「成年後見」制度が「補助」制度に大きく変わろうとしています

認知症などで判断能力が低下した人の契約管理や財産管理を支える制度として、成年後見人などに代表される「法定後見制度」があります。この法定後見制度は制度創設時より使い勝手が良くない点があったため、様々な制度改正がこれまでに行われてきました。

使い勝手の悪い点として、「成年後見」を選択すると成年後見人が広範な代理権を持ち、本人の法律行為が大幅に制限されるため、本人や家族の意向が十分に反映されない点がありました。その結果、成年後見人と本人や家族との軋轢が生じる場合がありました。また、本人の判断能力が回復しない限り制度の利用を途中で終了できないため、このような軋轢状態が終身の間続くことになっていました。

そして、本人の自己決定権を過度に制限しているのではないかとの疑問から、成年後見制度の活用に二の足を踏む場合も多くなり、法定後見制度の利用があまり進んでいませんでした。

このような状況を受けて、政府は法定後見制度の見直しを検討してきました。今回、法務省の法制審議会で「民法(成年後見等関係)等の改正に関する要綱案」が策定されました。令和8年の通常国会で審議され、令和8年度中の改正を目指すこととなりました。


( 改正の大きな考え方 )

今回の制度改正の大きな考え方として、本人の自己決定権を一律に制限するのではなく、制限を本人毎に個別に行っていく方向に転換されました。できることは本人に行ってもらうという考え方です。それで問題のある点だけを必要に応じて手当てしていくという仕組みとしています。つまり、制度による一律的な制限ではなく、本人の状況に応じたオーダーメイド的な対応ということになります。

そのため、現行の法定後見制度として用意されている「後見」「保佐」「補助」の類型を廃止して「補助」に一本化されます。現行の制度は本人の能力低下の度合いを基準にして、能力低下が最も進んだ方は「後見」(成年後見)とし、そのレベルに達していない方を低下のレベルに応じて「保佐」、「補助」として区別して制度ができていました。

そして、それぞれの類型における本人へのサポート範囲や後見人などの権限が定められていました。

今回の制度変更では、この区別を廃止して、本人への「補助」をベースにして必要な対応を追加していく仕組みとなります。そして、法定後見人のことを「補助人」と呼ぶことになります。そして、補助される本人は「被補助人」と呼ばれると思います。

 


( 「補助」の具体的な内容  )

補助人は、本人に対して、次の3つの権限を必要に応じて行使して本人を補助していく仕組みとなります。

(1) 本人が行う重要な法律行為に対して同意を与える。(「同意権」)
(2) 本人が行った重要な法律行為に対して取り消しを行う。(「取消権」)
(3) 特定の法律行為に対して代理権を行使する。(「代理権」)

そして、(1)同意権、(3)代理権は補助人が一律に行使できるものではなく、補助人を選任する家庭裁判所の審判の中で、裁判所が必要性を吟味したうえで、必要なものに限定して個別に付与されることになります。また、裁判所が権限を付与するには本人の同意を必要とします。(但し、本人が意思を表示できないため同意できない場合は除きます。)

また、(2)の取消権については、「特定補助人」が行使します。この制度のことを「特定補助制度」といいます。本人が精神上の理由により事理を弁識する能力を欠く常況にある場合で必要があると認めるときは、その者のために、補助人に対して取消権を有する「特定補助人」の権限を付与します。権限を付与するには、原則として、医師の鑑定が必要になります。そして、特定補助人は本人の行った重要な法律行為を無条件で取り消すことができます。


なお、、重要な法律行為は、次の11種類と定められています。(なお、本人の行った日常品の購入その他の日常生活に関する行為は除かれます。)

① 預貯金の預入や払戻し
② 元本を領収したり利用すること
③ 借財や保証をすること
④ 自宅の大修繕などの工事請負契約などの契約(重要な役務の提供に関する契約)を締結すること
⑤ 不動産などの重要な財産に関して取引(権利の得喪を目的とする行為)をすること
⑥ 訴訟行為をすること
⑦ 贈与、和解、仲裁合意をすること
⑧ 相続の承認、放棄、遺産分割をすること
⑨ 贈与の申し込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付き贈与の申し込みを承諾し、又は負担付き遺贈を承認すること。
⑩ 民法602条に定める期間を超える賃貸借をすること。
⑪ ①から⑩に掲げる行為を制限行為能力者の法定代理人としてすること

これにより、例えば、遺産分割や不動産の処分などの個別の法律行為ごとに、原則として本人の同意を得た上で、家庭裁判所が必要に応じて補助人に代理権などを付与することになります。

従来のような法律で定められた代理権等を包括的に与えるのではなく、必要な場面や範囲に絞って支援するということになります。従来からの考え方を大きく転換したものとなっています。


( 補助の終了事由の変更 )

従来の後見制度が一旦後見人が選任されると、本人の判断能力が回復しない限り終身の間続くことが弊害とされていました。実際、途中で後見が終了できるのは、後見人の「横領などの不正行為がある場合」などに限定されていました。

今回の改正によって、「本人の利益のために特に必要があるとき」という項目が追加されました。これにより、特別の事情がある場合で家庭裁判所が納得のいくものであれば、途中での補助の終了が図れることになります。


( 死後事務に関しても明確化された )

従来は、本人が亡くなった後の死後事務について、後見人が行ってよいものかどうか明確な定めがありませんでした。そのため、各後見人の判断で手探り状態で死後事務が行われてきました。

今回の改正によって、施設入所契約の解約や未払い金の支払い、本人死亡後の相続財産に関する事務などについても、生前に付与されていた代理権の範囲内で補助人によって対応ができるようになります。


(まとめ)

今回の改正は、本人の自己決定権を可能な限り尊重するとと同時に、後見事務は必要なものに限定して行う方向に転換されます。また、一旦、後見に付されれば終身の間継続される点も改められ、必要な範囲でのサポートが可能となるようになります。

従来の「後見」として本人に代わって対応するという考え方から、本人の出来るところは本人が行い、後見は本人の「補助」として位置づけられたということです。

逆に言えば、従来の後見人への「丸投げ」的な制度から、本人や家族等もできるだけ関与していく必要があるという制度に変更されたということです。

なお、今回の民法の改正要綱案が国会で修正される可能性もありますので、法律が成立した内容を再度確認する必要があります。

 

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