長男が亡くなった父親の「遺言書」を隠していた場合どうなるのですか

父親が亡くなったので、相続人である長男、長女、次男が話し合って遺産の分割方法を協議したとします。協議結果を「遺産分割協議書」に書いて相続手続きを行うのです。このとき、長男が亡くなった父親の遺言書を隠していたことが発覚した場合、相続人全員で合意した遺産分割協議書の効力はどのようになるのでしょうか。

長男が父親と同居していて、父親が遺言書を書いたことやその保管場所について知っていたようなケースが話の前提になると思います。遺言書の内容が長男のイメージと相違することが分かったとき、父親の書いた遺言書を隠してしまうことがあります。

今回はこのような場合、どのように対応することになるか考えてみたいと思います。


( 「遺言書」の隠匿について  )

被相続人(亡くなった父親)の遺言書を隠匿した者は「相続欠格者」となります。なお、「隠匿」とは隠すことです。遺言書を他の相続人の目に触れないところに隠してしまうことです。

遺言書の隠匿行為があれば、何らの行為をすることなく、自動的に相続欠格者になります。裁判手続きや役所への届け出は必要なく、自動的に欠格者となります。

なお、「相続欠格」とは、相続人に相続秩序を乱すような行為があった場合に、その者の相続権を失わせることです。遺言書の隠匿以外にも遺言書を「偽造」「変造」したり「破棄」しても相続欠格となります。

相続欠格者として相続権が失われると、その者は初めから相続人でなかったことになります。つまり、相続人としての地位を失うのです。相続放棄した状態と同じになります。財産も負債も一切について相続されないことになります。

 ( 「遺産分割協議」の効力はどうなるか )

相続人の一人が相続欠格者となれば、その者を入れて行った遺産分割協議書は無効になる考えられます。相続人でないものが参加した遺産分割協議は認められないからです。

そのため、相続手続きを行う場合は、改めて正式の相続人の合意によって遺産分割協議を行う必要があります。今回の事例では、長女と次男の合意で遺産分割協議をやり直すことが必要になります。

ところで、相続欠格者となった長男に子供がいる場合、この子供も遺産分割協議に参加することが必要となります。長男の子と長女と次男で遺産分割協議を行うことが必要ということです。

長男の子を参加させなければいけない理由は、長男の子は「代襲相続人」となるからです。相続欠格者の子は代襲相続人となって相続欠格者に代わって相続人の1人となります。長男の子が2人であれば2人とも相続人となります。

再度の遺産分割協議を代襲相続人を入れずに行えば、また無効となりますので注意が必要です。(なお, 代襲相続人が未成年者の場合は、法定代理人又は特別代理人が協議を行うことになります。)


( 遺言書があるのに遺産分割協議できるのか )

そもそもの議論として、父親の遺言書があるのに遺産分割協議してよいのかという問題があります。父親が書いた遺言書が発見された場合は、その遺言書に従って遺産分割するべきではないかということです。

本来的には、遺言書に従って遺産分割を行うことが本筋だと思います。しかし、一定の条件が整えば、遺言書を無視して相続人による遺産分割協議を行えることになります。

条件としては、①相続人全員の同意、②遺言執行者の同意、③相続人以外の受遺者の同意、があれば遺言書があっても遺産分割協議できると考えられています。今回のケースでは、この条件が整っていることを前提に話をしています。

また、長男が相続欠格者になれば、遺言書に書いてある長男が相続する財産については無効になります。長男の相続予定であった財産については、残った相続人で遺産分割協議をして分割方法を決める必要があるのです。


( 長男の遺言書の隠匿行為に悪意がない場合はどうなるか )

長男の隠匿行為について悪気がなかった場合もあります。昔、父親から遺言書の保管を任されていたにもかかわらず、年月が経過するうちに遺言書のことをすっかり忘れてしまって、他の相続人と遺産分割協議をしたような場合です。

また、遺言書の存在は知っていたが、他の相続人と遺産分割協議を行って、相続人全員が満足のいく結果であればよいと考えて、遺言書を提供せずに遺産分割協議を行う場合です。つまり、隠匿者に「不当の利益」を得ようとする意図がない場合です。

これらの場合、全てを一律に相続欠格者とすることには問題があります。この点、最高裁判所は「遺言書の隠匿行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、これを遺言に関する著しく不当な干渉行為ということはできず、このような行為をした者に相続人となる資格を失わせるという厳しい制裁を課すことは法の趣旨に沿わない」としています。

遺言書の隠匿行為によって不当な利益を得る目的がない場合は、相続欠格に該当しないことがありうるということです。但し、隠匿者の本心は簡単には分からないかもしれません。


( 白黒はどのように付けるのか )

相続人の1人が行った遺言書の隠匿行為は、行為が行われれば自動的に相続欠格になります。しかし、相続人の意図としては「悪意」はなく、「不当な利益」を目的としていない場合もあります。

そうすると、遺言書の隠匿行為を行った者が相続欠格者かどうかをどのように決めるのかという問題になります。

他の相続人全員が「悪意」はなく「不当な利益」もないと判断すれば、相続欠格者として扱わず相続手続きを行えばよいことになります。

しかし、一部の相続人から不満が出れば、「白黒」をつける必要が出てきます。この場合は裁判手続きによって決着を図ることになります。具体的には、「相続権不存在確認の訴え」あるいは「相続人の地位不存在確認の訴え」などを提起して争うことになります。


( まとめ )

相続欠格の問題は、相続関して意外と重要な事柄です。今回の例では、遺言書の隠匿について考えましたが、遺言書の偽造や変造、破棄についても考えられます。

遺言書の中身を書き換えたり、遺言書を破り捨てたりしても、今回と同じように相続欠格者となります。相続欠格者と認定されれば、相続権を一切失うことになります。

亡くなった親の遺言書を少しでも隠そうとするそぶりを見せれば相続欠格者と主張されてしまう恐れもあるのです。

遺言書については十分注意して取り扱ってもらいたいと思います。

 

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