相続財産が自宅しかない場合どのようにしたら良いですか
遺産が現金や預貯金などの分けやすい財産の場合は、相続分に応じて金額を計算できるため分割方法で悩むことは少ないと思います。ところが、遺産が不動産しかない場合や主たる財産が不動産で現金化できる財産がほんの少しの場合があります。このような場合でも相続人のうちの1人が不動産を相続して他の相続人から不満が出なければ特に問題は生じません。しかし、最近の権利意識の高まりの中で、自分の相続分を主張する相続人も多くなっています。
そうすると、このような場合どのように遺産を分割したら良いか悩むことになります。今回はこの問題について見て行きます。

( 主な遺産が不動産の場合の遺産の分け方について )
不動産でも建物の建っていない土地であれば、分筆をして複数の土地に分割することができます。しかし、自宅の建物については物理的に分割することが難しいと思います。その結果、自宅建物とその敷地については物理的に分割することは困難になります。
そこで考えられる分割方法は、まず、相続人による「共有名義」での相続が考えられます。
(1) 共有名義での分割
例えば、相続人が母と長男、長女であれば、自宅の土地建物の名義を、法定相続分で分割することにした場合は、「共有持分 母2/4、長男1/4、長女1/4」で相続登記をします。こうすれば、一応の公平性を保った遺産分割ができることになります。
不動産が共有名義になると共有者同士の意見が合わない場合、管理や処分を巡って争いになることがあります。自宅に大規模修繕をする場合、建て替えを検討する場合、誰かに賃貸する場合など共有名義人で合意できないと何もできなくなる恐れがあります。
さらに、共有名義人が亡くなると新たな相続が発生し、亡くなった方の相続人が共有名義人となるため、時間の経過とともに共有名義人が増えて管理できなくなる可能性があります。
このようなことから、不動産の共有名義は極力避けるべきであるとされています。今回の事例についても、極力、共有名義は避けるべきであると思います。

但し、不動産の相続方法については、ゆっくりと時間をかけて検討したい場合もあります。そんな時は、法定相続分の共有名義で「とりあえず」の相続登記をして、ゆっくりと時間をかけて相続方法を検討することも選択肢の1つとなります。後日、誰が相続するか決まった時点で「遺産分割協議」をして登記名義を変更することができます。
先ほどの例で言えば、自宅の登記名義を一旦「共有持分 母2/4、長男1/4、長女1/4」の法定相続分で登記しておいて、後日、長女が相続することに決まれば、登記名義を「所有者 長女」に変更するのです。登記手続き的には、最近の登記運用の変更によって、「更正登記」によることができ登録免許税も安くなっています。
また、自宅を近い将来売却する予定の場合は、一旦、相続人の共有名義にして売却する方法も考えられます。賃貸住宅などの収益物件が相続財産の場合は、相続人全員の共有名義にして代表者が管理をする方法も考えられます。( 最近は家族信託も活用されています。)
このような場合は共有名義にするメリットがありますので共有名義も選択肢の1つになります。

つぎに、相続人の1人の名義にして他の相続人に金銭を支払う方法があります。これを「代償分割」といいます。次にこれについて見て行きます。
(2) 代償分割による分割方法
代償分割とは、一部の相続人に対して法定相続分を超える額の財産を取得させた上、他の相続人に対して債務を負担させる方法です。簡単に言えば、例えば、長男が自宅を相続する代わりに母親と長女に相続分に見合う金銭を支払うというものです。
この場合、不動産の価格を算定する必要があります。不動産の固定資産税評価額、路線価、公示地価など公的な価格を参考にして相続人間で話し合って決めます。相続人間で合意できればその価格によることになります。
具体的には、遺産分割協議書に次のような条項を記載して行います。
「別紙目録記載の不動産を長男が取得するのと引き換えに、長男は母親と長女に対して、代償金〇〇円 を支払う。」
支払条件を詳しく書くこともできます。
「‥‥代償金〇〇円を令和○年〇月末限りに支払う」 また、遅れたときに備えて「遅延損害金として年〇%」などの条項を入れることもできます。
支払金額が大きくなるため一括では支払えない場合は、分割払いとすることも考えられます。代償金の支払に不安がある場合は、相続した自宅に代償金を被担保債権として抵当権を設定することもできます。担保権まで設定することは稀だと思いますが、信頼がおけない場合は選択肢の1つになります。

最後に、「換価分割」があります。これについても見て行きます。
(3) 「換価分割」による方法
相続した自宅に誰も住まない場合は、自宅を売却して売却金を相続人で分割する方法があります。売却する場合は、一旦、相続人名義に相続登記をする必要がありますので、代表者名義で相続登記をするか相続人全員名義で相続登記をすることになります。
自宅が売却された場合は、不動産仲介手数料や登記手数料、譲渡所得税などの納税資金を控除した金額を相続人で分けることになります。
但し、相続人の誰かが引き続き居住する場合は選択することができません。引っ越しを前提に自宅を売却することが可能であれば選択肢になります。

(まとめ)
相続財産が不動産以外に色々あれば円滑に遺産分割協議が進むことが多いと思います。しかし、不動産しか財産がなければ争いになる可能性があります。昔は、家督相続制度で長男が全て相続していましたので揉めることは少なかったのですが、今の時代は長男の単独相続という考え方は通用しません。
不動産だけが遺産の場合は、その家族にあった最適な方法を選択していくことになります。今回の話も参考にして最適な選択をして頂きたいと思います。