賃貸アパート退去時「原状回復」や「敷金返還」について納得がいかない場合どうしたら良いですか

賃貸アパート・マンションを退去するとき、家主から賃貸住居の損耗・毀損を理由として原状回復に必要な費用を請求されることがあります。当初支払っていた敷金だけでは不足する場合、追加で原状回復費用を請求されることになります。

原状回復費用の請求明細を詳しく見ると、入居者の入れ替わりによる物件の維持管理上の費用まで賃借人の負担とされていることがあります。畳の裏返し・表替え、フローリングのワックスがけ、網戸の張替え、専門業者による全体ハウスクリーニング、など色々あります。


このようなとき請求された原状回復費用について納得がいかないことがあります。このようなときはどうしたら良いのでしょうか。

( 民法の改正 )

 従来、賃借人は民法の定めにより、賃貸借が終了したときは、その使用に伴う損傷を原状に復する義務 (「原状回復義務」) を負っていました。家主は賃貸借が終了した時点で次の入居者のために賃貸住宅のメンテナンス工事を行いますが、その費用を民法の定めるこの原状回復義務を根拠に退去する賃貸人に請求していました。

しかし、この原状回復義務の内容が必ずしも明確ではないため、家主側の判断で過大に費用請求することが多く見られました。そこで民法の「敷金」「原状回復義務」について民法の改正が実施され令和2年より新しい規律によって判断されることになりました。


( 賃借人保護の観点からの民法の改正内容 )

新しい民法によれば、「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化」に対しては原状回復をする必要がないこととされました。

さらに、「通常の使用及び収益」「賃借物の経年変化」の文言が抽象的であるため、国土交通省住宅局が「原状回復を巡るトラブルとガイドライン」を定め、その別表で通常の使用及び収益や賃借物の経年変化について具体的な事例を示して原状回復の範囲をガイダンスすることとしました。

例えば、「床」については次のような記載があります。

◆ 家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡 ‥‥ 賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるもの。家具保有数が多いという我が国の実情に鑑み、その設置は必然的なものであり、設置したことだけによるへこみ、跡は通常の使用による損耗と捉えるのが妥当と考えられる。

つまり、家具の設置による床やカーペットのへこみ、設置跡は原状回復の対象外ということになります。このように、ガイドラインによって住居退去に伴う色々な損耗・毀損について具体的事例を使って原状回復の範囲をガイドしています。


( 賃借人保護の観点からの裁判所の判断 )

また、民法改正の以前より裁判所は賃借人の保護に関する判断をしていました。例えば、平成17年12月、最高裁判所は賃借人の原状回復義務について、「賃借人が原状回復義務を負うためには、賃貸借契約書自体に損耗の範囲などについて具体的に明記されていることが必要である」と判決しました。

口頭ベースでの説明の場合は、「賃借人が内容を明確に認識して合意したと認められる必要がある」としました。つまり、原状回復義務は賃貸借契約上「特約」が別途必要ということになりました。

そして、この原状回復義務を負う旨の特約について、「通常の使用に伴い生ずる損耗の範囲」を具体的に明記する必要があり、あいまいな記載であれば特約の存在が認められないと判断されました。


( 家主からの原状回復請求が納得ができない場合の対応方法 )

このように民法が改正され、賃貸借契約終了時の原状回復義務について新しい規律が定められています。裁判所も賃借人を保護する判断を示しています。従って、次の手順で対応を検討していく必要があります。


(1)  賃貸借契約書に原状回復義務について「特約」が明記されているか確認する。

(2)  特約が書かれている場合でも、その内容が個別具体的に書かれているかを確認する。

あいまいな記載内容や抽象的な書き方ではないかを確認する。

(3)  特約の存在が認められた場合は、請求された明細書をよく確認して内容の妥当性を吟味する。

吟味にあたっては、国土交通省住宅局が作成した「原状回復を巡るトラブルとガイドライン」を参照して、請求項目の1つ1つの妥当性を確認する。

(4)  納得のいかない項目をリストアップして家主 (又は不動産管理会社など) と交渉をする。

このような段取りで家主と交渉して、原状回復費用を減額してもらうことになります。結果として、敷金の一部が返還される場合もあります。  

※このようなことから、住宅への入居時と退去時には室内の写真やビデオを証拠資料として収集しておくことが望ましいと思います。交渉時に役に立つと思います。


( 交渉が苦手な場合 )

自分で家主との交渉をすることが難しい場合で、どうしても納得できない場合は、請求金額が140万円以下であれば、裁判手続きを行っている「認定司法書士」に交渉を依頼することができます。

認定司法書士は、上記の手順で家主側と交渉 (「和解交渉」) を行うことになります。交渉が功を奏しない場合で裁判手続きでの請求を希望する場合は、認定司法書士に裁判手続きの代理を依頼することになります。

認定司法書士は、簡易裁判所に「調停の申立」や「敷金返還請求」等の訴訟を申立てて依頼者の訴訟代理人として裁判を行います。裁判をする場合で請求金額が60万円以下のときは1回の期日で判決の出る「少額訴訟」を申立てることが多いと思います。不動産管理会社の代理人弁護士等と裁判で争うことになります。


(まとめ)

民法が改正されて賃貸住宅の退去時の清算方法が従来に比べて賃借人に有利になっています。しかし、不動産業者によっては旧態依然とした事務処理をしている場合もあります。

賃貸住宅を立ち退く賃借人としては、請求金額について納得がいかない場合は、家主側と交渉してみることが必要です。退去する側としては遠慮する事は何もないのです。何も言わなければ敷金は戻ってこないと思います。積極的に行動して少しでも払い過ぎた敷金は返還してもらって下さい。

 

Follow me!