長年疎遠であった父について警察から「賃貸マンションで孤独死している」との知らせがあったとき、相続人である兄弟3人はどうしたら良いですか。
父親が賃貸住宅で孤独死していた場合、残された相続人である子供たちは対応に追われることになります。葬儀や役所関係の各種届出を行う必要があります。そして、少し落ち着いたら、「遺産相続の手続」を進めていくことになります。遺産の調査の中で債務が資産を上回ることが確認されれば早急に「相続放棄」を行う必要があります。そうでなければ遺産の相続手続きを行っていくことになります。
その中で問題になるのは、住んでいた賃貸マンションの「賃貸借契約」に関することです。住宅の賃貸借に関する話は法律的に難しい事柄を多く含んでいるため簡単ではないからです。
今回は、死亡した父親が契約していた賃貸マンションの後始末について見ていきたいと思います。

( 父親が契約していた賃貸借契約はどうなるのか )
賃貸借契約は、賃借人の死亡によって当然に終了せず、相続人は被相続人 (亡き父) の賃貸借契約上の地位を包括的に「承継 (相続)」 します。また、相続人が複数いる場合は、賃貸住宅を借りることのできる権利は、相続人の「共有 (正確には準共有)」 になります。
相続人が1人であれば、賃貸借上の権利は単独で行使できますので複雑な問題生じません。しかし、相続人が複数いると共有関係となるため問題が複雑になります。問題なる点としては、父が未払いとしていた賃料債務の支払い方法、亡くなってから発生する賃料の支払い方法、賃貸借契約を解約して終了させる方法、敷金がある場合の返還方法などです。相続人である共有者間での合意の仕方が問題となります。

( 亡くなる前の未払いの賃料債務の取り扱い )
父が亡くなる前の賃貸マンションの未払い賃料は、具体的に発生している金銭債務のため、相続の開始により法律上当然に各相続人の法定相続分で分割されて相続されます。つまり、各相続人は賃料債務について法定相続分を支払う必要があるのです。例えば、30万円の賃料の滞納があり、相続人が兄弟3人であれば、各相続人は10万円の支払い義務が生じるということです。
もちろん、兄弟3人で相談して長男が全て支払うと合意すれば長男が支払えば良いのですが、長男が支払わなければ、大家は兄弟3人の合意にかかわらず兄弟に各10万円を請求できることになります。

( 相続発生後の賃料はどうなるのか )
父が亡くなった瞬間に賃貸マンションの賃貸借契約が終了することはありません。父が亡くなってもしばらくの間は賃貸借契約は空き家のままで継続することになります。問題は、この父が亡くなった後の毎月の賃料はどのように支払うかというこです。
共同相続人による賃貸マンションの使用収益 (マンションに住む権利) がその性質上不可分であることから、その対価である賃料債務も「不可分債務」とされています。また、不可分債務は「連帯債務」の取り扱いが適用されるので、各相続人が全額を支払う義務が生じます。
不可分債務とか連帯債務とか難しい法律用語ですが、簡単に言えば、マンションの賃料は各相続人が連帯債務者となって支払う必要があるということです。そして、連帯債務であると、大家は連帯債務者の中の任意の1人に対して全額を請求することができるということです。連帯債務者の1人が全額を支払えば賃料債務は消滅します。支払った相続人と支払わなかった相続人間の清算は各相続人間で法定相続分などを基に行うということです。

( 賃貸借契約を解約したいときはどうしたら良いか )
亡くなった父親の賃貸マンションを空家のまま継続しても無駄であるため、遺品の整理がつき次第、賃貸借契約を解約(正確には解除)すると思います。
賃貸借契約の解除については、共有物の管理行為とされていますので、各共有者の持分の過半数の賛成で賃貸借契約の解除をすることができます。兄弟3人の法定相続分は各3分の1ですので、3人のうち2人が賛成すれば解除できるということになります。
1人が解除したくても他の2人が「もう少し待ちたい」といえば解除はできないことになります。
なお、解除する場合は、賛成した2人から解除の意思表示を大家に行うのではなく、反対の者も含めて、3人の名義で解除の意思表示を行った方が良いと思います。「解除の不可分性」という法律上の原則があるため、このようにした方が無難だからです。

( マンション退去時の原状回復義務や敷金返還はどうなるのか )
マンション退去時には、通常、原状回復義務や付属物の収去義務が発生します。各相続人は、これらの義務を不可分債務として負うことになります。つまり、連帯債務者として義務を負うということです。
また、賃貸住宅退去時には、差し入れられていた「敷金の返還」の問題があります。従来は、原状回復義務の名目で多くは返還されていませんでした。逆に追加でクロスの張替え代などの名目で追加で請求されることも多くありました。
しかし、民法の改正と国土交通省のガイドラインによって、経年劣化の多くの部分は大家側の負担とされたことから、敷金も返還されやすくなっています。
この場合の敷金返還請求権については、分割可能な金銭債権ですので、各相続人の法定相続分で法律上当然に分割されることになります。但し、実際は長男が代表して請求して、兄弟に分けることが多いと思います。

(まとめ)
賃貸住宅で親族が孤独死しした場合、残された相続人には行うべきことが多く発生します。賃貸借契約関係の取り扱いもその1つです。他の処理に比べて、法律的に少し難しい面があるため慎重に取り扱う必要があります。
複数の相続人がいても、相続人全員が同意できるのであれば、その中の1人を代表者と定めて必要な権限を与えることもできます。そうすれば、代表者が1人で賃貸借関係の処理を行うことができます。
実務的には、遺産分割協議書などで詳細な取り扱い方法を定めて合意をすれば良いと思います。色々と不安な方は弁護士や司法書士に相談してください。


