「親の介護」で苦労した「長男の妻」に相続財産を渡せますか

親の介護で長男の妻が苦労することがあります。長男の妻が同居している長男の親に対して身の回りの世話や病院への付き添いなど療養介護を行い長男の親の面倒を見続けたこと等が代表的な例です。もちろん、世話をするのは長男の妻に限らず、次男の妻の場合もあるでしょうし、長女の夫の場合もあるでしょう。ここでは比較的事例の多い長男の妻を代表例として話を進めます。


介護される親としても感謝の気持ちがあると思います。中には、長女や次男などの実の子供達が自分の療養介護に全く関心を示さず実家に立ち寄ることすらないことに憤慨していることもあります。自分の面倒を長男の妻に見てもらうことについて感謝の気持ちや申し訳ない気持ちが生じることが多いと思います。このようなことから、自分が亡くなった後の相続については、長男の妻に報いてあげたいと考えることが多くなります。

しかし、長男の妻は介護している長男の親の相続人ではないため、何もしなければ相続財産は長男、長女、次男などの法定相続人に相続され、介護で苦労した長男の妻は何も相続できなくなります。親の介護に全く興味も関心も示さなかった子供達に相続財産が渡っていきます。

介護される親としても何とかして長男の妻に報いたいと考えるようになります。今回はこの問題について考えて見ます。


( 長男の妻への財産分与の方法 )

民法の定めには「寄与分」という制度があります。親の療養介護などで貢献した者に相続財産の一部を寄与分として親の療養介護をした者に与える制度です。しかし、この制度は相続人の中で特別に貢献した者に与える制度です。相続人でない者には適用されません。当然、長男の妻には適用されません。

このため、1つの便法として長男の妻の貢献を長男の貢献とみなして処理をするような方法がこれまでの裁判例の中には見られました。しかし、苦しい理屈立てとなっていました。

そこで、2019年に民法が改正されて同年の7月1日から「特別寄与料」制度が開始されました。この制度は被相続人 (長男の親など) の介護などを無償ですることによって被相続人の財産の維持・増加に貢献した相続人以外の親族は、相続人に対して寄与度に応じて金銭を請求できる制度です。

ポイントは、「相続人以外の親族」という点です。親族とは6親等内の血族、配偶者、3親等以内の姻族です。長男の妻は相続人以外の親族ですので対象者ということになります。

つまり、長男の妻が親の介護で特別の貢献をして親の財産の維持・増加に貢献した場合は、親の財産を相続した相続人に対して金銭請求ができるという制度です。但し、親族の1人として通常要求される普通のお世話レベルの貢献では請求は認められません。

長男の妻がいなければ相当な対価を支払って親の介護を外部に委託する必要がある場合のようなケースが必要になります。長男の妻がこのような場合に無償で親の介護をすれば、親の財産はその分減少することなく維持されます。


介護に必要な費用の具体的な金額としては、次のような算式がよく用いられます。

第三者が同様の療養介護を行った場合の日当額×療養介護日数×裁量割合(0.5~0.7)

「日当」は、介護保険制度を参考にして要介護度合いに応じて5,000円~8,000円とされることが多いと思います。「裁量割合」は、本来なら1.0のはずですが、全ての介護費用を請求できるとするのは、親族の一員として行うべきことがないことになるため、一定程度減額をして調整するものです。

このようにして計算すると、例えば、日当を5,000円、介護した期間を5年間、裁量割合を0.5、というように厳しめに想定した場合でも次の計算式のとおり450万円程度の金額となります。要介護度合いが進んでいて介護期間が長い場合は、相当な金額になることになります。

(計算式)

5,000円×365年×5年×0.5 = 4,562,500円

 


( 現実問題として特別寄与料を請求できるか )

法の定めでは、これまで述べてきたとおり、特別寄与料については条件を満たせば相続人に対して請求することができます。しかし、請求金額がある程度大きい金額になるため、実際に相続手続をする相続人に対して金銭請求することは難しいのが現実だと思います。

実際に金銭請求した場合、何を言われるか不安になり、なかなか言い出せないことが普通だと思います。夫である長男の協力を得て請求する場合もあると思いますが、親族関係に亀裂か生じるかもしれません。

もし、他の相続人が請求に応じない場合は、裁判を起こして特別寄与料を請求することになります。そうなれば親族関係が断絶してしまう恐れがあります。もちろん、話し合いに応じてもらって円満に支払ってもらえる場合もあります。しかし、どのような反応が返って来るかは予測が難しいと思います。

このようなことから、ある程度の覚悟があれば制度の活用はできると思いますが、親族関係に波風を立てたくない場合は活用が難しいと思います。

それでは、どうしたら良いでしょうか。


( 妻の貢献はどのように報いてもらうか )

療養介護してもらっている長男の親の意識がはっきりしているのであれば、親による「遺言書」の作成が良いことになります。介護されている親が認知症などを発症している場合は遺言書の作成は難しくなりますが、遺言書の作成ができる状態であれば長男の妻に対する感謝の意味で相続財産を妻に「遺贈」する遺言書を作成してもらいます。

できれば「公正証書」で遺言書を作成してもらいます。自筆証書での遺言書の場合、書き方を誤ると遺言書が無効になったり、変な書き方をすると意味が不明となり遺言の執行ができないケースがあるからです。

親が公正証書で長男の妻に財産を遺贈すると書けば、他の相続人が反対することは難しくなります。そして、遺言書の中に長男の妻に財産を与える理由を丁寧に書いておけば、他の相続人も反対しにくくなります。

例えば、遺言書の末尾に「付言事項」として次のような文言を入れておきます。

「長男の妻は私に対して長年献身的に療養介護をしてくれました。私はこのことに大変感謝しています。今回の遺言書の中で長男の妻に対して長年の苦労に報い、感謝の意味を込めて金融資産の一部を譲ることにしました。このことで揉めることのないようにしてください。兄弟仲良く幸せに暮らしていくことを願っています。」


( まとめ )

長男の妻が親の介護で苦労することがあります。昔はこれが当たり前でしたが、核家族化が進んだ今日では長男の妻だけが苦労する時代ではなくなっています。介護保険や介護施設等を活用して介護を一部外部委託できる時代となっています

しかし、現実には色々な事情から相続人以外の方が配偶者の親の介護などで苦労することはなくなっていません。このようなときの対応策として、親が亡くなったときに相続財産の一部でこれまでの苦労の一部を補填してもらうことは重要なことだと思います。

今回の話も参考にして円満な親族関係が続くような方策を考えてもらいたいと思います。

 

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