妻や子供がいない方が親族に遺言をする場合、注意する点はありますか
子のない夫婦で妻が死別した場合、残された夫の相続人は、両親が既に他界している場合は兄弟姉妹となります。兄弟姉妹が亡くなっていれば、その子である甥・姪が相続人となります。このようなとき、自分が亡くなった後の相続について、相続人間で面倒なことにならないように遺言書を作成しておこうと考える場合があります。同様なことは生涯独身の方も場合にも当てはまります。
兄弟姉妹や甥姪の間で親族の交流が盛んであれば、遺言書がなくても親族の話し合いで円満に相続手続きが行われる場合も多いと思います。しかし、普段から親戚付き合いが希薄な場合は、話し合いが円滑に行われない恐れがあります。このような場合に備えて、生前に遺言書を作成して円満な相続手続きの実現を図ることも必要になります。
このようなケースの遺言書で特に注意する点は、遺言書に「遺言執行者」の指定をすることです。相続人が配偶者や子以外の親族となる場合の遺言書の作成では遺言執行者が重要になります。今回は、遺言執行者について見ていきたいと思います。

(「遺言執行者」とは )
「遺言執行者」とは、遺言者が亡くなったとき、遺言の内容を実現するための手続きを行う人です。遺言執行者の任務は、遺言の内容を実現することであり、そのために相続財産の管理その他の遺言の執行に必要な一切の権利義務を有します。遺言者は、遺言書で遺言執行者を指定することができます。
遺言執行者が定められていない場合は、遺言の執行は、相続人全員が協力して行う必要があります。
遺言執行者が定められている場合は、遺言の執行は遺言執行者だけが行うことができます。遺言執行者がその権限内の行為を遺言執行者として行った場合は、相続人に対して遺言の執行としての効力を生じます。つまり、遺言の執行は、遺言執行者がいる場合は遺言執行者が行い、いない場合は相続人全員が行うことになります。
なお、遺言書に遺言執行者が定められていない場合でも、相続発生後、相続人などの利害関係人から家庭裁判所に対して遺言執行者の選任を求めることができます。しかし、選任には費用も時間もかかることから、事前に遺言書で指定しておくことが得策です。
また、遺言執行者が指定されている場合、相続人は遺言執行者による遺言の執行を妨げる行為をすることはできません。

( 遺言書で遺言執行者を指定する必要性 )
今回の事例の様な配偶者や子以外の親戚どおしの遺産相続のケースでは手続きが円滑に進まない場合があります。普段から親戚付き合いがあれば別ですが、交流があまりない場合は意思疎通が難しいことがあります。何かの拍子でもめ事が生じると円滑に事が進まない可能性もあります。
遺言書で遺言執行者を指定しておけば、遺言執行者の強力な権限によって、他の相続人の関与なく遺言書の内容を実現できることになります。これが遺言執行者を指定する理由です。遺言執行者は遺言内容の実現を図ることが任務ですので、その権限によって遺言執行を強力に行うことになります。

( 遺言書での遺言執行者の指定方法 )
遺言執行者は遺言の執行に必要な一切の権限を法律上有していますので、遺言書の文案としては、遺言執行者を次のように指定すればよいわけです。
第〇条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、山田太郎 ( 昭和〇年〇月〇日生、住所 〇〇県〇〇市〇〇町1丁目23番地 ) を指定する。
しかし、実務上は、以下のように遺言執行者の権限を具体的に記載します。
第〇条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、山田太郎 ( 昭和〇年〇月〇日生、住所 〇〇県〇〇市〇〇町1丁目23番地 ) を指定する。
2 遺言執行者は、この遺言に基づく不動産に関する登記手続き並びに預貯金等の金融資産の名義変更、解約、払戻し及び貸金庫の開扉・解約・内容物の引き取りその他遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有する。
これは、遺言の執行にあたって銀行などの金融機関と円滑に対応ができるようにするためです。例えば、貸金庫の開扉について、他の相続人から遺言執行者による開扉について異議が出された場合、銀行としては貸金庫の開扉が「遺言の執行に必要な行為」かどうか判断をする必要に迫られます。このような場合、金融機関としては、相続人間の争いに巻き込まれたくないため、全ての相続人の同意を求めて対応することになります。

また、不動産の相続手続き(相続登記)については、遺言書に「自宅不動産は長男に相続させる」と書いてあれば、遺言執行者が相続登記をすることができると法律に明記されています。また、預貯金についても同様に遺言執行者が払戻しの請求や解約の申入れを行うことができると明記されています。
しかし、預貯金以外の金融資産 (投資信託、金銭信託等) については、特に明記されていないため、可能かどうか疑義が生じることになります。疑義の判断を金融機関側としては行いたくないので、全ての相続人の合意を要求することが多くなります。
このような理由から、遺言執行者は幅広い遺言の執行権限を法律上有していますが、金融機関側が安心して解約などに応じてもらいやすくするために、実務では必要な権限を網羅的に記載します。今回の例文は少なめの権限を記載していますが、もっと色々な権限を詳細に記載する場合もあります。例えば、葬儀費用を遺産から支払う必要のある場合は、遺言執行者の権限として明記しておきます。
さらに、遺言執行者の「復任権」についても次のように明記します。 復任権とは、遺言執行者の職務を誰かに任せることのできる権限です。
第〇条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、山田太郎 ( 昭和〇年〇月〇日生、住所 〇〇県〇〇市〇〇町1丁目23番地 ) を指定する。
2 遺言執行者は、この遺言に基づく不動産に関する登記手続き並びに預貯金等の金融資産の名義変更、解約、払戻し及び貸金庫の開扉・解約・内容物の引き取りその他遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有する。
3 遺言執行者は、第三者 (司法書士などの法律の専門家) にその任務を行わせることができる。
遺言執行者の復任権も法律に明記されていますが、平成30年の民法の改正で新設されたものです。世の中ではまだ定着していない恐れがあります。また、遺言者が代理人を選任することを禁止していないことを明示的に示すためにも明記します。復任権の有無でもめることのないようにするものです。

( まとめ )
妻や子がいない方が兄弟姉妹などの親族に遺言する場合の注意点は、遺言執行者を遺言書の中に明記することです。遺言者が亡くなって、遺言の執行をする段階で遺言執行者が定められていないと相続人全員が協力して行う必要があります。
しかし、遠い親戚の場合、普段から交流が疎遠だと円滑に手続きが進まない恐れがあります。そのため、遺言の執行が円滑に進むように遺言執行者を定めておく必要があるのです。
なお、高齢の方を遺言執行者に指名した場合など遺言執行者が遺言者よりも先に亡くなる場合に備えて、予備の遺言執行者も指定しておくとさらに安心となります。


