考えられます。高額の給与収入と満額の年金支給により、高い収入を得られる方については「高所得者優遇」と言われないように、所得税などの税制面からの対応が別途必要になるかもしれません。

いづれにせよ、元気な高齢者が働く意欲があればいつまでも働き続けることのできる環境をこれからも整備してもらいたいと思っています。

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