登記所の一部で登記申請の完了日が遅くなっているようです

最近、登記の完了までに相当の日数が必要になっていると聞くことがあります。登記の申請は、登記所に登記申請してから、早ければ1週間程度で、普通は2週間程度で完了します。ところが、申請してから1か月を過ぎても完了しない場合があるとのことです。都市部の一部の登記所で日数がかかっているようです。

原因は分かりませんが、登記申請の完了が遅れることは色々と問題が生じます。不動産を売買しても買主さんは権利証を受け取ることができません。相続登記を申請しても相続人は権利証を受け取れません。

不動産売買の場合は、次の売却を予定している場合、予定が遅れてビジネスチャンスを逃す恐れもあります。特に、不動産仲介をビジネスにしている場合は影響が出てきます。空き家となる親の実家を相続して、すぐに売却して相続人で売却益を分割したい場合などにも影響が出てきます。


( 登記完了が遅れている原因 )

登記所内部での登記の完了が従来に比べて大幅に遅れている正確な理由は分かりません。登記所等からの正式の発表もありません。従って、部外者として遅延の理由を想像するしかないことになります。

遅延の理由として、色々な理由があると想像できます。

まず、考えられるのは、「働き方改革」による登記所職員の残業時間などの抑制です。登記所では、窓口などでの相談時間などについても時間制限を厳格化して職員の負担軽減策を進めています。

しかし、このことによって急に登記の完了が大幅に遅れる理由にはならないと思います。


次に考えられる理由としては、「相続登記の義務化」の影響が考えられます。令和6年4月1日より始まった相続登記の義務化により、相続登記の申請が増加したことが考えられます。

しかし、相続登記の申請件数自体は前年比でプラスであることは間違いないのですが、大幅に増加しているとは聞いていません。今後、死亡後3年の申請期限が近づくにつれて申請件数が大幅に増加するかもしれませんが、現状は、前年比1割程度の増加と聞いています。

そこで、考えられるのは、相続登記の「本人申請」の増加です。相続登記を登記の専門家である司法書士に依頼すると費用が掛かるため、相続登記を本人申請でする方が増加したことによる影響です。

登記申請は本人が申請することが本来の姿です。しかし、現実には、登記申請は必要書類の準備や登記申請書の作成など一般の方が行うには難易度が高くなっています。そのため、通常は、登記の専門家である司法書士に依頼します。

しかし、最近の物価高などの影響で、司法書士に依頼する場合の費用の発生を抑えるため本人申請を考える方が増えていると思います。登記所でも一般の方が本人申請で相続登記を行いやすくするために相続登記の申請マニュアルなどの手順書の充実や相談窓口の設置など支援策の拡充を図っています。ネット上でも相続登記に関する情報を手軽に検索できるようになっています。


このような経緯から相続登記の本人申請は増加していると思います。これが、登記所の登記の完了を遅らせている大きな要因となっていることが想定できます。相続登記の登記申請は、本当に簡単な基本的なケースを除いて、一般の方が簡単に登記申請を行うことができるほど平易なものではないからです。また、相続登記は他の登記申請に比べても特殊な論点が発生しやすく難しい案件が多いのです。

そのため、本人が申請をした登記申請が簡単に完了することは稀なのです。登記申請に不備がある場合は、これを修正して申請する必要があります。これを「補正」と言いますが、本人申請の場合は、この「補正」が頻発します。

補正が発生する場合の登記所内部の事務処理は非常に手間と時間がかかってしまうことになります。途中まで審査していた申請を一旦打ち切って、本人に電話などで補正の連絡をする必要があります。電話などで簡単に本人とコンタクトできれば良いのですが、コンタクトに時間がかかる場合があります。

 


また、補正の連絡をしても補正の内容を簡単に理解してもらえない場合も発生します。司法書士宛ての補正連絡であれば、簡単な説明で多くの場合済みますが、一般の方への説明は時間を要すると思います。また、補正内容を十分理解できていない場合、再度の補正が発生することになります。

本人申請が多くなると、補正で中断した申請を除いて、次の方の申請の審査を進めていくことになります。しかし、次の方の申請でもまた補正が発生して作業が中断します。このような中断状況が続くと、補正のための進捗状況の管理を別に行っていく必要が生じます。このあたりが重なってくると事務処理的に非常な負荷がかかり円滑な審査作業を行うことができなくなります。

登記所の職員は、登記の専門職ですので、他の部門から職員を増員して対応できる事務処理ではありません。登記の処理に精通した職員が対応する必要があるため、相続登記の申請に登記所内部の別の職員を増員すれば、別の登記部門の職員の数が減ることになります。

これが、登記完了日が極端に遅くなっている現実的な理由ではないかと思います。

 


( 有効な対策はないのか )

相続登記の義務化の本格的な影響はこれからだと思います。亡くなってから3年以内の相続登記の申請義務は過去の相続についても課せられています。大昔に亡くなって相続登記を放置してある場合も義務化の対象になります。そして、それらの多くが、まだ申請されていないのです。

昔亡くなった場合の相続登記の申請期限は令和6年4月1日から3年です。つまり、令和9年3月31日が申請期限となります。令和8年には相続登記の駆け込み申請が発生する可能性があります。

つまり、今後ますます相続登記の申請件数の増加が見込まれるということです。政府として何か有効な対策を考えないと登記申請の完了がさらに遅くなってしまうことになります。そうなれば、ビジネスの世界にも大きな影響が出てきます。

登記所の人員増強や審査作業の効率化などでは簡単には解決できる問題ではないと思います。登記所の専門家を育てるには一定の教育期間が必要になります。登記申請の審査手続を効率化しようとしても、不動産などの権利に関する重大な事柄のため、審査を簡略化することは難しいと思います。

現実的で即効性のある対策としては、司法書士による登記申請を促進することです。自分が司法書士であるので手前味噌で言いにくいのですが、相続登記の本人申請がこれ以上増加すると登記所はパンク状態になる恐れがあります。司法書士が相続登記の登記申請を行えば、ほとんど補正は発生しませんので、円滑な事務処理が期待できます。

そして、司法書士による相続登記申請の促進のためには、何らかの「インセンティブ」を付けることが考えられます。具体的には、司法書士による登記申請には登録免許税の軽減措置をとる、相続登記申請に対して何らかの補助金を出す、等のアイデアがあります。

インセンティブを提供することで、専門家を通じた登記申請を増加させ、申請ミスや補正による遅延を減少させるのです。実際、税制優遇措置や手数料減免措置は、他の行政手続きでは広くみられる手法です。相続登記申請でも一定の効果が期待できるのであれば導入も検討課題になると思います。「住宅ローン控除」や「相続税の控除」等の政策に似た形で、登記手続きに関連したインセンティブを設けることは検討材料になると思われます。


(まとめ)

登記申請をしても登記がなかなか完了しないと不安になります。その登記を前提にした次の手続の遅延につながることになり社会的な損失となります。登記申請はオンライン化をはじめ色々な施策を行って、より円滑に手続きが進む環境を整備してきました。

ところが、相続登記の義務化により、その環境が大きく後退しようとしています。できるだけ即効性のある施策を早急に政府として検討してもらいたいと思います。

相続登記の促進策として、相続した土地について一定の条件を満たせば相続登記の登録免許税を非課税とする相続登記の促進策も現在実施されています。これと同じような趣旨で登記完了の促進策も実施してもらいたいと思います。

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