相続人の1人が「行方不明」のため「遺産分割協議」ができないときどうしたら良いですか

父が亡くなり相続人として自分と弟がいるとき、弟の所在が不明の場合があります。父の遺産の相続手続きをするには相続人全員による遺産分割協議が必要ですが、相続人の一人が行方不明の場合どうしたら良いのでしょうか。

今回はこの問題について見ていきます。


( 「不在者」とは )

行方不明の者のことを「不在者」と言います。不在者とは従来の住所または居所を去って、容易に帰来する見込みのない者をいいます。「住所」とは生活の本拠地のことです。通常は住民票が登録されているところが多いと思います。「居所」とは継続的に居住しているが生活の本拠というほど密接ではない場所をいいます。最近流行りの「ネットカフェ」に長期滞在している場合は滞在期間によっては居所にあたるかもしれません。

不在者の典型的な例としては、長期の家出人や長期間家を出て連絡がつかないといった場合がこれにあたります。生死不明である必要はありません。先方から年に数回、手紙や電話があるので生きていることは確認できるが、相手の住所や電話番号が分からないは場合は不在者と考えてよいと思います。逆に、先方の携帯電話番号が分かっていて、所在は不明だがいつでも連絡がつく場合は不在者ではないと考えられます。


(「不在者財産管理人」の選任 )

不在者のために財産面の管理を行う者を「不在者財産管理人」といいます。家庭裁判所に申し立てて選任してもらいます。人が住所や居所を去って長らく帰来する見込みがない場合、誰かがその者の財産を管理したり、財産の朽廃を防いだり、残された関係者の利益を保護したりする必要があります。不在者財産管理人は、これらのことを不在者に代わって行うのです。

不在者は「着の身着のままで」いなくなる場合が多いと思います。そのため、通常、不在者がいなくなった後、不在者名義の財産が残されているケースは少ないと思います。つまり、不在者となっても管理すべき財産が残されていなければ不在者財産管理人を選任する必要はないのです。

ところが、今回の事例のように親が亡くなって不在者が相続人の1人であると、亡くなった親の遺産の法定相続分が不在者の管理すべき財産ということになります。そのため、不在者財産管理人の選任申立ては、遺産分割協議を原因として、残された相続人から申立てられることが多いことになります。

なお、不在者財産管理人の家庭裁判所への選任申立ては司法書士に依頼すれば手続き対応をしてもらえます。申し立てにあたって、不在者財産管理人の候補者を親戚の叔父さんとして申立てた場合、裁判所が認めれば親戚の叔父さんが選任されます。管理すべき財産が多い場合などのケースでは専門の弁護士や司法書士が選任される場合もあります。


( 不在者が死亡している可能性が高い場合 )

不在者が亡くなっている可能性が高いと判断される場合は、不在者の「失踪宣告」によって不在者が死亡したとみなすことができます。また、「認定死亡」によって不在者が死亡したと推定される場合もあります。

失踪宣告は、法律で定められた一定の期間生死が不明の者について、所定の時期に死亡したとみなす制度です。家庭裁判所に失踪宣告の申し立てを行います。認定死亡は、水難事故や航空機事故、火災その他の事変により死亡したことが確実であるものの遺体未発見の場合に、官庁又は公署の調査により死亡を推定するものです。

いずれも不在者が死亡したものとして相続手続きを行うことができます。不在者が亡くなっている可能性が高い場合は、これらの制度によることもできます。但し、失踪宣告については、不在者が死亡したとみなされることから選択する場合は慎重な検討が必要になります。

 


( 不在者財産管理人による遺産分割協議について )

不在者財産管理人が不在者の代理人として他の相続人とともに遺産分割協議に参加することになります。

ところで、不在者財産管理人が代理人として行うことのできる権限は、原則として、管理する財産の「保存行為」「物又は権利の性質を変えない範囲の利用又は改良行為」とされています。つまり、親が未成年の子どもに対して行使できる法定代理権のような包括的で広範囲の代理権ではないのです。ごく限られた、現状をあまり変更しない範囲の限定された権限しかないのです。

そのため、この範囲を超える場合は、都度、家庭裁判所の許可を得る必要があるのです。遺産分割協議は遺産共有財産の処分という性質を持っていますので、家庭裁判所の許可が必要となります。不在者財産管理人が遺産分割協議を行うには、協議成立前に家庭裁判所に遺産分割協議(案)を提供して許可を得る必要があります。

また、不在者財産管理人は不在者の財産の管理・保全が目的で選任されています。そのため、安易に不在者の相続分を少なくするような遺産分割協議には同意できない立場となります。

例えば、父親の遺産が実家の不動産で、相続人が自分と行方不明の弟だけの場合、空家となった実家を自分が相続して売却したい場合があります。この場合、自分名義に全部を相続するとする遺産分割協議では家庭裁判所の許可が難しいことになります。

このため、実務ではこのような場合「帰来弁済型の遺産分割協議」が行われています。帰来弁済型の遺産分割協議とは、不在者の帰来の見込みが低い場合に、不在者が返ってきたときは一定の金額を支払うとする内容の遺産分割協議です。

具体的には、次のような条項を遺産分割協議書に入れます。

「相続人〇〇〇〇は、上記遺産の代償として、相続人(不在者)弟が出現し、同人からの請求があった場合には、同人に対し金〇〇〇〇万円を支払う。」

とりあえず実家は自分が全部相続します。実家を売って得たお金のうち弟の取り分は自分が大切に保管しておきます。弟が帰来したらお支払いしますのでご安心下さい。というような趣旨の遺産分割協議とするのです。

不在者の弟が返ってくる可能性が極めて低い場合は、将来にわたって代償金を支払うことはないことになります。しかし、この案で裁判所の許可が取れる可能性が高いので、この方式を実務上はとることになります。当面の問題を解決するための一種の便法だと思います。


(まとめ)

相続人の中に行方不明の方がいると面倒なことになります。親の生前から行方不明となっている場合は、親が生前に遺言書を作成しておけば面倒な状況は回避することができます。遺言書があれば、相続発生時に遺産分割協議はいらないからです。

最近は都会に出て所在が不明となっている方もいます。定職に就かず色々なバイトをして生活している方でネットカフェなどを転々としている場合です。携帯で本人と連絡が取れれば行方不明ではありませんが、それでも相続手続きなどの場合は手続きに支障が出ることが多くなります。

行方不明者が相続人にいる場合は、色々なケースがありますので司法書士に相談してください。色々なケースごとに必要な対応策を検討してくれると思います。

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