「遺産分割」協議中に遺産である「株式の議決権」はどのように行使すればよいのですか

上場株式が相続財産の中に含まれていた場合、遺産分割協議中に株主総会の招集通知が亡くなった株主名義人宛に届いても相続人としては特に気にしないことが普通だと思います。議決権を行使してもしなくても大勢に影響がないからです。ところが、中小企業のオーナー社長が亡くなった場合は、相続問題も絡んで無視できない重大な問題になる場合があります。

今回は、遺産分割協議が未了中における株式の議決権の行使について考えてみます。


( 問題となりそうなケース )

例えば、オーナー社長が亡くなり、相続人として長男と次男がいる場合で考えてみます。中小企業の全株式数は100株とします。亡くなった社長 (代表取締役) が80株を保有しています。取締役副社長である長男が20株を保有しています。次男は会社経営にタッチせず株式も保有していません。

亡き社長  80株
長男    20株
次男     0株
合 計  100株

 このような会社で父親である社長が亡くなり遺産分割協議中に株主総会の時期を迎えた場合、会社の株式の議決権はどのように行使するのでしょうか。長男が次期社長になることが決まっている場合など円満な会社運営が予定されている場合はあまり問題になことはないと思います。しかし、会社の経営方針に従来より不満を持っている次男が自分の考えを主張するような場合は簡単には処理できない場合があります。


( 会社法の定め )

遺産分割協議が未了の状態にあるとき相続財産は相続人全員の「遺産共有」状態にあります。つまり、株式も各相続人の共有状態にあるということです。なお、「共有」は所有権に対して使用する用語です。株式に対しては「準共有」という用語を使用します。

会社法の定めによれば、遺産分割が未了で共同相続人に準共有されている株式の議決権を行使するには、相続人間で権利行使すべき者一人を準共有者の中から指定して、会社に通知する必要があります。

会社としては、相続途中の状態では誰を株主として扱ったらよいか分かりませんので、相続人に権利行使者を指定してもらうことによって問題を解決しています。これは、会社の事務処理負担の軽減を図っているものです。会社法の定めは会社の便宜を優先した定めとなっています。

今回の事例で言えば、長男と次男が話し合った結果、長男を権利行使者に指名して会社に通知すれば、長男が自分の持ち分である20株と亡き社長の持ち分である80株の合計である100株分の権利行使ができるということになります。


( 通知がないが会社が同意した場合 )

権利行使者の会社への通知がない場合でも、株式の準共有者の1人は、会社の同意があれば権利行使ができます。今回の事例で言えば、長男の権利行使に対して会社が同意すれば権利行使できるということです。

長男は副社長として会社を経営している場合、自分自身の権利行使に対して、会社として「同意」を与える場合があります。もちろん、同意を得るための会社組織管理上の決裁権限の定めによる必要があります。副社長の権限でできるのか、取締役会決裁が必要なのか、など会社内部で必要な決裁手続きを取る必要があります。

正当な決裁を受けて会社の同意がとられれば、長男が権利行使することが可能となります。但し、この取り扱いは会社の便宜のための取り扱いです。この取り扱いによって他の相続人の権利行使を不当に制限することは認められません。

そのため、この取り扱によって次男に損害が発生した場合は、会社は損害賠償責任を負うことになります。また、次男から株主総会の決議取消しの訴えを起こされるリスクを負うことになります。


( 権利行使者の指定方法 )

土地などを共有している場合、土地をどのように活用するか等のことを「共有物の管理行為」と言います。そして、共有物の管理行為は、各共有者の持分価格の過半数で決定します。

これと同じように、株式の準共有者による権利行使者の指定は、通常、共有物の管理行為に当たるとして、持分価格の過半数で行うことができます。相続による株式の準共有の場合も相続分に応じた持分の過半数で決定できるとしています。

( 権利の行使内容 )

権利行使者に指定された者は、権利行使に当たって他の準共有者の意向を気にする必要はないとされています。他の準共有者の意思に左右されず、自己の判断に基づき権利行使できるとされています。


( 今回の事例の場合はどうなるか )

今回の事例で次男が長男の会社運営方針などに異議を唱えた場合どうなるのでしょうか。株式の権利行使者の指定は共同相続人である長男と次男の話し合いで決定します。話し合いが決裂した場合は、相続持分の過半数で決定されることになります。

ところが、今回の事例では亡くなった社長の保有株式80株は、長男と次男でそれぞれ40株ずつ相続することになり、過半数に届いていません。つまり、権利行使者の指定・通知ができないことになります。

このような状況になると会社としては大きな問題となります。亡くなった社長の保有株式が80株と大きいため、株主総会自体が開催できないことになります。相続された株式も株主総会開催のために必要な定足数にカウントされます。株主総会開催に必要な定足数を満たさないため総会が開催できなくなります。総会が開催できなければ会社としての重要な意思決定ができなくなります。

このような事態になった場合は、長男は次男に会社経営上の方針などについて一定の譲歩や金銭的な補償などを交渉材料にして次男の同意を得るしかなくなります。


( まとめ )

会社の株主構成や相続人の状況から考えてオーナー社長が亡くなったときに問題が発生することが予兆される場合は、遺言書を作成して事業を承継する者などに会社の株式を相続させる旨を定めておく必要があります。

もちろん、次男などの相続分にも十分な配慮をして無用な争いにならないように気を遣うことが大切です。長男に会社の全財産を相続させて次男から多額の遺留分を金銭請求されれば会社経営ができなくなる恐れもあり得ます。

遺言書の内容は、次男と事前に話し合うなどの心遣いが必要かもしれません。

 

 

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